第3話 小さい積み重ね

「ねね、私さ。真鶴くんと亜緡ちゃんの話をもっと聞いてみたいんだけど」


 俺たちの関係に興味津々な那奈先輩は、目を輝かせて聞いてくる。

 多分亜緡と親しいはずだから、話を聞いているだろうに。

 さっき自分でも言ってたくらいだし。


 まぁ別れたカップルなんて、言い分が違ってる場合があるからな。俺からも話を聞いて辻褄を合わせたいのだろう。


「何か聞きたいことがあるなら答えますけど、なんかありますか?」


「あるある! 山ほどある!」


「私も亜緡から嫌と言う程聞かされてたから、ちょっと気になるかも」


「それ何聞かされてたか超怖いんですけど……」


「ま、悪いことではないから安心して大丈夫だよ~」


 悪いことでないとなると、本格的に何を言われていたのか謎だ。

 あいつが裏で俺のことを自慢したり、褒めるなんてことは考えられない。


 仲が悪くなり始めたのはここ半年前くらいだから、その前ならあり得る話なのか。

 よく考えたら、亜緡と一年弱も付き合っていたのか……学生カップルにしては長い方。


 このくらい続いていたカップルは、そのまま末永く一緒に居るか、喧嘩別れしてしまう二択になる。

 俺たちも後者に当てはまってしまったただそれだけなのかもな。


「最初に聞きたいんだけど、真鶴くんは未練とかあるのかな?」


 チラチラと亜緡が帰ってくるのを警戒しつつ、那奈先輩は聞いてくる。


「未練……ですか。ほぼ無いに等しいですね」


「ないんだ……意外だね」


「あんなのに未練抱くやついないですよ。愚痴ばっかで一緒に居て気分悪かったんですから」


「愚痴かぁ。真鶴くんが亜緡ちゃんを嫌いになるくらいの愚痴を漏らしたんだ」


「どちらかというと、一撃が重いのじゃなくて、些細なやつの積み重ねと言いますか」


「それが我慢できなくて爆発! って感じだ」


「ですね。流石に俺も耐えきれなくなりました」


 段々と愚痴が多くなっていたことには気づいていたが、まさか喧嘩するくらいまでヒートアップするなんて俺も思っていなかった。


「真鶴くん自体にはさ、なんか問題みたいなのはなかったの?」


「俺は特に変わってないですよ。ただ、気になってたのは距離が遠くなった感じがしたことくらいですかね」


「と言いますと?」


「デートの時は手を繋いでたのに繋がなくなったり、学校帰りに会ったりなんてのもなくなりました。あとはキスとかも別れる二ヵ月前からとか全然しなくなりましたし」


「じゃぁ、ここ最近エッチも全くしてなかったんだ」


「んんっ……まぁ、そうですね」


 ツッコんだ質問をしてくる那奈先輩に、咳ばらいをする俺。

 結構際どい質問をしてくるんだな。あんまあ答えたくない質問もあるんだ……。


「ていうか俺も二人に質問したくらいなんですけど」


 流れを変えるためにも、質問返しをしようと目論む俺。


「真鶴くんも、亜緡ちゃんが私たちに話してた内容気になるかぁ~」


「当たり前ですよ。あいつ裏で何を言ってるのかこの際聞いてみたいですし」


 亜緡がいないうちに全部聞いてやる。

 内容によっては、納得して亜緡に謝るかもしれないし、怒って俺は帰るかもしれない。


 けど、聞く価値はある。

 あいつが、普段俺に思っていたこと。

 なんで距離が離れていったのかを、実際俺は知りたいわけだし。


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