第5話

 とにかく普通にゲームをプレイしようと考えたサイゾウは傭兵ギルドに赴いた。そこで仲間を募ってクエストをこなしてレベルを上げて、普通にゲームをやってみようと考えたのだ。


 しかし、すぐにそれは無理だと悟ってしまった。


「相手にレベルがバレたらどうしよう……」


 サイゾウは自分のレベルを改めて確認する。


 プレイヤー名サイゾウ、種族はヒューマン、ジョブは弓兵。現在のレベルは104。レベルの内訳は種族ヒューマンLV1、弓兵LV1、スキル弓LV1、スキル短剣LV1、そしてスキル草むしりLV100である。ジョブ庭師LV10は称号『庭王』を獲得したことにより役目を終えたので設定していないため、合計レベルには含まれていない。


 ちなみにことゲームはジョブやスキルの付け外しが可能だ。不要なスキルと必要なスキルを入れ替えたり、ジョブチェンジしてレベルの上限に収まるように設定する。


 しかし、どう言うわけか草むしりLV100のスキルは外すことができなかった。バグなのか仕様なのかわからないが、とにかくサイゾウは困り果てていた。


「ダメだ、明らかにダメだ。ボクが超越者だってバレちゃう」


 自分が超越者であるとバレたら危険だ。なにせ超越者ではあるが草むしり以外のレベルは軒並み1、つまりは最弱最低なのである。もしバレてしまい相手に狙われでもしたらあっという間に死んでしまうだろう。


 となるとパーティーを組むこともフレンドになることもできない。最初にこのゲームに誘ってきたクラスメイト達ともすでにフレンド登録は解除されているので、現在のサイゾウのフレンドはゼロだ。


 そう、サイゾウはぼっちだった。


「どうしよう。ボク、このままずっと一人なのかな……」


 この広大なゲームの中でたった一人。ひとりぼっちでプレイしなければならないかもしれない。そう思うとサイゾウはなんだかものすごく心細くなり、すぐにでも誰かにすがりたい気分になってしまった。


「ダメだ。気分を変えよう。こういう時はクエストだ、うん」


 サイゾウは落ち込みそうな気分を変えるためクエストを受注することにした。けれどもすでに草むしりのクエストは削除されてしまっているので、別のクエストを選ばなければならない。


 掲示板に向かったサイゾウはそこに張り出されているクエストを確認していく。そして、その中に少し奇妙なクエストを発見した。


「『珍称号募集』? えっと、これってプレイヤーが発注したクエストだよね」


 そのクエストはゲーム側が設定しているクエストとは違い、プレイヤーが他のプレイヤーに対して発注しているクエストだった。足りないアイテムやモンスター討伐の手伝いなどをクエストとして発注し、協力者を募るのだ。


「依頼主は『メフィスト』さんか。内容は、☆5以上の称号を持っている方、私に見せてください。報酬は……。100,000ギルダン!?」


 サイゾウは目を見開き何度もクエストの内容を確かめる。


「見せるだけで100,000……。なんだか、怪しいけど」


 非常に怪しい。とても怪しい。けれど、サイゾウならばすぐに依頼を達成できるだろう。


 なにせサイゾウは草むしりマスターの称号を持っている。ちなみの草むしりマスターは☆10のレア度最上位の称号だ。


「うーん、報酬はいいけど。うーん、うーん……」


 サイゾウは掲示板を前にして悩み始める。腕を組み、顔をしかめ、顎に手を当て、頭を抱え、何度も唸りながら悩みぬく。


 そんな悩めるサイゾウに声をかける人物がいた。


「おや、貴殿もそのクエストに興味があるのですかなあ?」


 サイゾウは声の主に肩を叩かれ、ひぃっ、と短い悲鳴を上げて振り返った。


「ぬふふ、驚かせてすまぬすまぬ」


 サイゾウの肩を叩いた人物。それは腹の出た小汚いおっさんだった。


「おふふ、今、汚いおっさんだな、と思ったねぇ?」


 その小汚いおっさんはニチャァ、と粘っこい笑みを浮かべる。


「あ、あの、えっと、あなたは」

「ぬほほ、吾輩か? 吾輩の名は『油谷剛三郎』。よろしくよろしく、ぬぽぅ」


 油谷剛三郎と名乗ったその小汚いおっさんはフゴフゴと鼻を鳴らしてでっぷりと出た腹をポンと叩く。


「して、貴殿は?」

「え、あ、その、えっと」

「今、かかわりたくないなあ、と思ったねぇ?」

「う……」

 

 図星だった。正直、今すぐにこの場を離れたいとサイゾウは思っていた。


「ぬほほ、わかりますわかります。そういう風にキャラメイクしましたからなぁ。ぶほっ」


 そう言って剛三郎は腹を揺らしながらブホブホと笑った。


「たまには小汚いおっさんでプレイするのも楽しいと思いましてなあ。ぬほほほ」


 ずいぶんと特殊なプレイだな、とサイゾウは思いながら剛三郎の姿を眺める。


 剛三郎は本当に汚いおっさんの見本のようなキャラだった。脂でぺったりと頭に張り付いた薄い髪、薄ら笑いを浮かべたような肉の付いた丸い顔、でっぷりと出た腹、異様に細い腕と足。なんというか、サイゾウが想像する小汚い中年オヤジそのままのようなキャラクターだ。


「気分を害したなら失敬失敬。しかし、差別はいかんよ。小汚いおっさんでも一生懸命生きているのだからね」

「ご、ごめんなさい」

「うむ、よろしい。では、行こうか」


 剛三郎はなぜだか知らないがサイゾウの肩に手を回す。


「え、あの、なに」

「依頼主のメフィスト殿のところへ行くのだよ」

「で、でも、ボク、まだ引き受けるか」

「さあ行こう。依頼主が待っておるぞよ。ぬふ」


 剛三郎はサイゾウの肩をガッシリと掴み、そのままサイゾウを連行するように依頼主の待つ場所へと向かうのだった。

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