第15話 妹?
「――ただいま! 今日は飲むわよ!!」
「お、お姉ちゃん? も、もう帰ったの? 遠出するから数日は帰らないって……」
「なあに? 嫌だったわけ? せえっかくあなたの好きなお肉もいっぱい買ってきたって言うのに……。あーあ、お姉ちゃん悲しい」
「ご、ごめんなさい! 嫌じゃない! 嫌なわけない! ……今日も無事でよかった」
「ふふ、心配し過ぎよ。私は上級冒険者! そう簡単には死なないから! ほらほら、ご飯の準備するわよ」
「う、うん。でもお姉ちゃんは料理苦手でしょ? とびきりのお肉が炭になっちゃ勿体ないからいつもみたいに休んでて」
「むぅ。正直なのが全部いいとは限らないのよ」
「……。私はその素のお姉ちゃんのほうが好きだけどなあ」
「そう? やっぱり変わってるわねあなた」
「お姉ちゃんほどじゃないよ。こんな役立たずな私をここに住まわせるために無理矢理自分でパーティー組んでメンバーに引き込むんだもん」
「だってどこ生まれで年齢だってよく分かってない片碧眼の女の子なんて……普通にしてたら盗賊並みに虐げられかねないでしょ」
「……。そうだね。本当にありがとうプラチナ級のお姉ちゃん」
「ふふ、実はそのことなんだけどね……ってもう料理場行ってるし……。まったく、相変わらず恥ずかしがり屋さんなんだから。……ま、そうなるのも仕方ない、か」
お姉ちゃんなんて呼び方をしてくれてるけど、血のつながりはない同居人『リリ』。
数年前、たまたまハイエナ行為で狙ってたダイヤモンド級冒険者パーティー。
そんな上級冒険者パーティーが訪れたのが魔族に荒らされたばかりの村だった。
村は人の死体、それを食らうモンスターたちで溢れかえって地獄のような光景が広がっていた。
生き残りなんて存在するわけがない、誰もがそう思ったその村にいたのがリリだった。
村を襲われたせいなのか記憶が曖昧で名前くらいしかろくな情報はないし、なによりもその右の瞳の色は魔族に多く見られる碧色だったことでその冒険者パーティーが手を差し伸べることもなかった。
そんな可哀想な姿を放っておけなくて、私はついついこの子、リリを連れ帰ってあれこれ生活できるように整えてあげたってわけ。
とはいえあの瞳を見るだけで怖がる人がいるせいで外に出ることはほとんどなくて、普通の暮らしとはいいにくい状況だけど。
「私のこと毎回心配してくれて、料理も出来て、ステータスも問題なし。ただのいい子なんだけどなあ。……。ま、そんな杞憂もそのうち無くなるわよね。だってだって……」
――ポンッ!
「今日から私、ダイヤモンド級なんだから!! ……っくあ!! うんまあ! やっぱりお酒はガラス瓶に入ったキンキン冷え冷えに限るわよね!!」
「お姉ちゃん!! 瓶にそのまま口をつけるのはみっともないからやめなさいっていつも言ってるでしょ!」
「えっ!? りょ、料理始めてたんじゃないの?」
「あんなに豪快な栓抜きの音を響かせてれば嫌でも気づくってば!」
「あ、ははは……。でもほらダイヤモンド級に昇格したんだからこれくらいいじゃない! 無礼講よ無礼講!」
「ダイヤモンド級!? 凄いじゃない!!」
「そうよお! お金だってたんまりで、なんとなんとダンジョンにだって入れるのよ!」
「だ、ダンジョン……。す、凄いね。……おめでとう! でもお行儀が悪いのは駄目なんだから! そういうのは野蛮な人がすることでしょ!! コップとってきてあげるから!」
「あ、ありがと。……。ダンジョンは流石に心配を掛け過ぎることなのかしら? あんな顔、始めてきたかも」
ちょっとだけあった変な間。
それに違和感を感じたものの、私は喜びと将来の希望を噛みしめながら気持ちよく酒に酔っていって……。
「――あー、頭いたあ……」
「もう。だから飲み過ぎは良くないって言ってたのに」
「え、へへへ……」
何度目か分からないお酒の失敗を叱られるのだった。
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