第6話 善人?
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「お、おおっ! 流石プラチナ級冒険者だ!」
「……え?」
レッドワイバーンがあり得ない勢いで跳ね上がった。
高く高く、レッドワイバーンの大きな叫び声が小さくなって、聞こえなくなりそうなくらい高く。
これ……私が、やった?
「……ううん。あきらかにあなたのアルクのスキル。でも、さっき50分の1がどうのこうのって……。だとしたらやっぱりレベル2っておかしいわ」
「レベル【2】。これは今おまえたちに適用されているレベルに概念、その【第2段階】という意味」
「第2、段階?」
「……モンスターが進化した際のステータス変化、それに近いか。ともあれ、この程度のモンスターならこのスキルで十分だと分かった。これはいい収穫になった」
「それは良かったわ。……じゃなくてっ! 今さらっと凄いこと言ってるわよ! あなた! こんなの冒険者ギルドどころか勇者だって知らない情報じゃないの!?」
「さあな」
「さあな、って……。こういう新しい情報はギルドに報告するのが普通でしょ!」
「下手に強さの先を知れば、それを追い求めて無理をする。経験値欲しさで魔族にまで手を出す可能性もでる。なら、俺以外に知る必要はない」
「あ、あなたねえ……。それは流石に考え過ぎじゃない」
「――あ、ありがとうございます! いやあ、まさかこんなに強い冒険者様を乗せていたなんて知りもせず……せめていいクッションくらいご用意すべきでしたよね!」
私がレッドワイバーンを倒した興奮と、相変わらずな様子のアルクに対する憤りを募らせていると、御者のお兄さんが誰よりも興奮した様子で駆け寄ってきた。
スキルの発動を悟られなかったお蔭か、どうやらこの人には私が凄い強い冒険者に映っているみたい。
「ほら、今度はお前の仕事だぞ」
「わ、わかってるわよ!」
「ん? どうかなさいましたか? も、もしかして怪我を!? た、大変だ! えっと、緊急時用に回復のポーションがあったような……」
「だ、大丈夫よ! なんてことはないわよ! あんなの準備運動にもならないんだから!」
「おお!! プラチナ級冒険者といえどドラゴン相手にかすり傷もないなんて! 凄すぎます! なあ、お前もそう思うだろ?」
「ああ。流石はプラチナ級冒険者だ。給仕としてパーティーに参加させてもらえることになったが、光栄だな」
「ったく羨ましいぜ! レベル2でこんなにすごい人の側で仕事できるなんてさ! 兄さんもしかするとアダマンタイト、いやオリハルコン級の冒険者パーティーの一員だぜ!」
「……。まったく、最高だな」
……。楽しんでる。こいつ、私が見え張ってるの分かって楽しんでる。
なにその笑い顔、邪悪すぎるんですけど。
「街に着いたらギルドに俺も同行しますね! 今の活躍は絶対ギルドで称えられるべきですから!」
「そ、そう? 本当に大したことじゃないのよ」
「大したことですよ! ドラゴンをワンパンなんて! さ、となればすぐに街に向かいましょう!」
意気揚々と馬のもとに向かう御者のお兄さん。
罪悪感がないわけじゃないけど……悪い気はしないわね。
というかこれで私ドラゴンのソロ討伐者になるのよね……。
思いがけず飛ばし過ぎの上手くいきすぎ、最短最速成り上がりルートまっしぐらで、逆に怖いまであるわ。
「――あれ? おい、大丈夫か? おーい?」
「ど、どうしたの?」
身体から変な汗がにじみ出ているのを感じていると、さっきまでのテンションから一転、御者のお兄さんが困った様子の声を上げ始めた。
「どうやら馬が動かないようだな」
「今の一銭で怯えちゃった、ってこと?」
「す、すみません! こいつ、あんなに大きなモンスター初めて見たみたいで……。しばらくは動けそうにないかもです」
「……。仕方ないわね。じゃあ歩いて――」
「ここに御者を置いてか? だとすればそれはまずい。もし今のが群れの一匹だとしたら仲間が来る可能性だってある。そうなれば御者は間違いなく食い殺されるぞ」
アルクの一声に顔面が青くなる御者のお兄さん。
こいつ、ぶっきら棒な上空気も読めないのね。
「あの、こんなこと言うのは申し訳ないのですが、俺……」
「大丈夫よ。そんなことは絶対しないから。それで、当然仲間もそう思ってる。ちょっと性格があれなのよ、こいつ。さて、そうと決まれば火を起こそうかしらね」
「……。いや、その必要はないかもしれない」
「え? あなた、それってどういうこと?」
「上を見ろ」
アルクが宙に向けた指、その延長線上にはふらふらと落ちてくるモンスターが。
あれってさっきのレッドワイバーン?
「ひ、ひい! あいつ、まだ生きてっ!? ど、どっか遠いところに落ちたんじゃねえのかよ!」
「だ、大丈夫よ! 見て! 大分弱ってるみたい! あんなの今度こそ私が止めを――」
もう一回お願い、って意味も込めてアルクに視線を送って今度はナイフを取り出す。
でも気付いてないはずがないのにアルクはなかなか私に触ってこない。
あのぅ、そのまま食われろってこと? まさかさっきの私の反応を見てSっ気が爆発したとかじゃないわよね?
「ア、アルク、今度はカッコよく決めたいからほらさっきみたいに……。ねっ?」
「いや、その必要はない。というかしない方がいい」
「あのね、私はあなたが思ってるほどタフじゃないの。こんな意地悪にはこの『善人って文字をそのまま形にした』と言っても過言じゃない私でも付き合えな――」
「善人とはいい設定だ。よし、今度の作戦ではそれを推していくか」
「?」
「善人伝説の1ページ。ドラゴンを手名付ける女冒険者ローズの逸話誕生だ。【長の威厳:対象・レッドワイバーン】」
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