第9話 計画通り?
「帰りましたわ! さぁ、このリヴァイアサンの死体から剥ぎ取った牙と目の査定をお願いしますわ!」
「「……」」
うふふふ、見てる見てる。
ギルドに帰って『私、私たちの評価を一気に上げてお家でドラゴンを買おう大作戦』、上々のスタートじゃない!
横柄な態度で毎日ギルドで酒を飲んでるおっさん冒険者連中も手が止まってるわ。
あー……快、感。
って、浸ってる場合じゃないわね。
ここからどれだけの戦闘があって、リヴァイアサンを1匹倒したことでこの辺一帯が救われた、みたいなニセ英雄譚をでかでかと語ってたたみ掛け――
「い、生きていたのか? お前……」
この人、それに後ろにいる人たち……。
あの場にいたゴールド級冒険者パーティーじゃない。
いくらなんでも移動が早すぎるけど、転移のスクロールでも使ったのかしら?
ふーん……。これはいい感じに利用できるかも!
「こほんっ!」
「……ああ。このプラチナ級冒険者ローズ様のお蔭で助かった。なにせ相手はあのリヴァイアサンだったからな」
私がわざと咳ばらいをすると、考えを理解してくれたアルクはあからさまに私を持ち上げるような発言をしてくれた。
咄嗟に聞き耳を立てていた冒険者たちから羨望の視線が飛び交う。
んーっ! ぎもぢい! でもでもそれを表に出すと下品すぎるから気を付けないと。
あくまで私の設定は上品で高貴な冒険者なの。
「プラチナ級……。だとしてもリヴァイアサンはダイヤ級冒険者数人でなんとか倒せるほどのモンスターだぞ。信じられん」
「……。でもここにあるのは正真正銘リヴァイアサンの目と牙。それに肉片よ。そんなに疑うなら先にそれだけ鑑定してもらいましょうか。すみません! えっと……ガリアさんでしたよね? ちょっと協力いただいてもいいかしら?」
「……構わないわ。本当にプラチナ級冒険者がリヴァイアサンを倒せたなら、それは他の冒険者たちの刺激にもなるでしょうからね」
まず疑いを晴らすために受付嬢で素材の査定、鑑定をしてくれているガリアさんを呼ぶ。
ただこの人、相変わらず眼力が強くてちょっとだけ怖い。
ギルドの受付嬢としてはあらゆるところがでかくて、ガタイもいいし……明らかに強そうなのよね。
「……。確かに。これは正真正銘リヴァイアサンの目と牙。こっちの肉もリヴァイアサンのものね。状態から見て買取金額は……金貨20枚ってとこかしら」
「「おお……」」
金額にギルド内の冒険者たちが一斉にどよめいた。
それでもって私も口から変な声が漏れる。
だって金貨1枚で2か月分の食費以上なのよ。それが……20枚? たった一日で?
――ひぃっやっぽぉぉっぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!! 飲むわ! 食べるわ! 明日は二日酔いだわああああ!!
「それじゃあ早速金を用意、と言いたいところだけど……。私も不思議に思ったのよね、どうやってリヴァイアサンをあなたと、その後ろの冒険者の2人で倒したのか」
心内ではしゃぎまくってるとまたまたガリアさんの鋭い視線が。
しかも今度はアルクまで睨まれてる。
はてさて……それじゃあ堂々語らせてもらおうかしら。
「まず倒したのは2人で、というより私だけで、が正しいわね。こっちの冒険者、アルクはただ釣りを楽しんでいて保護。ついでにお金もないっていうから私のパーティーに入ってもらうことにしたの」
私の言葉と共にアルクが軽く首を下げる。
同時に辺りから羨望の視線が再び注がれる。
何度でもたまらんね、こりゃあ。
「……。へぇ。それで、どうやってリヴァイアサンを?」
「それはもうこの拳で、よ。鱗は確かに硬かったけど顔はそれが薄くてね。水面から浮かび上がったところに不意打ちを食らわせてやったってわけ」
「……。悪いけど、筋量的にそこまでの身体能力、腕力があるようには見えないけど」
「当然スキルを用いたわ。身体能力向上のね。まぁあなたたちには見えないと思うわ。それだけ私のレベルは高くて……申し訳ないけど差があるから。それこそそこのステータス丸出しで尻尾を巻いて逃げかえるしかできなかったゴールド級冒険者たちとなんか比較しないで欲しいくらいね」
「――なん、だと……」
「……。ふふ、言うじゃないあんた。プラチナ級冒険者のローズ……。気に入ったわ。それじゃあもう1つ私から質問があるのだけど――」
「そんな細腕であのリヴァイアサンを1発KOなんてできるわけないっ! なにがスキルで、だ! 本当は俺たちが最後に放った攻撃でリヴァイアサンの奴は弱ってただけなんだろうが! ホラ吹き冒険者!」
ガリアさんの話と周囲の私に対する関心を遮ってゴールド冒険者の男が私の煽りに耐え切れず怒鳴り始めた。
当然、これも計画通り。
いやあ、これだから上位の冒険者ってのは嫌いで……でも、大好きなのよ。
ふふ……。その鼻っ柱今折ってあげるわ!!
「アルク」
「……。できれば俺を利用するのは控えて欲しかったが……。絶対にバレるなよ。『貸出権限』」
アルクの手が背中に触れる。力が漲る。
「さ、疑うならいつでもかかってきなさい」
「……。特別だ。低級のドラゴンくらいなら真っ二つにできるほどの一撃をくれてやる。エンチャント雷:『ジンライ斬』」
……。もしかしてエンチャント?
魔法とスキルの性質が複合された超強力だって噂の、あれ?
こ、こいつ人間相手になに使ってんのよおおおおおおおおおおおおお!?
「ちょ、ちょっとたんま――」
「うらああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「はぁ、しょうがない。ここは俺が――」
強い稲光とともに切り掛かるゴールド級冒険者。
それを止めるためにアルクが一歩前に出ようとする。
その時だった。
「ぎぎゃああああああああああああああああああっ!!」
「ちょ、ちょっとなんでいうこと聞いてくれないんだよ!! ちょ、ちょまっ! う゛っ、おえ゛!」
外から聞き覚えのある鳴き声が響いてしまったのだ。
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