第4話 相手の気持ちに気付いてあげる

「うーん、それは黙秘を使ってもいい?」


「聞かれてマズイことがあると」


「それはどうかな~?」


 わざとらしく目を逸らす那奈先輩だが、それは余裕が伺えるものだった。

 この先輩、手強いぞ。何から何まで慣れている感じがする。

 聞き出すのも至難の業だな。


「それに私たち、亜緡ちゃんに口止めされちゃってるからねー」


「言ったらぶっ殺すって脅されてるまで言われてますから私たち」


 背もたれに寄りかかりながら遠い目をする那奈先輩と、怯える百瀬さん。


「口止め?」


「なんか色々とバレたくないみたいだよ? 私としては言った方が関係性が格段に良くなると思うんだけど」


「そんなに俺に隠すことがあるのか」


「私としても、本人の口から聞いて欲しいところだし、今日のところはヒントくらいにしておこうかな」


 ヒントから答えを導き出せる自信がない。

 なにせ、あいつを理解するのなんて今のままだと無理だからな。


 それなりに長く付き合っていて、あいつのことは知ったつもりであった俺だが。

 ここ最近の様子を見ていると、何も知らなかったんだなと思う。


「まー簡単なことだよ」


 那奈先輩は俺の唇に人差し指を当てながら、


「相手の気持ちに気付いてあげる」


 悟った顔を浮かべる。


「うんうん、先輩の言う通り」


 横に居る百瀬さんも、その言葉に頷いていた。

 気持ちに気付いてあげる……か。

 その情報だけだと何も分からない。まぁヒントだから仕方ないないことだが、もう一声何かあって欲しい。


「これ以上私の口からは何も言えないかな。ま、ほぼほぼ答えみたいなもんだけどね」


「これが答えって、難し過ぎません?」


「真鶴くんなら大丈夫だよ。すぐに分かる時が来ると思うから」


「来ればいいですけど」


「嫌かもしれないけど、亜緡ちゃんと向き合ってみることが大事かもね。これは私からのアドバイスだけど」


「向き合えと言われても……」


 あっちが向き合おうとしないんだから、もし俺が寄り添ったところで果たして意味はあるのだろうか。

 拒絶されておしまい、なんて可能性もある。


 確かに、お互いがお互いを知ろうとするのは大切なことだ。思ってみれば、別れる前の二ヵ月くらいはちゃんと亜緡に向き合おうとしていない自分がいたことは事実だし。


 ちょっとくらい、機会を設けてもいいかもしれないな。

 ジュースを飲みながら考えている俺に、百瀬さんは踏み込んでくる。


「真鶴くんはその、できれば復縁したいんですよね?」


「復縁……考えたこともなかったです」


 別れてから一度も寄りを戻したいなど思っても居なかった。

 もし復縁したところで、また同じ過ちを繰り返すのはごめんだからな。


 だったらいっその事、一年弱の間ありがとうございました、と綺麗サッパリ終わりにした方がいい。


 まぁ? あいつが自分に非があったことを認めてくれれば復縁も考えなくないんだが?


 俺と会った様子を見る限りそれはありえない。

 何かきっかけがあればいいとは思うが……自分から作りに行くのは嫌だ。俺にだってプライドくらいある。

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