第18話 事が起きる
「解体はこんなもんか。」
「そうですね。それにしてもアズミさん随分手際が良かったですね!」
グラウカは羨ましそうに解体された部位を眺めていた。
「まぁ、経験はしてるから。」
学生時代に畜産の実技もとっといて良かったぁ!
とってなかったら吐いてたかもしれん。
「じゃ、俺が肉持つから、角と革を任せて良いか?」
魔物が少ないと言っても、出ないわけじゃない。ここはさっさと帰るのが吉と見た。
「分かりました。」
それぞれ袋に詰めて、街を目指す。
持ち上げる時にジジ臭い声が出てしまったが、指摘されなかったのでセーフ!
「よお、お二人さん。どうだった?」
俺が初めて来た時に管理所の場所を教えてくれた門兵のオーメイさんが手を振ってきた。
「バッチリです!見てください!この立派な角!」
「おお!なかなかの物だ。
……おっと、アズミが辛そうだ。足止めして悪い。」
「あ!すみません、アズミさん!行きましょう!」
俺の小鹿のような足を見て二人は申し訳なさそうに声をかけてきた。俺だって本来は持てるさ。今は身体が別モンだからなるべく鍛えないと。
「おう、オーメイさんもまた。」
「おう!転ぶなよ!」
両手で背負っていたせいで、カッコ良く片手を挙げることは出来なかった。
「なんか騒がしいな?」
「そうですね、何かあったんでしょうか?」
管理所の中がかなりうるさい。いつもうるさいが、今回はちょっと違う感じだ。
不思議に思いながらも管理所の扉を開けた。
「っ!アズミさん!帰ってきたんですね!?」
受付からトットさんが走ってきた。
「っ、あぁー…で?どうしたんだ?」
俺は一息つくために鹿肉を地面に降ろした。
あぁー解放された感じで気持ちいい……
「奥にお願いします!グラウカさんはあちらで依頼の結果報告をお願いします!その肉は他の職員に運んで貰って下さい!
それではアズミさん!」
トットさんは焦ったように管理所の奥の部屋に俺を引っ張る。
「い、一体何が?」
「それはここでは………部屋で説明いたします!」
んーなんかヤバそう。
駆け足で部屋に入ると、前に会った領主のおじさんが管理所のソファで横になっていた。
「アズミくん!回復魔法を!」
その言葉に突き動かされるように様子を見てみると、脇腹を止血したような後が見受けられた。呼吸も荒いし、大量の汗をかいている。
「ここですね?」
「ああ!報酬は払う!なるべく速く頼む!
詳しくは後程説明する!」
「分かりました、リカバリー。」
別に説明要らないんだけど……なんか巻き込まれそうだし。
俺の魔法は効いたようで、領主のおじさんの呼吸は正常になった。
「はあー良かったぁ………」
トットさんは安心したようにもう一つのソファにどかりと座った。
「………はい、問題ありません。」
脈と止血したような場所を確認したところ、問題はなかった。傍らにあった布で領主のおじさんの汗を拭き取り、トットさんに無事を告げた。
やっぱ便利だなぁ、回復魔法。
「あぁ、感謝するよ。
いやー運び込まれて来た時はどうしようかと思ったよ。実はね……」
くそ!逃げられなかった!
「領主様はお屋敷で襲撃されたんだ。」
ポツリと、水を飲んで答えた。
「襲撃?誰にです?」
俺が尋ねると、唾を飲み込んで一言。
「龍だよ。」
「………え?」
龍?あの?
「そう思う気持ちも分かる。僕もそう思ったよ。でも、ここに領主様を運び込んできた側近の話によると、屋敷の庭に突如として人型の龍が現れて、領主様を狙ったそうだ。
一撃は食らったものの、屋敷の騎士達に足止めを任せて逃げ込んできたそうだ。」
ふーん、龍は転移とか使ったのかな?突如現れるなんて、そんくらいしか思い付かん。……後は、飛んできて上空から落ちてきたとかか?
「でも、なんで管理所に?」
「ここは腕のたつ人が多いし、ハタマンさんとは旧知の仲でね。それと回復魔法を使えるアズミくんを頼ってきたのもあるみたい。屋敷が襲われた以上、信用できない所は行きたくないと思ったそうだよ。」
あの回復魔法教えてくれた神殿のおっさん信用されてないんだな。………ちょっとスッとしたわ。
ザマァみろ。
「今、お屋敷はどうなってるんですか?」
屋敷の兵士さんとか大丈夫だろうか?絶対何人か死んでるだろうし、俺も行くべきか?
「さあ?側近の人が確認に行くとダッシュで行ってしまってね。でもまさかこのタイミングとはね……」
頭を抱えて俯きながら呟いた。
「タイミング?ランクB以上の冒険者がいない時ってことですか?」
「あぁ、その通りさ。僕達の動きが龍種に感付かれてると考えたほうが良さそうだね。」
「もう辞めたらどうですか?例の剣士探し。もしくは規模を小さくするとか。このままじゃまた領主様が襲われるかもしれませんし。」
「………そうだね、進言してみるよ。何かあってからでは遅いもんね。ありがとう。」
トットさんは紙に走り書きでメモを取った。簡潔に言うことを纏めたんだろう。
「はい。そういえば、俺はお屋敷に行かなくても?」
「…………そうだね。彼らには申し訳ないけど、一兵士と回復魔法使い。どちらが貴重かなんて言われなくても分かることだ。
アズミくんが行くのは危険が去ってからで。それと、今回の報酬は後日で良いかい?領主様が起きてからで。」
「もちろんです。それでは俺はこれで。」
「あぁ、助かったよ。」
……回復魔法なんて便利なものがあっても救えないとか、宝の持ち腐れだと思ってしまうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます