第4話 プラスチックガール
こういうのは基本、運動部から始まり、次に文化部、最後に無所属の個人という順番が
「えー、『全国料理コンテスト』料理部門金賞、
「はいはーい! つゆりでーっす!」
元気よく返事をした星宮がステージに上り、校長の前に歩いていく。彼女は医療用レーザー脱毛したほうがいいレベルで心臓の毛が剛毛なので、緊張のかけらも見せていない。なんなら
ほら、式典の最中だってのにステージの上でダブルピースしましたよ。
「はい、おめでとう」
星宮には校長から、賞状と副賞の片手サイズのトロフィーが手渡された。
「星宮さんおめでとー!」
「さすが星宮さん!」
「愛してるぜ星宮ー!」
「いよっ! わが校の星っ! 未来のシェフ!」
今まで式に無関心だった生徒たちのボルテージが一気に上がる。誰かが言い出した声が
「静かに! まだ式は終わってませんよ!」
教頭がマイクで静かにするように呼びかけるが、そんな程度では止まらない。星宮ブランドえげつない。星宮やばい。ほしみやばい。
星宮は軽くお辞儀をして、ステージの下にいる一般生徒に大きく手を振るとステージを降りた。わーお、ファンサ助かるー。
星宮がステージを降りても、星宮コールが止むことはなかった。教頭と校長は黙らせるのを諦めたのか、次の賞状を読み上げる。
「同じく『全国料理コンテスト』スイーツ部門金賞、
校長が賞状を読み上げた瞬間、エンドレスに続いていた星宮コールがすんっと
すると聞こえてくるんだよ。わざと聞こえるように言っているのか、俺が地獄耳なだけなのか。
「チッ」
「はい死ねー」
「んだよ、またお前かよ」
「しょーもな」
………………………………………………ッス――――――。
「………………ふへっ」
にへっと不格好に口角を上げると、校長は困惑しながらも俺に賞状とトロフィーを差し出した。
「お、おめでとう……」
「うす」
言われっぱなしなのは
賞状とトロフィーを無理矢理片手で持って、もう一方の腕をフリーにする。
人差し指と中指を、
くらえモブ共、これが俺の必殺技。
「ちゅっ!」
伝家の宝刀、投げキッス。これをくらって正気を保てた者は未だこの世に存在しない(俺調べ)。
水を打ったように静まり返る体育館。だがコンマ数秒も満たない時間で喧騒を作り上げる。
「調子乗んな!」
「料理しか取り柄ないくせに!」
「やめろー!」
「ぶーぶー!」
「死んどけカス!」
「かーえーれ!かーえーれ!土にかーえーれ!」
星宮のときに負けず劣らずの大声で
再び教頭が事態の収拾を図るが、青春真っ盛りの高校生たちには聞こえちゃいない。ドンマイ教頭。
ふっ。ここまで会場を盛り上げられたなら、俺は満足。
ほくほくの気分でステージを降りると、星宮が体育館のすみっこで
「小鳥遊くんってメンタル強いねぇ。やるじゃん。さっすが私が認めた料理人」
星宮は
「騒ぐってことは俺がすごいってことだからな。別に悪い気はしないさ」
事実、俺はすごい。何がすごいって超すごい。
朝早く起きれるし、ごはんは残さず食べるし、あいさつもしっかりできる。
……ふぇぇ。俺のすごいところ、小学生すぎるよぉ……。
俺があんまりすごくないことに気がついてしまったので、それから目を逸らさんと言葉を繫ぐ。
「それにしても、星宮は相変わらずの人気っぷりだな」
「そりゃ、私は天下無双のプラスチックガールですから」
腰に手を当て、むふーと胸を張る星宮。なんですかそのワード。
「プラスチックガール?」
思わず聞き返す。
「そ。すべてがプラスの女の子~」
「なんかちょっと環境に悪そうだけど、それでいいのか」
「生きてるだけで周りに影響与えられるなんて、最高じゃん」
星宮はぐぐっと両手を持ち上げ、伸びをした。
プラスチックが環境に与える影響、だいたいマイナスなんだけどな。と言おうと思ったのだが、こいつガチでプラス思考すぎて常識が通用しないのでやめておいた。かわりに一言。
「俺と関わってる時点で、結構なマイナス補正食らってるけど」
「あっはは、たしかに~。でも、私はそれでもプラスやで!」
星宮は右手でグーサイン。
星宮としょうもない話をしているうちに他の表彰が終わり、始業式のすべてのプログラムが消化された。
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