第7話 久しぶり

「そうだよ、ほぼ無理矢理だったけどね」


「断ればよかったのに。ただでさえ男子から迫られるの嫌いなくせに」


「先輩からの誘いを断れるわけないじゃん! しかも別れたからフリーでしょとか言われたら、私も断りづらくて……」


「今日はまだよかったな。俺しかこの場に居なくて」


「そっちの方が最悪なんですけど?」


「嘘つけ、ちょっと安心してるくせに」


「そりゃ見知らぬ人に囲まれるよりも知ってる人が居た方が誰だって安心するでしょうが!」


 図星な亜緡は、照れ隠しに怒鳴ってくる。

 その安心というのは、俺も感じていたものだから仲が悪くても共通認識だったようだ。


 一年弱も一緒に居ればな……安心感は抜けないものだよな。


「はぁ……来週のライブも一緒に行く人居なくなっちゃたし、マジ最悪なんですけど」


「何故ライブの話に?」


「そうえばなーって」


 俺と亜緡が知り合ったきっかけは、同じバンドが好きだったことだ。

 付き合う前も後も、ライブがある度にバンTを着てライブに足を運んでいた。

 来週あるそのバンドのライブを一緒に行こうと約束していたのにも関わらず、直前に別れてしまった。


「大丈夫。俺も行く相手いないから」


「別に男子がライブに一人で行ったって違和感ないじゃない。私みたいな女子が一人で参加なんて勇気が必要でしょうが!」


「いつも最初の曲が始まると、羞恥心なんて捨てて盛り上がってたやつが今更何を言うか」


「あんただって上裸でバンT振り回してたことあるくせに」


「しょうがないだろ。楽しくなっちゃうんだから」


「んなの私も同じだから!」


 テーブルから身を乗り出して、グーンと顔を近づける俺たち。


「……プッ……ハハハっ」


「フフっ……ホントあんたって」


 その様子がなんだかおかしくて、俺たちは同時に噴き出してしまった。

 懐かしさを感じるこのやり取り。


 亜緡と一緒に笑いあったの、久しぶりだな。

 最初の頃はこうやってバカなことを言い合って笑い合っていたのに、時が経つにつれて無くなっていた。


 別れてもう他人、というかいがみ合っているはずなのに、亜緡の笑顔を見ているとこちらまで嬉しくなってしまう。


 ちょっと高い笑い声が心地いいし、安心してしまう。



 変な意地なんて張ってないで、素直に俺も悪かったと一言いえばいいのに……。

 笑顔の裏で、ひっそりとそんなことを考えてしまう俺。



 どちらも意地っ張りだからぎくしゃくしてしまっただけで、お互いそれをちゃんと理解すればいい関係をこれからも築けるはずなのに。

 笑い涙を拭く亜緡のことを見ながら、俺は小さく呟く。









「バカだな、俺たち」

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