第2話

 オンラインゲーム『エデンズフォール』のレベルの最大は現在100である。もうすぐレベルキャップが解放され最大レベルが200となるが、それはまだ少し先のことだ。


 そんな中、先行して上限レベルが200に解放された者たちがいる。それが超越者と呼ばれる5名のプレイヤーである。


 サイゾウもその超越者の一人だ。しかし、それは意図してそうなったわけではなく偶然そうなっただけである。


 エデンズフォールのレベルは合算式である。種族レベル、ジョブレベル、スキルレベルの合計でそのキャラクターのレベルが決まる。


 種族レベルの最大は20。種族はヒューマン、エルフ、ドワーフ、ライカンスロープ、ドラゴンニュートの5種族から選ぶことができ、それぞれの種族で能力などの特色が違う。


 ジョブレベルの最大は10。メインジョブとサブジョブを選ぶことができ、剣士や弓兵、武闘家や魔法使いなどのジョブから好きな物を選ぶことができる。


 スキルレベルの最大値は5。スキルは現在発見されている物だけで500を超えており、未発見の物を含めるとまだまだ増えていくだろう。


 これらのレベルを組み合わせた物がそのキャラクターのレベルとなり、その合計を100に納めなくてはならない。このレベル制限の中工夫して強いキャラクターを作り上げるのがプレイヤーの腕の見せ所である。


 というレベルシステムをサイゾウもチュートリアルで教えてもらったのである程度は理解していた。だから、自分の状況のおかしさも理解できた。


 気が付いたのはサイゾウが超越者になるほんの少し前だった。


「スキルレベルの最大は5のはず。なのに、草むしりのレベルが6になった。どういうことだ? バグかな?」


 サイゾウはゲームをプレイし始めてからずっと草むしりのクエストばかりを行っていた。そして、その中でおかしなことが起こった。


「でも、こんな簡単なバグすぐに修正されるはずだ。なのに、なんで放置されてるんだろう?」


 スキル『草むしり』。ただ草むしりのスピードが速くなるだけの雑魚スキルである。人見知りで他人とのコミュニケーションが苦手なサイゾウは、他のプレイヤーと関わることなくずっと草むしりを続けていたおかげで、この雑魚スキルのおかしさに気が付いた。


「……どこまで上がるのか試してみよう。もし何もなかったらやり直せばいいし」


 このエデンズフォールと言うゲームでは比較的簡単にレベルのリセットが行える。ただし、レベルをリセットすると今まで稼いだ経験値がゼロになり、獲得経験値もしばらくの間2分の1となってしまう。だが、集めたアイテムや武器はそのまま持ち越すことができるため、最初からやり直しをするよりも楽にレベルを上げることができる。


 なのでサイゾウはスキル草むしりのレベルがどこまで上がるのか検証してみることにした。最悪、レベルをリセットしてしまえばいいと考え草むしりのクエストを続けた。


 そして、到達した。


 草むしりレベル100に。


「うーん、何も起こらないな……」


 スキル草むしりのレベルが100に到達した。そして合計レベルも100を超えた。


 しかしステータスの表記は100のままだ。種族レベルなどの他のレベルを合計すると100を超えているのだが、レベル表記は100のままなのである。


「やっぱりおかしい。どう考えてもおかしい」


 おかしなことが起こっていた。けれど、誰かに確認することは出来なかった。


「あ、あの、の、あ、あ……」


 変なことが起こっている、と誰かに相談しなかった。けれど、誰にも声をかけることができず、情けなさで肩を落としながらいつものようにギルドに向かった。


「……新しいクエストだ。えっと、『古の庭の草むしり1』か」


 いつものように草むしりのクエストを受注しようとしたサイゾウは、いつもの掲示板に草むしりのクエストがないことに気が付いた。そして、そこには別のクエストが貼られていた。


「ま、まあ、草むしりには変わらないよね。よし、受けてみよう」


 ということでサイゾウは新たなクエスト『古の庭の草むしり』を受注したのだった。


「えっと、古の庭は……。町の外れだ。嫌だなぁ、モンスター、でないよね」


 サイゾウはマップに表示された目的地に向かった。そして、無事にサイゾウは目的地にたどり着いた。


 そこは古い遺跡のような場所だった。そこには石壁に囲まれた円形の庭があり、その庭の真ん中には噴水が置かれていた。


「ここの草むしりをすればいいんだね。よーし、頑張るぞ」


 頑張ったところで何があるかもわからないのにサイゾウは頑張った。頑張って頑張って、遺跡の庭の草をすべてむしり終えた。


「そう言えばこのクエスト『1』って書かれてたな。じゃあ、『2』があるのかな?」


 草をむしり終えたサイゾウがそんなことを考えていると、その場でクエストが次に進んだ。


「『古の庭の草むしり2』。やっぱり続きがあったんだ」


 そのクエストは連続クエストで、1が終わると自動的に2が始まる仕様になっていた。


「よし、むしるぞ」


 サイゾウは次のクエストも受注してすぐさま次の庭の草むしりを始めた。そして、2が終わるとすぐに3が始まり、3が終わるとすぐに4が始まった。


 そして4が終わると最後のクエストが現れた。


「『草むしりマスターへの道』? まあ、よくわかんないけどここまで来たら受けてみよう」


 こうしてサイゾウは最後のクエストを受注し、マップの案内に従い遺跡の地下へと向かったのである。


「すごい、地下庭園だ……。」


 遺跡の地下に潜るとそこには庭があった。色とりどりの花が咲き、川や池まである立派な庭園だ。しかも地下のはずなのに昼間のように明るく、そこはまるで天国と錯覚してしまうぐらい美しい場所だった。

  

 だがそんな天国のような場所にも雑草は生えていた。サイゾウはすぐさまその雑草をむしり始め、あっと今に草をむしり終えたのである。


 そして、そのクエストを完了したと同時にサイゾウは超越者となったのである。


「プレイヤー『サイゾウ』のレベル上限が解放されました」


 草むしりマスターへの道。これが運営が言っていたレベルキャップ解放クエストの最後のひとつだった。偶然にもそれをクリアしたサイゾウは偶然にも超越者の仲間入りをしてしまったのである。


 そして今、サイゾウは現在ゲーム内に5名しか存在しないレベルキャップ解放者その一人に選ばれ、彼らが集まる超越者会議に招かれたのである。


「う、うわぁ。なんだか、すごそうな人ばっかり……」


 円卓の間に集められた面々を見渡しサイゾウは体を縮ませる。あまりにも場違いであり、加えて知らない人ばかりだったのでサイゾウは怖くて委縮してしまっていた。


 そんなサイゾウの耳にアナウンスが聞こえてくる。


「それでは超越者会議を始めます」


 アナウンスに従い、超越者会議が始まった。

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