第11話 ガリア嬢?

「……」



 息を飲む。


 そうしてそっと右手を差し出す。


 今度はポーションなしで、アルクの指示でもないけど……。



「寂しかったんでしょ? あなた」


「くぅん……」



 レッドワイバーンの顎はざらざらしていてちょっとだけ痛い。


 でも、敵意はまるでない。


 猫みたいに顎をこちょこちょしてあげれば可愛く喉を鳴らして嬉しそうにする。



 アルクからすれば自分の制御下から外れた危険な状態なんだろうけど……ただご主人様に置いてかれて寂しかったのよね。



「分かるわ。そうやって捨てられたこと、私にもあるもの。……アルク、この子大丈夫そうよ」


「……そう、か。うん、確かに人間を攻撃した様子もなさそうだ。しかし、スキルの効果を誤解していた。『長の威厳』は対象を完璧に奴隷化できる、というわけじゃなかったのか」


「長の威厳……。はぁ、長、リーダーってのは威張って指示するだけが仕事じゃないでしょ」


「俺にとってリーダーというのは……。いや、この話はよそう。長くなる」


「……。はあ、分からなくはないけど……今後一緒にパーティーとして活動するわけだからその辺の理解、それとやっぱり道徳を教えてあげるべきね」


「く、くぅん……」


「あ、ごめんなさい。もう大丈夫だから怖かったわよね。よしよし」



 少しだけ語気を強めてアルクと話しているとレッドワイバーンが心配そうに鳴いた。



 なんかもう子供、というか赤ちゃんにすら見えてきたわね。



「な、ななななな、なんだよ、これ? ドラゴンをて、手なずけてるってのか?」


「そういえばうちの冒険者ギルド本部にはテイマーっていうレアな職業に就いた人がいるとかいないとか……」


「で、であってもだ!! こんな危険な存在を街に入れておくわけにはいかん! ゴールド級冒険者であっても傷1つ入らない個体だぞ!」



 私たちが一件落着の空気に浸っていると、周りの冒険者、それに一般の人たちは余計に顔を強張らせ武器を手に取った。



 これは尊敬、の前に恐怖心を取り除くほうが先決ね。



「みんな、大丈夫よ! この子はもう暴れたりしないわ! そもそもここにくるまで誰かを攻撃していな――」


「誰がお前みたいな胡散臭いプラチナ冒険者を信じられるか! いきなりそこの釣り馬鹿冒険者を仲間にするのも全部全部怪しすぎる! お前らもしかして魔族なんじゃないか?」


「……は?」



 私の演説を無視してゴールド級冒険者パーティーのリーダーが率先して反対の声を上げた。



 しかも、この私が魔族ですって? 言いがかりにもほどがあるわ!


 いくら聖人と呼ばれるこの私でもカッチーンよっ!



「あ、あのね、人を魔族だのなんだのとかってに言わないでくれ――」


「魔族、だと?」



 ……うん。カッチーンときたのはどうやら私だけじゃなかったみたい。


 アルクってば私でも分かるくらいの殺気を出しちゃってるんですけど。



 もう、目立ちたくないって自分で言ってたくせに!



「な、なんだよ、やるのか?」


「……」


「ま、待ってください! 本当にこのドラゴンはローズ様が飼いならしていて、ずっとそばにいましたが人を攻撃するような素振りは見せませんでした! ほら! 私、ただの御者ですけどなにしてもいいこなんですよ! って、まだとっと酔いが……」


「くぅん」


「あ、ありがとうございます」



 一触即発の雰囲気漂う中御者のお兄さんが口を開いて、レッドワイバーンに抱き着いて見せた。


 それに対してレッドワイバーンは攻撃するでもなくその身体を労わって背中をさすっている。



 いつの間にかいいコンビになったじゃないこの2人。




「――あははははははは!! さっきまでの緊張が馬鹿みたいね! まさかこんな結末になってるだなんて!! ゴールドの冒険者お兄さんも肩の力を抜いたらいいわ」


「ガリア嬢……」




 唐突に響いた笑い声。


 いつの間にかできていた野次馬の中からぬるっとガリアさんが顔を出し、割り込んできたのだ。



 この登場の感じといい、豪胆な笑いかたといい、やっぱりこの人の受付嬢って感じがしないのよね。



「そこの釣り大好きな冒険者、アルクとプラチナ級のローズちゃん、だっけ? 2人のステータスはちょっと見れないんだけどね、それでもそこの御者のお兄さんが弱弱でドラゴンどころかスライムだって倒せない一般人ってのは分かるわよ」


「一般人って、そんな馬鹿な……だって――」


「だってもなにもそれが真実なのよ。このドラゴンは一般人を攻撃しない。友好的な存在。私からすればいきなりギルド内でスキルをぶっ放そうとするそっちの方が危険だと思うけど?」


「それは……」


「というわけでもう問題はないわけだから解散解散。あとは私と街の管理者でもあるギルドマスタ―に任せておきなさい」


「ギルドマスタ―……。わ、分かりました。であればもうお任せします」


「あ、そういえばあなたたちにシーサーペントを依頼していた方が早く仕事が終わったなら他にもお願いしたいってギルドに来てたわよ。良かったわね、馴染みのお客さんができて」


「うげっ。あの人か……。分かりました。連絡ありがとうございました。い、行くぞみんな。っとその前に……『白雷』」



 辺りに散らばった岩を今度は白い雷を纏わせた剣を使って灰にすると、ゴールド級冒険者たちは颯爽とその場を後にした。



 なんか罰が悪そうに引き下がっていったのだけ気にはなるけど……。



 うん。これはつまり私たちの勝ちってことでいいのよね?




「はてさて、それじゃあ今後のこのドラゴンの扱いと状態についてと……あなたたちのことを聞かせてもらおうかしら?」 

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