第14話 ギルマスとガリア嬢?

「――さて、2人の新しいプレートを用意してあげないとね」


「ですね。それで……ギルドマスターは2人の強さをどう感じましたか?」


「うーん……強いのは強いとして、アルク君からはこう、ただならないオーラみたいなものを感じたよね」


「ですよね。今までただ釣りをしていただけなんて不思議なくらい。ちなみに女性の、ローズさんはどう思いました?」


「普通。だけど、ちょっと変わった匂いがしたかな。あ、もちろん香水とかそういった意味じゃなくてね」


「それはきな臭さ、ですか?」


「あはは、それもあるかな。でも、それよりももっとドロッとした感じの……。うーん。説明は難しいんだけどちょっとあいつらに似て……いいや、それはあまりにも彼女に失礼かな」


「?」


「ともあれ、2人には期待しかないよ。魔族の手はすぐ側まで迫って来てるそんな気がするからね」


「魔族……。当然そのことも含めてのダンジョン依頼ですよね?」


「そうだよ。ガリアさんの言う通り。さっきのドラゴンも含めて通常ここ一帯では現れることがなかったモンスターの発見が相次いでいる。そしてその多くは……」


「ダンジョンのモンスターと類似していると」


「ダンジョンからモンスターが逃げ出している。あるいはダンジョンの形態に異変が起きている。そしてそれができる存在は大方……」


「魔族、ですよね?」


「うん。でも今回はゴールド級冒険者にも依頼を任せたことのある低レベルのダンジョンで、魔族の気配はなかったから安全だとは思うよ。まぁ今回はなんというか、緊急時に備えての訓練って感じになるだろうね」


「そもそもダンジョンは魔族がいるいないに限らず複雑な地形や罠、特殊なモンスター、結構慣れが必要ですものね」


「そうそう! だから本当はいっぱい冒険者を突っ込みたいんだけど……彼らくらいの実力、あんなドラゴンを連れまわせるくらいの実力者じゃないと死んじゃうもんね。あーだこーだ言ってダンジョンの侵入許可を高尚なものみたいにしてはいるけど」


「いやいや、実際高尚なものだと思いますよ。だってそれは強さと信頼を獲得したという証明になるんですから! 私も初めてダンジョンに潜ったときは嬉しかったものです。それに、強いモンスターを休む暇なく殺せるなんて私にとってはご褒美で……」


「あはは、ガリアさんはとことん戦闘狂だね。怪我さえなかったらどんなに活躍していたか」


「その怪我を負わせた相手こそが魔族だったんですから、活躍していたということはないですよ」


「……。申し訳ないね、そんな君にこんな仕事を頼んでしまって」


「いいえ、むしろ嬉しいですよ。どういう形であれ魔族に対抗する機会を得られたのですから」


「そうかい。そう言ってもらえると気が楽だよ。……いやぁ、にしても緊張を悟られないのは大変だね」


「緊張ですか? 私はもうわくわくでそんな暇もありませんでしたが」


「肝っ玉が据わってるなあ。これも魔族と直接接触してる人との違いなのかな? 僕なんかあのドラゴン、『レベル1000』なんてのを見た瞬間ビビッてちびりそうだったのに。鑑定のスキルに特化したことでかなりレベル差を気にしなくなったのがまさかマイナスに働くなんて思いもしなかったよ」


「無知が幸せだってという人の気持ちも分かりますね。というか、あれレベル1000もあったんですか……。私には進化済みでレッドワイバーンからレッドドラゴンになったということしか分かりませんでした。あれ? ということは……」


「アルク君のレベルもそれに近い可能性があるね。いや、僕の鑑定スキルでもステータスが見れないことを考えればそれ以上の可能性も……」


「1000以上……。強い強いとは思いましたがまさか……」


「当然違う可能性も大いにあるよ。僕たちが知らないスキルや職業がこの世にはまだまだたくさんあって、未だにその報告が絶えないわけだから」


「そ、そうですよね」


「なんにせよ、2人の動向を観察しつつ一先ずは若手の育成に励もうじゃないか。さっきのゴールド級冒険者のパーティー、あの子たちもなんだかんだ良い顔つきだったしさ」


「ええ。だからこそドラゴンの討伐依頼が絶えず彼らにあるんだと思います。アダマンタイト級になるだけなら彼らの方が早いかもしれません」


「王道のパーティーでルックスも話題性もある。きっと彼らの方がが看板となって人気も出るかもね」


「それはそれで嬉しいことですよ。そっちの線でもギルド全体が盛り上がるわけですから」


「うん。……あーっ! 表と裏、どっちも楽しみになってきた!!」


「はい。えっと、それじゃあ通常業務に戻ろうと思うんですけど……」


「けど?」


「さっき一件でギルドの床に穴ができまして、その費用なんですが――」


「いやいやいやいや。なんで外で戦ってただけなのにそんなことになるのさ!! ……アルク君たちには今後さりげなく難易度の高そうないろんなダンジョンの依頼をあてがってやって」


「了解です。魚で釣り人を釣ってやりますわ! そうだ! そのためにいろんな魚の資料を集めておきましょう! 実はこれまで適当にアルクから買い取っていた魚、あれについても調べたいと思っていたんですよ!」


「適当に買い取りって……ガリアさん、あなた――」


「ギルドマスターっていいながらのんびりマイペースに冒険者を甘やかし続けた挙句貧乏ギルドにさせた人が口ごたえするんですか?」


「……。す、すみません。もう口ごたえしません。だから昼ごはん僕の分だけ作らないとかはやめてください!」

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