第2話 ただのキレ症

 脳内で二人に切れている俺であったが、


「自己紹介は言い出しっぺから言った方がいいよね!」


 マイクを持つと、立ち上がる那奈先輩。


「私の名前は光山那奈(こうやまなな)。雲雀高校の三年でみんなより一個上なのかな? 趣味は料理をしたり、カラオケも好きでよく行ったりしてる! とりあえずよろしくねぇ~!」


 人前に出ることに慣れているのがよく分かる流暢な喋りに、圧巻されてしまう。

 一つしか年齢が変わらないのにはずなのに、遥かに大人っぽい那奈先輩。


 茶髪のロングヘアに、女子の平均より少し高めの身長。そして、制服の上からでも同年代の女子より二回りほど大きい胸。

 男子の理想をそのまま表現したような姿をしている。


「次は私でいいよね? えっと、百瀬菊名(ももせきくな)です。私も二人と同じ雲雀高校で、亜緡と同じクラスです」


 次にマイクを持つのは、同級生だという百瀬さん。

 黒髪にピンクアッシュがあしらわれている奇抜な見た目をしているが、想像以上に口調が落ち着いている。


 那奈先輩に百瀬さん……どちらも高校ではトップレベルの可愛さを誇っているに違いない。

 その二人の横でムスッと膨れっ面の亜緡とは大違いだ。


「ん、次は亜緡の番だよ」


 順番的に次の亜緡にマイクを渡す百瀬。


「はぁ? なんで私までやらなきゃいけないの? あいつが私のこと知らないわけないじゃん」


「そうだけど、流れで?」


「菊名……それ、空気読めないって言うんだよ」


 確かに、空気が読めていないと俺も首を縦に振ってしまう。

 どちらも、俺たちが付き合っていて先日別れたことくらいは知っているはずだ。

 でなければ、亜緡をそもそも合コンになんて誘わないだろう。


「亜緡ちゃんはいいとして、真鶴くんは私たちに自己紹介して欲しいなぁ~」


 テーブルに頬杖を付き、じーっとこちらを見てくる那奈先輩。


「俺……ですか」


「そうそう。真鶴くんのことは亜緡から色々聞いてたけど、改めて知りたいなーって」


「学校でよく話してたもんね。本当に自慢の――」


「あぁー! 二人ともそこまで! もう何も言わなくていいから!」


 百瀬さんに被せるように、マイク越しに大声を出す亜緡。

 その声は部屋に反射し、キーンと鼓膜を刺激した。


「お前、いきなりデケー声だすなよ。ただでさえうるせーんだからマイクなんて使うな」


「うっさい! あんたは一回黙ってて!」


 理不尽にキレられてしまった。

 なにか言われたくないことでもあったのだろうか。


 那奈先輩、亜緡が学校で俺のことを話してたとか言っていたが……百瀬さんもそれ関連のことを口にしようとしていた気がする。


 それを察した亜緡は、急いで止めに入ったと。

 なにか裏がありそうだな。亜緡が俺に何かを隠しているに違いない。

 二人とも、もし愚痴を散々聞かされていたというなら本当に申し訳ない……。


「あぁ~なんかモヤモヤしてきたから私トイレ行く!」


 バッと亜緡は立ち上がるとドアの方へと向かう。

 おいおい、俺を一人にする気か?

 初めましての女子と俺を残すのはよくないと思うぞ?


 いくら俺も亜緡が気に食わないとはいえ、この場に居てもらわないとなんか不安になってくる。


 まぁ……一応、元々は信頼していた人だし、なんだかんだ安心感があるからな。


「おいちょっと――」


「那奈先輩に菊名! こいつに変なこといったらただじゃおかないからね!」


 言いかける俺であったが、最後に二人に釘を刺すと、そのまま部屋を出て行ってしまった。


「あれま。亜緡ちゃん行っちゃったよ」


 ポカンとした表情をする那奈先輩に、


「短気なのか、ただのツンデレなのか……もう私にはサッパリですよ」


 と、呆れた様子の百瀬さん。


「あいつはただの短気ですよ。連絡を少ししなかったり、ちょっと女子と話しただけでキレてくるんですから」


「それはツンデレだからじゃないですか?」


「いや、愛情表現すらないんですよ? のくせに俺が好きとか言わないと理不尽に怒ってくるし」


「だからそれをツンデ――」


「こらっ! それ、絶対に亜緡ちゃんと真鶴くんの前では禁句だからね」


 那奈先輩が百瀬さんの頭にチョップをする姿に、俺は小首を傾げる。

 あいつがツンデレ? そんなわけない。


 ツンデレだったらデレがあってもいいはずだ。あいつはそのデレが一ミリもなかったからな。


 ただの愛情欲しがりなだけのキレ症だ。

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