草むしりレベル100

甘栗ののね

第1章

第1話 スキル『草むしりLV1』を習得しました

 超越者会議が開かれた。


「……なんでこんなことに」


 超越者。それはVRMMO『エデンズフォール』に現在5名存在するレベルキャップ解放者のことである

 

 エデンズフォールは半年ほど前にサービスを開始したオンラインゲームである。広大なマップ、豊富なスキルによる自由度の高い戦略性が人気を博し、サービス開始から半年が経った現在でも順調にプレイヤーを増やしている大人気オンラインゲームである。


 その中でたった5名しか存在しない超越者。その中に『サイゾウ』というプレイヤーがいる。


 本名『雑賀草太朗』。あだ名は『雑草』。年齢は15歳。今年高校一年生になったばかりの少年である。


 そんな草太朗のエデンズフォールでのプレイヤー名がサイゾウだ。まだゲームを始めて一カ月程度しかたっていない新米プレイヤーである。


 そんな新米のサイゾウがなぜ超越者の中にいるのかというと、もちろん彼もレベル100を超えた超越者だからだ。


 ただしサイゾウが超越者になったのは偶然である。そして、このゲームをプレイし始めたのも彼の意思ではない。


 時を少しだけ遡る。


 それは草太朗がサイゾウと言うキャラクターでゲームを始めた一カ月ほど前のことだ。草太朗は友達、というかクラスで彼をいじって馬鹿にしているグループの一人に誘われゲームを始めた。


 そいつは草太朗とゲームをプレイしたかったわけではなかった。そいつの目的はアイテム、新規プレイヤーをゲームに誘ってフレンド登録をするとアイテムが手に入るので、それ目当てに草太朗をゲームに誘ったのだ。


「おい、雑草。お前もやれよ。俺が教えてやるから」


 と草太朗はそう誘われてゲームを始めた。しかし、ゲームを開始してそいつとフレンド登録した時点で草太朗は捨てられ、フレンド登録も解除されてしまった。


「じゃあな。ま、せいぜい頑張れよ。雑草らしくな」


 と言った状況で草太朗はサイゾウとしてVRMMOの世界にたった一人で放り出されたのである。


 可哀そうな草太朗。だが、草太朗はゲームをすぐにはやめなかった。


「こういうゲームやったことないから、やってみようかな……」


 誘われて捨てられた草太朗はサイゾウとしてゲームをプレイすることを決めた。せっかくゲームのための機器を一通り揃えたのだから勿体ないと、そう思ったのもゲームをやろうと考えた一因でもある。


 だがしかし、彼はコミュ障だった。根暗の陰キャの引っ込み思案だった。


「あ、あの……。ああ、また声かけられなかった」


 一人でプレイするのは心細い。けれど知らない人に声をかけることもできない。


 そんな彼が出会ったのが『草むしり』だった。


「なんだろう、このクエスト。一人専用で、報酬は3ギルダンか」


 誰にも声をかけることができずに一人でプレイしていたサイゾウは、何かやってみようと勇気を振り絞りギルドへ赴いた。そこにはいろいろなクエストが存在し、その中で見つけたのが草むしりだった。


「モンスター討伐は怖いし、薬草採集でもモンスターは出るみたいだし。……これ、やってみようかな」


 なんだかよくわからないクエスト『草むしり』。その内容は民家の草をむしるだけの簡単なクエストだ。


 報酬はたったの3ギルダン。獲得経験値は0。モンスターなどは出現しないが、全くもって儲からないなぜ存在しているのかも不明な不人気クエストである。


 サイゾウはそのクエストを受けることにした。そして、すぐに終わった。


 なにせ庭の草をむしるだけだ。クエストは5分もかからず終わった。


 そのクエストが終了した際、これまたおかしなスキルを習得した。


「スキル『草むしりLv1』を習得しました」


 そんなアナウンスが聞こえてきた。サイゾウがステータス画面を確認すると確かに草むしりLv1というスキルが表示されていた。


 そのスキルの効果の内容は草むしりが速くなるというものだった。そして、それだけだった。


「なんだろう、これ……。まあ、いいか」


 とりあえずよくわからないので放置することにして、サイゾウは次のクエストをこなすことにした。


「うう、まだちょっと怖いし。……草むしりでもしてよう」


 そんなわけでサイゾウが次に選んだクエストも草むしりだった。


「スキル『草むしり』のレベルが2に上昇しました」


 そして、二回目の草むしりを終えるとスキルのレベルが1上昇した。


「……いや、まだ早いな。まだ、うん」


 というわけで三回目のクエストも草むしりを選んだ。


「スキル『草むしり』のレベルが3に上昇しました」


 そして、三回目のクエストを終えるとまたスキルレベルが上昇した。


「これって、どこまで上がるんだろう」


 おかしなスキル草むしり。レベルは草むしりのクエストをこなすとすぐに上昇する。サイゾウはなんとなくそれが気になって、その後も草むしりのクエストを受注し続けた。


 そんな風にサイゾウが草むしりばかりやっている中、エデンズフォールの世界ではとあることが話題となっていた。


「もうすぐレベルキャップが解放されるんだってよ」

 

 サイゾウがゲームを始める少し前、ゲームの運営からのお知らせで2ヵ月後にレベルキャップが解放され、最大レベルが100から200に上昇すると発表された。


 そのお知らせの中に興味深いことが書かれていた。


『特別クエストを攻略したプレイヤーは先行してレベルキャップが解放されます』


 とお知らせには書かれ、その特別クエスト発生のヒントも記載されていた。


 その特別クエストの数は5つ。そのうち4つのヒントは発表されたのだが、1つだけはノーヒントだった。


 プレイヤーたちはその特別クエストを探し出し攻略しようと動き始めた。そして、レベルキャップ解放1か月前までに4つのクエストは攻略され、4人の超越者が誕生した。


 しかし、最後の1クエストだけは未攻略だった。ヒントがない中、プレイヤーたちは時間と労力をかけてクエストを探し出し攻略しようと躍起になっていた。


 そんな時だった。最後の超越者が現れたのだ。


「クエスト『草むしりマスターへの道』を完了しました。称号『草むしりマスター』を獲得しました」


 草むしりマスターの称号。それが超越者への鍵だった。


「おめでとうございます。レベルキャップが解放されました」


 草むしりばかり続けていたサイゾウが最後の超越者となったのだった。


 

 

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