第3話 で、お前さんの称号は?
円卓の間にはいかつい面々が集まっていた。それに比べたらサイゾウはかなり貧弱だった。
「本当にこいつが超越者なのか?」
「ここに招かれているということはそうなのだろう」
「しかし、過酷な試練を乗り越えたようには見えません」
「なら、聞いてみればいいだろう。ここにいるのだからな」
サイゾウに4人の視線が集まる。その視線に怯えたサイゾウは体を縮こまらせる。
サイゾウが萎縮してしまうのも無理はなかった。なにせ明らかに場違いなのだ。
サイゾウ。種族はヒューマン。メインジョブは弓兵。使用できる武器は弓と短剣で、それぞれ弓スキル1と短剣スキル1を習得している。その容姿は特徴と言った特徴がない黒髪黒目の少年だ。ゲームのキャラクターなのだから美男美女にすれば良いとは思うのだが、草太朗はなんとなく自分の分身がイケメンだったり美少女だったりするのに違和感があり、サイゾウの見た目は現実の自分よりも少しだけ良くしている程度にしていた。
それ以外にもいじめっ子たちに馬鹿にされるのが嫌だったから、という理由もあった。このゲームに誘ってきたクラスメイトに「お前、そんな風にしたのかよ、似合わねえw」と笑われたくなかったという理由だ。
そのためサイゾウの容姿は全く持って普通で貧弱だった。装備も初期装備のままで、そんな人物がものすごく強そうな人たちの中にいるのだ。悪目立ちしてしまっても無理はなかった。
「なあ、えっと、サイゾウだったか? お前さんはどんなクエストをクリアしたんだ?」
そう話しかけてきたのは傭兵団『炎竜の牙』の団長であるゼルダインだ。種族はヒューマン。燃えるような赤い髪に真っ赤な全身鎧の体格の良い男性で、分厚い鉄板のような大剣を装備した重剣士である。
「えっと、その、草むしりを……」
「草むしり? それはなにかの隠語かしら?」
そう疑問を投げかけてたのは傭兵団『雪薔薇』の団長であるシャルロッテだ。種族はエルフ。雪のように白く長い髪と青い目をした女性で、青白いローブと長い氷の杖を持つ魔法使いである。
「いえ、その、草むしりを……」
「まさか、あの草むしりクエストか? 冗談を言っているわけではないだろうな?」
と疑ってきたのは傭兵団『烈風旅団』の団長であるコタロウだ。種族はライカンスロープ。薄緑色の髪とエメラルドブルーの目をした狼族の青年で、ジョブは忍者、その姿はまさに忍びの物と言った装いだった。
「あの、信じられないかもしれないですけど、本当に草むしりを、ですね……」
「冗談ではないようだな。しかし、草むしりとは、さすがに気が付かなかったよ」
最後に話しかけてきたのは傭兵団『大地の大槌』の団長のガイアある。種族はドワーフ。性別は男。ドワーフと言ってもその体格は普通の成人男性よりも少し背が低いくらいで、長く豊かな髭が特徴的ないかにもドワーフと言った風貌をしている。メインジョブは戦士である。
「あのどうでもいいようなクエストが鍵だったとは」
「キミ、よく気が付いたわね」
「いや、その、えっと、たまたま、偶然で」
褒められた。褒められるようなことをしていないので、なんだか物凄く居心地が悪い。
「で、どんな称号を手に入れたのかな?」
「しょ、称号ですか?」
「ああ。特別クエストをクリアすると称号が得られるんだ。それが超越者になるための鍵なんだよ」
「へ、へえ、そうなんですねぇ……」
言えない。まさか『草むしりマスター』なんて変な名前の称号だとは言えない。
「俺は『炎竜殺し』だ」
「私は『氷晶宮の主』ね」
「拙者は『烈風の支配者』だ」
「わしは『鉄の王』だ」
言えない。ますます言えない。草むしりマスターですなんて絶対に言えない。
「この称号には特殊な効果があるのよ」
「まあ、それは言えないがな」
「今後、敵同士となるかもしれん」
「おいそれと明かすわけにはいかんさ」
「そ、そうですね。そうですよねぇ」
「で、お前さんの称号は?」
なんで、なんでこんなことになってしまったんだろう、とサイゾウは後悔していた。ゲームの世界でなぜ草むしりなんてしたのだろう。もっと別のことをやればよかったのに。
「あ、その、えっと、草む」
「皆さん、お集りのようですね」
サイゾウが自分の称号を4人に明かそうとしたとき謎の声が聞こえ、円卓の間に見知らぬ人物が現れた。
「超越者の皆さん、初めまして。私はこのゲーム『エデンズフォール』のゲームマスターのひとり『ガンマ』と申します」
現れたのは黒いローブをまとった顔の見えない人の形をした何かだった。その何かはガンマと名乗った。
「ゲームマスターと言うことは運営関係者か?」
「はい。このゲームを開発運営している者の一人です。ゲームの雰囲気を壊さないようにゲームマスターを名乗っております」
「なるほど。その口調も雰囲気を壊さないための配慮でしょうか?」
「お客様に丁寧に接するのは社会人としてのマナーです。クレームを入れられても困りますのでね」
なんとうか現実的なんだな、とサイゾウは話を聞いて苦笑いを浮かべる。
「本日はお忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございます」
「ご、ご丁寧に、どうも」
「いえいえ。こちらこそ当ゲームをプレイしていただき感謝しているのですよ」
ガンマは深々と頭を下げる。
「さて、本日お集まりいただいたのは皆さまにお渡ししたい物があるからでございます」
「渡したい物? そいつはなんだ?」
「これでございます」
顔を上げたガンマは握っていた手を開く。するとその手の中には5つの指輪があた。
「これは『支配者の指輪』。皆様が超越者に至るための称号を得た『聖域』の所有者を示す物でございます」
聖域。サイゾウはあの地下庭園を思い出す。あの天国か楽園のような素晴らしい庭を思い浮かべる。
「この指輪を手にした者が聖域の主となります」
「そうかい。で、聖域の主になるとなんかいいことでもあるのか?」
「いいえ、今のところ特には」
「今のところ、ということは今後は違うと捉えてもいいのか?」
「はい。今後、追加コンテンツを実装予定です。どのようなものかはまだ秘密ですが」
ガンマの手のひらにある指輪に全員の視線が向けられる。
「では、お受け取りください。超越者の皆様」
ガンマの手のひらからふわりと指輪が浮かび上がり、それぞれの元へとゆっくりと飛んでいく。指輪はサイゾウのところにもやってきて、サイゾウの手のひらの上にふわりと落ちた。
「あ、あの、装備しても」
「もちろん」
了解を得たサイゾウは指輪を左手の人差し指にはめる。指輪は少し緩かったが、指にはめた途端にサイズが小さくなり指にぴったりとはまった。
「それでは皆様、本日はお時間をいただきありがとうございました。今後とも当ゲームをよろしくお願いいたします」
役目を終えたガンマは一礼すると一瞬で姿を消す。残された5人の超越者たちは自分の指にはめられた指輪をじっくりと眺めていた。
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