第10話 なんで?

「な、なんだ!? この鳴き声、もしかして……モンスター? なんで街にモンスターが……」



 鳴き声を聞いたゴールド級冒険者の手が止まった。


 そしてその仲間、ここにいる冒険者全員から緊張感が溢れ始める。



 なんでここに居るのかって疑問は私も思う、だけどそれ以上にその正体を知っている身としては申し訳なさのほうが勝っちゃうのよね。



 それに街の人に攻撃してたとかそんなことがあるなら反省と謝罪だけじゃすまないわよ。


 高貴キャラで売り出し中だってのに檻の中で臭い飯しか食べられない生活なんて……もう勘弁してよ。



「全員至急外に! 急いでモンスターを倒して頂戴!」



 溜息と嫌な汗が零れそうになっていると、ガリアさんが勇ましい声で冒険者たちに指示を出した。


 つまりこれは緊急依頼。


 冒険者としての格が一気に上がるチャンス。



 最悪だと思ったけどこれはこれで最高の状況が整ったのかもしれないわね。



 でも他の冒険者たちにとってもそれは同じで……みんなが動き始める前に行動しないとまずいかも――



「なにしてるの!? みんな急いで!!」


「え、あ、はい。分かりました。おい! この勝負は一旦保留だ! 俺たちはモンスターの討伐に出る!」



 意外にもこの場にいた冒険者たちは乗り気じゃなかった。


 それどころか面倒事を避けたいような態度。


 結局動いたのはゴールド級冒険者のパーティーだけだし、ガリアさんの様子を見るにここのギルド、というか冒険者たちって相当問題を――



「おい。俺たちも急ぐぞ」


「え? あ、そ、そうね。間違ってレッドワイバーンが殺されちゃったらまずいものね」


「違う」


「違う?」


「あいつが命令を無視できる状態なら危険なのは冒険者側だ。もしレッドワイバーンが誰か殺してでもしたら……」


「檻の中――」


「それで済むなら最高だな」


「!? い、急いで外にっ!! えっと……これ移動速度上昇ポーションを飲んで!」



 アルクにポーションを投げ渡して私は自分用のポーションを一気に飲み干した。



 パンパンに膨れる脚、漲る身体、移動速度上昇のポーション独特の変化を感じながら地面を思い切り蹴り飛ばす。



 床の割れる音が聞こえて、違う心配が過ったけど今はそれどころじゃないわ。



 えっと鳴き声は確かこっち――



「喰らえ、ジンライ斬!!」


「ぐごあ?」



 思ったよりも近い場所だったことと、ゴールド級冒険者たちのあまりにも早い行動が重なり、それらを視界に入れたときには戦闘が始まっていた。


 稲光が走り、そこら中にはゴールド級冒険者パーティーの魔法使い職が魔法陣を展開。



 アルクはああいってたけど、これ本当に危ないの冒険者側なのよね?



「ぐがあああああああああああああああっ!!!」


「こ、こいつ!? 俺の剣戟が効かないだと!?」


「鱗が剣を通してくれない。だからエンチャントしたことで発生する雷属性のダメージも無効化される。なら、圧倒的な質量で圧殺するまで!!」


「サポートは任せてくれ! リーダーは一旦引いて! ……範囲指定、『特殊増強』」


「おいおいドラゴンさん、余所見なんかさせねえよ……『敵視集中』」



 ゴールド級探索者、というかリーダーを担っていたらしい男性の攻撃をレッドワイバーンは物ともせずに弾いた。


 でもなんだかさっきよりも強く見えるそんなレッドワイバーンに対してゴールド級冒険者のパーティーは臆せず攻撃を続けようとする。



 リーダーは距離をとって再び剣に魔法を帯させ、魔法使い職の1人は魔法陣の数を増やし、もう1人はそれを拡大させる。



 さらに時間を稼ぐためのタンク職の男性がレッドワイバーンの前に立ちはだかって……これがゴールド級冒険者パーティーってわけなのね。



「凄い……」


「ああ。通常のレッドワイバーンならもしかしたら倒せるかもしれない。だが、どんなに連携が優秀であろうとステータスの差、壁は存在する。残念ながら俺のペットになったあいつはもう――」



「――発射」



 合図とともに魔法陣が強く光る。


 すると様々な角度から巨大で黒茶色の岩が勢いよく、まるでつららのように一斉に伸びた。


 先端は尖っていないどころか平たい。



 圧殺。その言葉通りの強引で、でも確実な攻撃。



 いくらレッドワイバーンの体格が良かろうが鱗が硬かろうが問題はない、はずだった。



 ――ドゴン……。



「え……。まさか惜し負けるのか?」


「まずい……。全員後ろに飛べ! 反撃がくるぞ! おい! 全員急げ……。急げって!!」



 鈍く思い音と共にレッドワイバーンを押し殺すはずだった岩はあっけなく崩れさった。


 あり得ないとばかりにタンク職も魔法職の2人もその場に佇み、リーダーの必死な声は虚空へと消える。



 圧倒的。そんな言葉が似合い過ぎる光景。




「ぐぎゃおおおおおおおおっ!!」


「ちょ、ちょっと、だから待てって言ってるのに!!」



 御者のお兄さんがレッドワイバーンの腹の辺りを掴んで何とかしようとしてるけど、それも無駄。


 やっぱりもう制御は効かないみたい。



「殺す、しかないのよね?」


「仕方ないことだ。いいか、奴は今こっちを注視している。突進してきたところをさっきの要領でやるぞ」


「……。了解」



 レッドワイバーンは少し吠えるとゴールド級冒険者たちを無視して私たちを睨んだ。


 そしてそれから10秒も経たないうちに腹に御者のお兄さんをぶら下げたまま全力ダッシュ。



 可哀想。だけど、街の人たちを御者のお兄さんを自分たちを助けるために、やるしか……やるしか!!



「――ま、待ってください! やめ、やめてください!」


「……なんで?」


「ローズ?」



 これだけ危険な状態のレッドワイバーンを前になんで、なんで御者のお兄さんは……こんなに『攻撃しないで』って顔ができるの?

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