第4話 【2】?

「――ねえ」


「なんだ?」


「なんだ? じゃないわよ! 何この馬車は! 臭いし揺れるしクッションの1つもないなんて今の時代あり得ないんですけど!」


「街……『スズカ』まで大した距離じゃない。我慢しろ」


「はぁ。あなたが普通に生活できる程度にはお金がある、なんていうからてっきり普通の馬車、御者を連れてくると思ったのに……。貧乏なら貧乏ってちゃんと言いなさいよ!」


「貧乏? そう思ったことはないが。そもそも馬車での移動なんて貧乏では不可能。この時点で普通であるという証明になっているだろ」


「それはそうかもだけど……。プラチナ冒険者ローズ自身の価値観、それに他人からの評価を基準にするとこれはもう普通のラインを超えてるのよ」


「……。見栄を張るってのは面倒なもんなんだな」


「それに乗っかることであなたもこれからたんまりと金儲けできるのよ」


「……。そうか、そうだな」


「分かればいいのよ。ってことで次からは旅費の管理と移動手段、宿泊先、その他もろもろについては私が管理するから。いいわね?」


「……。仕方ないな」



 リヴァイアサンの肉片を回収した私たちは湖から一番近い村に寄った後、馬車で私たちが所属する冒険者ギルドのある街『スズカ』まで移動を開始していた。


 移動時間は大き目の砂時計が完全に落ちるまでくらい、今日で言えば日が落ちる前に街には着く。



 短時間の旅だから本当は文句なんて言いたくなかったけど、アルク、この男がまさかここまでボロい馬車を拾ってくるなんて思わなかったわ。


 あー、一応酔い止めの薬常備しててよかった。



「備えあれば憂いなしってやつね。……。あっ! 備えで思い出したんだけど私、お互いのステータスを共有したいのよね。ほら、なにかあった時互いを深く知っていたから乗り越えられた、みたいなことがあるかもじゃない?」


「……。それで騒がしくなくなるなら構わないが……お前はいいのか? 覗かれるのは嫌なんだろ?」


「ほとんど知られてるのに今更嫌だなんて言わないわよ。それに頑張って隠そうとしたところでどうにもならないし……。ここで意固地になる意味がないわ」


「……。それは、そうなのかもしれない」


「それとステータスを見せるのは私にもメリットがあるから」


「メリット?」


「ええ。だってこうすれば未然にやらしい視線、『覗き』を防げるでしょ?」


「……。はぁ。お前は俺をなんだと思って――」




「――『可視化要求:ステータス』」





名前:ローズ


種族:人間


性別:女性


年齢:28


レベル:53


職業:盗賊


攻撃力:270


防御力:200


保有魔力:400


スキル:鑑定LV3、忍び足LV3、剥ぎ取り上手LV3、短刀使いLV3


盗賊職限定スキル:盗賊の七つ道具―瞬間生成(登録道具:釣り竿、身代わり)・瞬間装備・瞬間収納


魔法:風属性魔法(初級、中級)、火属性魔法(初級)、闇属性魔法(初級)





 名前も姿も知らないこの世界を運営すると言われ、全ての生き物にステータス・スキルを与えた『神』という存在。



 普段はどんなにお願いしても何一つ叶えてはくれないけど、このステータスの表示だけは要求すると簡単に叶えてくれる。


 一応レベルアップとスキル取得の時に声を聞くことができるけど、あの時だって姿を見せてはくれなくて……それどころか声に感情が見えないせいでむしろ距離を感じるのよね。



「……。鑑定はレベル3か。覗かれるのを嫌がる反面相当な数の人間を覗いてきたな」


「よ、世渡りのためにしょうがなかったのよ! ……。なによ、あなたも私のステータス見て馬鹿に――」


「レベルに対してスキルレベルは平均3。使える魔法の種類も3つ。見かけによらず努力家……。いや、盗賊職でプラチナ級まで這い上がってきたと分かった時点でそれは分かっていたことか」


「……」



 な、なによこいつ! い、いきなり、褒めてくれちゃって!


 ど、どうせこれも、他の冒険者がするのと同じ太鼓持ちなんでしょ! わ、分かってるんだから!


 どうせその目は私のご機嫌を取ろうとするときのあの――



「――どうした? 顔が赤いようだが」


「な、なんでもないわ!」



 ぜ、全然違う!


 嘘をついてるときの淀みが一切ない!


 私の職業を知って驚かなかった、馬鹿にしなかった、それってただ自分が同じハズレ職だったから、じゃない。


 アルクはこの世界じゃ珍しいただ純粋に、差別なく、その人の努力や人柄を評価す――



「我慢は体に悪い。便秘だというなら下剤を貸してやってもいいぞ。前にドラゴンの糞を餌にしないと釣れない魚を釣ろうとしたときに使った残りがある」



 ……。


 前言撤回。こいつ、多分私に興味がないだけだ。



 レディに対してそのデリカシーのなさは異常だわ!



「安心しろ、金はとらんか――」


「大丈夫よ! 馬鹿! それよりあなたのステータスも見せなさい!」


「……。なんで怒っているんだ?」


「いいから!!」


「これが人との関係を築かなかったことによる弊害、か。魚同様、様々な人間の行動原理についてもまとめた方がいいか。えっと……ローズに下剤を渡してはいけな――」


「そんなのノートにまとめるな!! いいからステータスを見せなさいって言ってんの!」


「情報の整理は重要だというに……。まぁいいか。『可視化要求:ステータス』。……。これで少しは落ち着いてくれ」


「……。これ、は……」



 やれやれといった表情で半分投げやりでステータスの表示をしてくれたアルク。


 それを見た私は悔しくもアルクの言葉通り大人しくなってしまう。



 だってこれ、今までの戦闘からはあり得ない情報なんだもの。



 名前:アルク、種族:人間、性別:男性。





 レベルは……【2】?

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