第3話 ハードモードすぎない?

「怖気づいたか?」


「ば、馬鹿言わないで! どれだけ強いったって魚でしょ? 地上に引きづり出せばどうってことはな――」



 ――バシャ。



 水面から飛び出した魚、その見た目は私たちが普段食べてるものと比べても大差はない、んだけど……。



 なによ、この威圧感は。


 リヴァイアサンの比じゃない。


 ダイヤ級……いいえ、信じたくないけどアダマンタイト級だってあり得るかも。


 って、釣り上げてからもう数十秒経ってるわよね?



 ……なんでこいつ、ずっと『宙』にいるの?



「あ゛っ……」



 釣り上げたはずのその魚は喉に何か詰まったような苦しそうな音を発した。


 瞬間全身の鱗が紫色に発光。


 そしてさっきまでは当たってるのも感じないくらい弱くしか吹いていなかった風がたちまち強くなって、どうしようもないくらいの緊張感が走った。



「な、なんなのよ、こいつ」


「魔力の放出。……思ったより大分獰猛そうだ。おい、こっちに寄れ」


「ま、魔力の放出って、なんでたかが魚が魔力を――」



 パンッ!!



「……は?」


「死にたくなければ早く寄れ。早速足を引っ張りたいのか?」



 私の右横、数十メートル先にここからでも十分確認できるほど大きな大きな窪み、というか大穴が一瞬にして出来上がった。


 原因は魚が鱗を若干捲った箇所から放った紫色の、多分魔力の弾丸。


 それでもって威力は……この通り。


 黒く色付いた地面と焦げ臭さからして魔力の弾丸は高熱を帯びているみたい。




 ……あんなのまともに喰らえば間違いなく即死じゃない!!




「こ、こんなの聞いてないんですけど!! 大丈夫なの!? 本当に勝てるの!? あんな化け物に!?」


「さあな」


「さあなって……。自信ないくせにヤバい奴釣り上げてんじゃないわよ! 馬鹿なの? ねえあなた馬鹿なの!?」


「まだ釣り上げた判定になっていない」


「は?」


「釣り上げた判定になれば……十中八九勝てる」


「釣り上げた判定になっていないって、それはどういう――」




 パンッ!!




 私たちが会話できないようにするためなのかなって思うタイミングで放たれた2発目の魔力の弾丸。


 今度は左側に大きな穴が生まれてる。


 しかもさっきよりも近い場所に。



「射撃力が向上してるみたいだな。もう少し練習させれば俺たちくらいの大きな的を射抜くこともできそうだ」


「できそうだ。……じゃないわよ! それヤバいじゃない! ならさっさと逃げないと!」


「逃げれば背中を撃ち抜かれかねんぞ」


「一発分くらいなら多分なんとかなるわ! サラマンダーの肉は弾性が強くて熱耐性も多少あったはずだから、それなりの『身代わり』が作れるだろうし」


「『身代わり』を作る? そんなことができるのか?」


「盗賊には道具が必須。それを作ったり修復するスキルだって当然あるわ」


「……そうか。なら、『身代わり』より先に俺の釣竿を直してくれ」


「は? この期に及んで何言ってんの! いい、時には諦めも大事――」




 パンッ! パンッ! パンッ!




 魔力の弾丸の数が、増えた? しかも連射?



「耐えないといけないのは一発どころじゃなくなったな」


「なんでそんな嬉しそうなのよ、あなた。はぁ、本当はスキルの対象になる種類を『釣り竿』なんて入れたくなかったんだけど……。しょうがないわね。『盗賊の七つ道具:瞬間生成』」



 私のスキルは七種までの道具をあらゆる素材で生成できる能力。


 その大事な大事な一枠をこんなところで消費しないといけないなんて……。でも……。



「これで、なんとかなるのよね?」


「ああ。それにしても……。ローズ、お前との冒険、案外悪くはないのかもな」


「……。現金なやつ」




「それはお前もだ、ろっ……」




 サラマンダーの肉を片手に持ってアルクの持つ釣り竿に触れた。


 そうして魚とつながれたままの釣り竿を再生成。



 するとアルクは思い切り魚を手繰り寄せる。




 ――パンッ! パンッ!




「ふ、これはいい釣り竿だ」


「一撃で、壊れない?」



 その間も魚の攻撃は止まらないものの、アルクは上手く魚の位置を移動させて釣り竿で攻撃を受けさせる。


 驚いたことに釣り竿は一発どころか二発三発喰らっても壊れる気配はない。


 これも、こいつのスキルなのかしら?


 って、魚がいつの間にか水上を外れて……地面に落ちた?



「全ての条件が達成された。……なるほど。さっきまで魔力の弾丸は魔力の総量で威力や弾数を変えられるスキルなのか。なら、余計にお前が不利だな」



 髪が逆立つほどの強風が吹き、アルクの身体も紫色に灯る。


 ただ、その光はこの魚の比じゃない。


 しかもアルクはそれを両手指に集中させてさらに光を強めている。



「あ゛っ!」


「ふっ」



 それを見た魚は慌てた様子で魔力の弾丸を放った。


 それと同時にアルクもその指から魔力の弾丸を発射。


 ぶつかり合う弾丸はそのまま相殺、はされずにアルクの弾丸だけが残る。



「あ……あ゛っ!」


「無駄だ」



 それに対して魚はさらに弾丸を撃ち込む。


 だけどアルクは自分の魔力の弾丸に向かって新たに何発も弾丸を撃ち込んで最初の一発の勢いを加速、巨大化させた。



「お前よりレベルの高い存在であればこんな使い方もできるということだ。覚えておくといい。……いや、当然死んだら覚えていることはできないか」



 アルクの魔力の弾丸は魚の魔力の弾丸を消し飛ばし、遂に到達。


 その身体からは焦げ臭さとはまた別の香ばしさが漂う。



「か、勝った。のよね?」


「ああ。相変わらずお目当ての魚たちはスキルが特殊で強い。ドラゴンみたいに低いステータスのゴリ押しならもっと楽なんだがな」


「は、はは。ドラゴンが楽、ねえ。この冒険、ちょっとハードモードすぎない?」



 やば、びっくりと安心で腰抜けそうなんだけど。



「目標が魔族だから仕方ない。さて、取り敢えず目的は達した。帰――」


「ま、待って! 魚! これ持ち帰るから! あ、あと! やっぱり網! ワンチャン、リヴァイアサンの肉片とか! 持ち帰ったら大金になるかもでしょ!」


「……。大した胆力、いや強欲さだな」

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