第8話 抜け出さない?

「曖昧なのって、一番苦痛だ……」


 あの場に居ると色々考えてしまうので、ドリンクバーに逃げてきた俺は頭を抱えていた。


 亜緡が何を考えているかは分かる。

 表情、声、そして態度。

 全て感情が表に出るタイプだからなおさら分かりやすい。


 そんなあいつをまだ俺は……と考えてしまうが、心のどこかでその気持ちにブレーキがかかってしまう。


 なにせ、ケンカ別れをして俺もあいつを嫌いなはずだった。

 しかし会っていつも通りに会話をしてみると、それは俺が好きになったあいつだったのだ。


 多少嫌悪感はあるけれど、それでも亜緡は亜緡のまま。


「俺にどうしろと……」


 溢れるくらいまでアイスティーを入れた俺は、一度深呼吸をして目を瞑ると、


「亜緡ちゃんと大丈夫そう?」


 後ろから声を掛けてきたのは那奈先輩だった。


「まぁ、なんとか大丈夫そうです」


「それならいいけど、相談ならいつでも乗るから頼ってくれてもいいよ」


「お気遣いありがとうございます」


 亜緡のことを事あるごとに聞いて来た那奈先輩なら頼ってもいいのだろうけど、この問題は自分で解決したい。


 多少の意見は貰うかもしれないが、それ以上のことは自分たちでなんとかしたい。


「せっかくの合コンが男子一人でハーレムだね」


 注いだアイスコーヒーにミルクを入れながら、那奈先輩はクスっと笑う。


「あいつら、いつになったら来るんですかね」


「さぁどうだろ? 空くんからLINEも来ないから部活で忙しいのかな」


「逃げたかもしれませんね」


「別れたカップルが現場に居るって、もう合コンなんてする雰囲気じゃないもんね。気まずいし」


「一番気まずいのは俺たちなんですけど?」


「まぁ当人はあの場所に居たくはないよね」


「こんな場所で会うとは思ってませんでしたよ本当に……」


 苦笑いを浮かべる俺。

 偶然にしては少し出来過ぎているとは思うが、まぁこれも運命ということだ。

 運命には逆らえない。


「そんなに気まずいならさ――」


 突然、那奈先輩は俺の肩を掴み、耳元で囁く。


「私と抜け出しちゃおっか」


「それって――」


 合コンで抜け出した男女が行く場所なんて一つしかない。

 まぁこの場を合コンと呼んでいいのかは俺も分からないが……って今はそうゆう話をしている場合ではない。


 俺、誘われてないか?


 ホテルに確実に誘われてるぞこの状況。

 よく見る展開だ。ドリンクバーで二人になり、どちらかが抜け出そうとする展開。


 そんな夢のような状況が、今目の前で起きてしまっている。

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