第8話 【後半別視点】 う゛?
「お゛ぇっ……」
「……。御者ならあれぐらいの揺れどうということはないと思ったんだがな」
「酔い止めを使ってた私ですらフラフラなんだからしょうがないわよ。大丈夫?」
「あ、りがとうございま……う゛っ」
レッドワイバーンに運ばれてあっという間に私たちのホーム、『スズカ』の街付近にある繁みに着陸したわけだけど……御者のお兄さんはダウン。
これ、しばらくは動けそうにないわね。
「……まぁ丁度よかったと言えなくもない、か。しばらくレッドワイバーンをお守をしてくれる人間は必要だと思っていたからな」
「そっか。いきなり街の中にこの子を連れ込む、なんてできるわけないものね。あの、追加のお支払いをさせてもらうからお願いできるかしら?」
「あ、はは。こんな体たらくでもお役に立てるのは光栄で……う゛っ!」
「くぅん……」
ここまで一緒に来たからなのか、それともアルクの指示なのか分からないけど御者のお兄さんが嗚咽を溢すたびにレッドワイバーンがその背中をさする。
これだけ見るとちょっと前までの人を食おうとしてたモンスターとは思えないわね。
御者のお兄さんももうレッドワイバーンを怖がっている様子がないし。
「でもレッドワイバーンを連れ込む許可なんて街が出してくれるのかしら?」
「それは今回の一件でお前の冒険者としての格が認められ次第だな。だがたとえできなくともレッドワイバーンは処理してしまえばいいだけの話だ。あまり気負うことはない」
「処理って……。それは、ちょっと可哀想じゃない……」
「……そうか。そうかもな。……。といわけで俺たちはすぐに戻ってくる。だがその時はこのレッドワイバーンが安全かどうか確認するため役人が同行するはずだ。大人しく、絶対に人間を攻撃したりするような行動はさせないでくれ」
「りょ、了解しまし……おろろろろろろろ」
「ほ、本当に大丈夫かしら……」
「御者が駄目でもレッドワイバーン自体が俺の命令に忠実だ。安心しろ。さ、ギルドに向かうぞ」
「くぅん……」
吐しゃ物が垂れる音とご主人様が離れていく寂しさから漏れるレッドワイバーンの鳴き声を聞きながら私たちはようやく正面に見えた『スズカ』の街に向かって一歩また一歩と歩いていく。
時間にしてみれば大したことないんだけど、いろいろあり過ぎて疲れすぎたわね。
どれくらいもらえるか分からないけど諸々の報酬で今晩はパーティーよ!
「ふふ、あの子も今日くらいは喜んでくれるわよね」
◇
「――で、あそこの池から出てきたのがシーサーペントじゃなくてリヴァイアサン。悪いとは思ったが、転移のスクロールを使って命からがら逃げてきたってわけ」
「え!? 転移のスクロールっていえば最高級品のスクロールだろ? ……家賃何か月分吹っ飛んだんだよ?」
「2年分。でも命には代えられないだろ。俺たちはあのブロンズ級冒険者と違って馬鹿じゃない」
「そうだな。ドラゴンが出るって分かってるのにさっさと逃げない釣り馬鹿なんて死んで当然――」
「まったく、また1人冒険者が亡くなったっていうのにその態度はないんじゃない? 今の冒険者の人格レベルが低すぎて先行きが不安だわ」
「ガリア嬢……。も、もう査定は終わったんですか?」
「ああ。はい、あんたが持ち帰ったリヴァイアサンの鱗数枚分、銀貨3枚だよ」
「おお! ありがとうございます!」
「今度は逃げかえらず討伐して帰ってきて頂戴ね。ゴールド級冒険者なんだから」
はぁ。個々の冒険者は弱いだけじゃなくて根性もないね。
レベルも低い、ステータスは隠したほうがいいっていう危機感もない。
素材の買取査定兼受付嬢としてこんな田舎街までわざわざこの私が派遣されてきた意味がなんとなく分かったわ。
素材の買取数と依頼の消化率をアップ、だけじゃなくて……魔族へプレッシャーをかけるために私がここ、魔族の気配が高い地域を守らないと。
「とはいえ……。私は冒険者としてみんなを引っ張るってことはできない。だからこそ、その役目を担えるかもと思ってた存在が死んだとなれば……。はぁ。ため息が止まらないわ」
みんなが馬鹿にしているブロンズ級の釣り馬鹿冒険者アルク。
確かにランクは低かった。
でも、そのステータスは私の鑑定スキルを使っても覗けなかった。道具を使ってる様子もないのに。
それに……毎回毎回見たことのない魚種モンスターの素材を持ってきていたのがどうも気になってた。
ただ者じゃない雰囲気もあったし……もしかしたら、なんて思っていたんだけどね。
「死んじゃった、か……。まぁドラゴンが相手だったんだものね。しかもリヴァイアサン――」
――バン!
「え?」
唐突に、乱暴に、ギルドの出入り扉が開いた。
同時に辺りがざわめきだち私も視線を向けた。
「帰りましたわ! さぁ、このリヴァイアサンの死体から剥ぎ取った牙と目の査定をお願いしますわ!」
あれはこのギルドでは珍しいプラチナ級冒険者のローズ。
自衛がしっかりしててステータスを隠す道具の仕様も欠かさない上位の冒険者。
でも、だからってその手に持ってるのは本物の、リヴァイアサンの素材。
「ま、まさか1人で倒したって言うの? いえ、流石にそれは不可能――」
あり得ない。そんな直感が走った時、私の目にはまた1つあり得ない存在が目に入った。
あれは、あの男性は……。
「い、生きていたのか? お前」
「……。あ、あはは。これは私の思い違い、じゃないかもしれないわ」
ローズの後ろからひょっこり顔を出したアルクに逃げ帰ったゴールド級冒険者たちだけでなく事情を知る他の冒険者たちもポカンと口を開ける。
そんな中、私だけがどうしようもなく笑いを我慢できなくなってしまったのだった。
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