第7話 ペット?
「――がっ! あっ! あぐあっ!!」
「な、なんか勢い増してない? ほ、本当に大丈夫なんでしょうね?」
「……」
「なんでそこで黙るのよ!」
得意気にスキルを発動したアルク。
スキルは正しく発動したらしく掲げた右手は薄っすらと光を帯びている、けどその効果が一向に見られない。
というか空をふらふらと飛んでいたレッドワイバーンの奴……明らかにスピード上げてるんですけど。元気いっぱいみたいな声で鳴いてるんですけど。
「……。ポーションの準備をしてくれ」
「そ、それ、もしかしてこのままだと私たち、ダメージを受けるてしまうの?」
「いいから」
「……。わ、分かったわ」
「……。よし。そのまま手を真っ直ぐ伸ばしておけ。安心しろ、ダメージは……多分ない」
アルクに言われるがまま自分用のポーションをポシェットから取り出してそのままそれを持った腕を目一杯伸ばす。
……。やっば。これ頭に乗せたりんごを打ち落とすとかっていう弓芸くらい緊張するんですけど。あと、多分って言葉怖すぎなんですけど。
「ぐあああああっ!!」
「く、くる! は、早く撃墜を! プラチナ冒険者様! ……ってあなた一体何してるんですか!?」
アルクと私が下がったところで、できるだけ小さな声で会話をしていたお蔭で御者のお兄さんには何も気づかれていないみたい。
うん。それはいいんだけど……レッドワイバーン、私しか見てなくない?
も、もしかしてこのポーション狙ってる?
「……。ア、アルク、あなた私を囮にするつもりだったのね!?」
「……。そこを絶対に動くな」
「動くなもなにも、もう避けれる距離じゃないわよ! 死、死ぬ……って、え?」
「――ぎゃおおっ!!」
レッドワイバーンは自分のその鋭い脚の爪をブレーキ代わりにして私の前でぴたりと止まった。
そのせいで待った土が顔とか服にどっさどっさと潜り込んでくれたわけだけど、そんなのは今目の当たりにしてる光景が簡単に意識の隅に追いやってくれる。
まさかこんな器用に、嬉しそうな表情で私の手をぺろぺろと舐めるモンスター、しかもほとんどドラゴン種のモンスターがいるだなんて。
いいえ、まさかこんな強力なモンスターを手なずけてしまうなんて、が正しいかしら。
「お、おおっ! あのドラゴン種がまるで犬のように! ……。なるほど。これはきっとプラチナ冒険者様が強すぎて眷属になりたい、いいや……なってしまったのか」
御者のお兄さん本日2度目の仰天顔。
でも今度はもう大声でのオーバーリアクションもないくらい心底驚いてるみたいね。
ふふふ、愉快! 愉快だけど……私も同じくらい驚いてるのよね。……ちょっとだけちびっちゃった。
「流石ローズ様だあ。しかも、弱ってるドラゴンに自分のポーションを分け与えようなんて、その優しさに際限はないのか」
「え? あ、え、ええ! 当然でしょ! ほ、ほら飲みなさい! おほほほほほほ!!」
「――が、あああああああっ!」
「え?」
あり得ないくらいのダイコン演技をするアルクの視線を汲んで私はポーションの蓋を外してそのままレッドワイバーンに飲ませた。
するとレッドワイバーンの瞳は輝き、私を殺さんとばかりに意気揚々と雄叫びを上げた。
こいつ、アルクのペットになったんじゃないの?
「ちょっとアルク――」
「あはははははは! どうやらローズ様のペットになったことが相当嬉しいようだ。よしよし、これからは給仕の俺が世話をしてやろう」
今にも暴れ出しそうな雰囲気のレッドワイバーンにアルクは急いで近づくと、その顎をそっと撫でた。
そして次の瞬間レッドワイバーンから敵対心が消え、甘えるような猫撫で声が漏れた。
「よし。これで正式にスキルが完了された。もう普通に接しても大丈夫だぞ」
「……。も、う?」
「ああ。さっきまでは遠距離、しかも間接的でのスキル効果付与だったからな。どうしてもスキルの効果を最大まで付与できなかったんだ。……怪我は、ないようだな」
「……。あ、あんたねえ!! 多分って、最悪私がどうなってたと――」
「いやあ凄い! 凄いですけど……馬車にこれを乗せるのはちょっと難しいかもですね。あはは」
知らない間に九死に一生を得たことを知って汗を噴き出してると、ちょっとだけ冷静になった御者のお兄さんが申し訳なさそうに話しかけてきた。
そうよ、こんなのペットにしたからって邪魔になるだけじゃないの。
「大丈夫だ。当然ローズ様がなにも考えずレッドワイバーンを仲間にするはずはない。でしょう、ローズ様」
「……。その通り! アルク! さっき伝達した通りにしなさい!」
「了解」
……。咄嗟に嘘ついたけど、なにが『了解』、よっ!?
ま、まぁいいわ。アルクが何をたくらんでたのかしかと見てあげ――
「では2人は馬車の中に。俺は外でレッドワイバーンに指示を送りながらにするので」
「その、それはどういうことでしょうか?」
「いいから早く馬車に。ささ、ローズ様も」
「ま、まあ見ておきなさい!」
虚勢をはって御者のお兄さんを馬車の中に誘導。
私もそのまま中に入ったものの……。
本当に何をする気なのかしら、アルクの奴。
「あ、あの……」
「い、一応外を確認しましょうか――」
心配そうな御者のお兄さんを気遣うフリをしてそっと窓を開けて周りを見る。
でもそこにはアルクの姿もレッドワイバーンの姿もな……くなかったわ。
「ひ、ひひぃぃぃぃいいぃぃぃぃぃぃぃいいいぃぃぃぃぃぃんっ!!」
「まさか、あいつ……」
「よし。体力は十分だな。そら、そのまま向こうの方向まで飛べ」
頭上には私たちが乗る馬車と馬を足でがっしると掴んでいるであろうレッドワイバーンの姿と、その背に乗るアルクの姿が……。
「少し揺れるぞ。舌を噛まないよう気を付けろ。さて、出発だ」
「ぎゃおおおおおおおおんっ!!!」
「ド、ドラゴンを馬使いなんて……こんな街の凱旋なんて、伝説になるぞ!!!」
「と、当然よ! だって私は未来のオリハルコン級冒険者なんだからああああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁぁあああっぁあぁぁああっぁああぁっ!!」
「だから気を付けろと言ったのだがな」
想像以上のスピードで飛び始めるレッドワイバーンさん。
案の定舌を噛む私。
うん。まずは街に着いたらギルド、じゃなくて教育が必要ね。
勿論内容はもう少し私を労われるための道徳教育を、みっちりとねっ!!!!!!!!
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