第19話 一階層?

「――お、お疲れ様です! 村長!」


「お疲れ様です。変わりはないですか?」


「は、はい。そこのドラゴンを除くモンスターの姿、また気配すらなく平和そのままで」


「そうですか。それは良かったです。定時まではまだありますが引き続き頑張ってください。なにかあればすぐに他で営業所中の方と交代もできますから」


「はい! お心遣い感謝致します!村長は……冒険者の方々にレクチャーですか?その、分かっているとは思いますが、くれぐれも2階層には……。この前のこともありますし……」


「いくら私だって物欲よりも命ですよ。安心してください。それよりもこちらの方々の顔をしっかり覚えておいてくださいね。何度も何度も入場時にチェックをするのは失礼になりかねないので」


「は、はい! 分かりました!」


「はは!元気があって素晴らしいですね!さっ、お2人ともこちらへ。それで……申し訳ないのですがそこのドラゴンと男性は入場できなくてですね……」


「大丈夫です! ここ、ダンジョンに入れなくても色々楽しめそうじゃないですか!アルク、ローズ様! 俺はここの人たちにドラミを紹介しながら交流しておりますので、一段落したら一緒に宿に向かいましょう! くふふふ、今晩の晩酌は楽しみにしておいてください! ではっ!」


「ぎゃおおおぉおおぉおんっ!」


「晩酌前に酔い潰れてなければいいのだけど……」


「あははは!浮かれるのも無理はありませんよ。入り口周辺は特に名高い冒険者様たちに気に入って貰えるよう最高のおもてなしをしようと力が入っていますから。あ、でも手に入れたものは私共が1番いい値で買いつけますので。それだけはお忘れなく!」


「わ、分かりましたわ」


「ではでは改めてダンジョンに入場しますよ、着いてきてください」



 村の反対口から出て十数分。


 小池を右に見つつ適度に舗装された道を進むと正面に祠のような古びた大きな建造物、その周辺には屋台というには大きすぎる店がひしめき合い、活気だけならばむしろ村よりもあるだろう空間が作られていた。



 そんな年中御祭り気分のそこを抜けて古びた建造物の前に立つ1人の男性が道を開けると、村長はその先に見える戸を開けた。


 するとあったのは先が見えない幅の広い階段。


 ここまで感じることのできなかった嫌な気配。



「『匂い』……ね。アルク、あなたの言っていたことなんとなく分かったわ」


「ここまで来ると流石にお前も気付くか……」


「どうしました?おいていっちゃいますよ!」


「村長は気付いてないみたいね」


「きっとレベルが影響しているのだろう。あの村長はレベル10だったからな」


「レベル差ね……。一体何との差なのかしら? ……まあここで考えても仕方ないわ! 早く行きましょう!じ ゃないと村長さんがモンスターに食べられちゃうかも」


「それで喜ぶ村民もいるかもしれんな」


「あなたなかなか辛辣な冗談言うわね。いくら村長があんなのとはいえ……」


「冗談じゃない。微かだがあの村長にも匂いを感じた。それに……」


「それに?」


「……いや、なんでもない。気にするな」


「そう?何かあれば私にもちゃんと教えなさいよ」


「……ああ、分かっている。それよりもまずは釣りだ。村長には絶好の釣り場を案内させなくては」



 強ばった顔をごまかすようにアルクは私を追い抜いて村長のもとへ。



「本当に何もなければいいんだけど……。一応移動速度上昇のポーション出しとこ」



 そうして私たちは不安と期待を抱いたまま広くて長い階段を少しだけ早足で下っていき……。





「――ここがダンジョンの一階層になります。モンスターの平均レベルは20前後。この線から出れば途端に襲ってきますので気を付けてくださいね。……にしても今日は多いな」


「こ、これ……」


「広くて高い洞窟で……ダンジョンというよりもモンスターの巣だな。しかしそれよりも気になるのはこの場所と……あの数字。明らかに外とは違う」



 私たちは途端に大量のスライムにまるで歓迎されているかのように囲まれてしまったのだった。

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