第13話 野次?

「――ダ、ダンジョン……ってすごいじゃないですかお2人とも!! 知り合い、いや、友人としてこのエリオットも大変嬉しいです!!」


「御者のお兄さんも知ってるのね、ダンジョンのこと」


「そりゃそうですよ、ローズ様!! ダンジョンに入れる名誉を知らないなんてもうもぐり呼ばわりですよ!! 低いランクでも入れることはあるといってもそんなのあり得ない確率だって聞きますし……。これは……俺みんなに広めてきますね! あ、勿論話を汲んでローズ様だけ自慢しますから!」


「ちょ、ちょっと! そんな勝手に! アルクも止めた方がいいんじゃないの!?」


「……。あ、ああ、そ……いや、その必要はないだろう。あいつは最初からローズに心酔してるようだったからな。それに、よくよく考えればそんな話題になることもないだろ」


「ま、まぁあなたがそういうならいいんだけど……」


「それよりもパーティーのリーダーはローズ、いいや、ローズ様が決めること。俺は構わないからサインを頼む」


「う、うん」



 今までと違って少しソワソワとした様子のアルクに促されて私は依頼書に自分とパーティーのサインを書く。



 ……思えばこのサインを使ったのいつ以来かしら。


 もうほとんどあの子のためにしか私のパーティーって機能してなかったから……。



「うんうん! 確認したわ! それじゃあ頑張ってね! ダンジョン入口にいる見張りにはこっちから連絡しておくから! 場所は……流石にどっちかが知ってるわよね?」


「はい。一応。あ、そうだ、ついでにアルクを正式にパーティー登録したいんですけど」


「あら? まだしてなかったの? 仲良しさんだからてっきりもう登録済みなんだと思ってたわ」


「仲良しさんだなんて! 今日会ったばっかりですよ、私たち。ねえアルク?」


「そうだ。いろいろあって仲間にしてもらった。まったくローズ様の人の好さはこっちが心配になるほどです」


「は、はは。ありがとね」



 あからさまな嘘。


 揶揄ってるのか分からないけど、こいつのこれあんまり好きじゃないわ。



「……。あやしさ満点ね」


「え? 何かおっしゃいましたか、ガリアさん」


「いいえなにも。えっと……それじゃあこっちの登録用紙にも改めてパーティー名と新しく加入するメンバーの名前を書いて頂戴」


「はい了解です」


「それとランクアップについてなんだけど、プレートは明日までに用意するからちょっとだけ待ってて頂戴」


「あ、は、はい。ありがとうございます」


「こっちこそ、依頼を受けてくれてありがとうね。そうだ! ランクアップおめでとう」


「は、ははは」



 不気味なくらい大袈裟な笑顔を振りまくガリアさんに私たちはゆがんだ笑いを返すと手続きを済ませてギルドマスターの部屋を出た。



「ふぅ。あーっ疲れた」



 ガリアさんの様子とかギルドマスターの優しい表情とかがかえってつらいのよ。



 2人とも彰様に疑ってる様子だったし……。


 ここまで良いことづくめだけどあんまり喜んでボロが出ないよう気を付けないとね。



「さて、一旦家に帰りましょうか。アルク、あなたも疲れたでしょう?」


「ああ。明日からのダンジョンに向けて俺も早く休みたい」


「明日って!? それはせっかちすぎない?」


「魔族の気配が日に日に高まっている、気がする。一層強くなれることが確約されているといっても過言じゃない今の状況に気が走るのは仕方のないことじゃないか? それにダンジョンは『前々』から気になっていたからな」


「それってダンジョンで新しい魚が釣れるからってことよね? 気になったんだけどなんであなたは入ったこともないダンジョンの魚について知っているの?」


「ああ、それは……この図鑑が」




「――おっ!! 来たぞ来たぞ!! ダンジョン入場許可の下りた冒険者とそこでも魚を釣ることしか考えてない変わり者が!」




 アルクがスキルを用いたのかどこからともなく一冊の本を取り出した時、丁度ギルドのロビーに到着した時、いきなり酔っ払った一人の男性冒険者が野次を飛ばしてきた。



 もうダンジョンについて噂が立ったってことは……御者のお兄さん、エリオットさんは本当に仕事ができるのね。



「ちょ、ちょっとその言い方はあんまりじゃないですか!? ち、違うんです! 俺はあくまでアルクさんのことも考えて簡単な釣りの依頼を受けたとだけ……」


「……構わない。むしろこの方が都合がいい。それじゃあ俺はもうお前たちと別れて……。いやレッドワイバーン……『ドラゴン』は俺が連れて行った方がいいか」


「はは! やっぱりあいつは女の穴を追っかけるだけのだらしねえ男じゃねえか! 釣り馬鹿が! ランクアップしたからって俺たち冒険者の評価まで一気に上がると思うなよ!」


「あなた! 酔い過ぎです! 自分と同じランクになられたのが気に食わないからって!!」


「なんだとこの御者風情が!!」


「はぁ。この方が都合がいいだなんて……やっぱりアルク、あなたのそれはハードモードよ」



 私の言葉を聞くとアルクは息が漏れるように小さく笑ってレッドワイバーンを連れて帰っていく。



 強いのに悲しいその背中は大きいはずなのに小さく見えて、私の胸は一瞬きゅうっとしぼんだような気がして……どうしようもなくアルクのことが気になってしまうのだった。

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