人数合わせで呼ばれた合コンに参加したら元カノが居た

もんすたー

第1話 合コンと元カノ

「真鶴⁉ なんであんたがここに居んのよ!」


 ここは、合コンが行われているカラオケの一室。

 女子が待っている部屋の扉を開けた俺、三月真鶴(みつきまつる)には、歓迎の声ではなく絶叫が待ち構えていた。


「げっ……なんでお前がここに居るんだよ……」


 その場に居たとある女子と目が合った刹那、俺の顔は引き攣る。

 嫌ほど目立つ金髪ボブに、小柄で童顔のいかにも男が好きそうな見た目。


 俺を見るや否や、嫌悪の目を向けてくるその女子は、つい先日別れた俺の元カノである尾道亜緡(おみちあみん)。


 友人に呼ばれて渋々参加した合コンには、元カノが居たのだ。


 こんな偶然あり得るのか? 実際こうして目の前で起きているということはあり得る話だからなのだろうが……。


 いやいやそうゆう問題じゃない! 普通に考えておかしいだろ!

 別れたばっかの人間が合コンに参加するのか?


 俺にもその言葉が刺さるからそこにはツッコめないけど、この状況は修羅場ということに間違いはない。


「最悪……あんたのせいで一気に冷めちゃったんですけど」


 耳にこびりついている亜緡の甲高い声が、カラオケルームの中に響く。


「俺だって気分悪いわ。やっと解放されたと思ったのにこれかよ」


「はぁ? どっちかというと解放されたのは私の方なんですけど?」


「あ? どの口でそれを言ってるんだ」


「この口ですけど何か?」


 バチバチと睨み合う俺と亜緡。

 つい最近まで付き合っていた俺たちの仲がこんなにも悪いのには理由がある。


 小さい我慢の積み重ねが原因でケンカをして、話し合いもせずに別れたことだ。

 例えば、LINEの返信が少し遅れたり、連絡事項などを女子と会話をしただけですぐに怒ったり。

 そのくせに、俺を好きという気持ちを言葉にも行動にも少ししかしてくれない。


 亜緡とは中学が同じで、卒業式の後に付き合うことになった。

 しかし高校は違う為、ただでさえ会う頻度が少ない。

 だからその分、電話だったり会った時に愛情表現をしてくれてもいいものの、こいつはいわゆるツンデレ気質があるため、滅多にしなかった。


 稀にしか見せないデレが可愛かったのだが、流石に亜緡への気持ちが冷めてしまいそうだった。

 こうして我慢に我慢を重ねた結果、この状態になっているというわけだ。


 そのおかげで、合コンという男女がワイワイと盛り上がるべき場所には、不穏な空気が流れている。


 こうなったのも、そもそもは全て友人である綿瀬空(わたせそら)のせいである。

 この合コンを仕組んだ張本人で、尚且つ最初は断った俺を半ば強引に連れてきた元凶。


 その癖に……俺の隣にそいつは存在していない。

 もう一人の友人と部活が終わり次第合流してから行くと電話したきり、連絡が途絶えてしまったのだ。


 もしかして、こいつに仕組まれたかもしれない。

 亜緡がこの場にいることを最初から知っていて、わざと俺を呼んだ可能性が浮上してくる。


 もしそうだとしたら、明日学校で会った際にグーパンが飛ぶことだろう。

 そう思ってる刹那、スマホに一件のメッセージが入ってくる。

 送り主は、件の空。


『今、そっちにいる那奈先輩から聞いたんだけど、亜緡が居るってマジ? 俺、先輩から女子のメンツを全く知らされてなかったから』


 とのタイミングがバッチリの用件だった。嘘じゃないマジ! と念まで押して来ている。


 もう怒るのも面倒くさくなってきた。

 空に電話して問いただしたとして、この状況では全く意味を持たないしな。


 今すぐにでも帰りたい気持ちがあるが……帰ったとして場の雰囲気が悪くなるのもアレだし、亜緡に逃げたとか言われそうなのがムカついて仕方がない。


 それはあいつも同じことを思っているはずだ。

 だから、この場で俺が取る最適な対応は、無理矢理にでも笑顔を作って、この合コンをスタートさせることだ。


 あとは流れに任せれば、他の人がこの雰囲気をどうにかしてくれるだろう。

 問題があるのは、俺と亜緡だけなんだからな。


 とはいえ、男一人の合コンとは呼べないハーレム空間。

 どう攻略すればいいのやら。

 とりあえずは様子を見つつ行動するのが最適案だろう。


「ま、まぁ集まったことだし……始めますか」


「結局参加するとか、ただ女と遊びたいだけじゃん」


 その場の雰囲気を回復しようとしている俺に、いちいち突っかかってくる亜緡。


「あのな、このままだとみんな気まずいんだよ。それを分かってるのか?」


「んなの分かってるわよ。私だってあんたが居るおかげで超気まずいし」


「全然分かってないじゃんかよ」


 なんで余計な一言を言うかな。

 そんなに嫌なら自分が出て行けばいいものの、俺にばっか当たって場を和ませようとしているのに気分が悪くなる。


「ま、まぁまぁ二人ともそこまで~!」


 俺たちに会話をさせると、また不穏な空気が流れること察した一人の女子が仲裁に入ってきた。

 亜緡の隣に居た彼女は、


「ほらほら! せっかくみんな集まったんだし、今日だけでも仲良くしよう?」


「那奈先輩……。その気持ちは分かりますけど、普通に無理ですって」


「大丈夫! 亜緡ちゃんと真鶴くんが喋らなきゃいいだけだからさ?」


「物理的に無理じゃないですかそれ」


「私とかひまちゃんが真鶴くんと話せばいいんでしょ? それで、亜緡は他の男子が来るまで歌ったりスマホ見たりしてればいいじゃん。ほら、解決」


「でも……」


「大丈夫! 私に任せて!」


 困惑している亜緡に胸を張るのは、那奈先輩と名乗る人女子。

 空のLINEの文章を見るに、この人が連絡を取っていた人物で間違いないだろう。

 同級生の亜緡と空が先輩と付けて呼んでいるから、年上ということも伺える。


「とりあえず、自己紹介からしない? 初めましてだからね」


 と、俺に向けて那奈先輩とやらはウインクをしてくる。


 場を保ってくれる人が居て助かった。

 こうゆう人物がいないと、解散になっていたかもしれないし。

 楽しみにしていた空ともう一人の友人である陸斗に申し訳ない結果で終わってしまうところだった。


 亜緡を除く、二人の女子も楽しみにしていただろうし。

 男子二人は遅れて来る時点で本当にこの日を楽しみにしているのかと疑問に思う部分はあるのだが……。


 ちゃんと予定をしっかり組めよな!せめて部活が無い日とかにしろよ!

 なんで人数合わせで呼ばれた俺がぼっちにならなきゃいけないんだ!


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