第17話 グラウカの戦法

「おぉい!アズミィ!グラウカ待たせてんぞ!」

 下の階からミネネさんの怒声が聞こえる。

「あ、もう時間か。」

 植物の点検をしていたら、時間はすぐに失くなるものだ。ダンズの特製初心者セットを着込み、サッサと階段を降りる。

「待たせてごめんなさい。」

「いえ、私は特には。それよりも………」

 グラウカはミネネさんの方に視線を向けた。

「アズミ、ちょっと座れ。」

 腕を組んで床に指差すミネネさん。

「…………はい。」

「グラウカ、すぐ終わるから。これでも飲んでてくれ。」

「あ、ありがとうございます。」

 っ!この匂いは!

「もしかしてハーブティー!」

「てめぇはダメだ。」

「………」

 お説教は一時間かかった。










「何か良い依頼があると良いですね。」

「だね。」

 説教による余韻が耳に残ったまま、管理所の扉を開けた。

「おや、グラウカさんとアズミさん?珍しい組み合わせですね。」

 受付に向かうと、俺が登録をした時に担当してくれたトットさんが話しかけてきた。

「あ、トットさん!お久し振りです!」

 どうやらグラウカも顔見知りのようだ。

「今日はどうしたんだい?」

「今日はアズミさんと臨時パーティーを組んで、討伐に行こうかと思いまして。どうでしょうか?」

 このように、初めてパーティーを組んだ時や、臨時の場合の依頼は、受付に対応してもらうのが推奨されている。その個人個人の戦力を判断してもらい、提案してもらうのだ。これで失敗してもペナルティは発生しないため、利用する人が大半らしい。

「…………そうですね。

 クリューネ森林に生息するパワーディアなどいかがでしょう?グラウカさんは素早い動きが得意とのことですし、突進が中心のパワーディアなら対処も難しくないでしょう。」

「そうですね……アズミさん、どうでしょうか?」

「良いと思います。」

「ではトットさん。これで。」

「はい、かしこまりました。お気をつけて。」


 俺とグラウカは、クリューネ森林へと向かった。


「聞きたかったんだが、俺は?水魔法の補助はいるか?」

「………いえ、最初は私が一人で行って良いですか?何かあったら援護をお願いします。それまでは回復魔法のみで。」

「了解。」

 あの剣でどう戦うのか楽しみだ。


「こっちの方にはいないですね。」

「だな。もっと深い方が良いのか?」

「んーでも、これより奥に行くとパワーディアの生息地から外れてしまうんですよね………」

 グラウカが大きめの岩に腰掛ける。クリューネ森林はあまり魔物のいない森としても有名だ。だからこそ、こんなにゆったりしていても襲われるリスクは低い。

「……よく知ってるな。」

「そ、そうですか?覚えられるように頑張った成果ですかね?」

 ……俺の勉強不足か。


「次はあちらに……っ!アズミさん!来ました!」

 木陰からパワーディアが出てきた。既に威嚇姿勢を見せている。

「っ!俺は木の上にいる、水魔法が必要になったら言ってくれ!」

「その時はお願いします!」

 グラウカはフラ……フラン……なんだっけ?を構えた。後でまた聞いとこ。








ーグラウカー


 呼吸を整えなきゃ。大丈夫、今までやってきたことをやるだけ!

「ゲッゲッゲッゲッ………ビィャッ!」

 来た!

 やっぱり真っ直ぐ。なら、私の体力がもつかが問題ね。

 身体を九十度回転させつつパワーディアの身体に切り傷をつける。

「ビィャッ!ビィャッ!ゲッゲッゲッゲッ……」

 こちらを睨みつつ、また突進を仕掛けてきた。

 今度は足元を狙って切る。

「ビィャッ!!」

 切られたことに驚いたのか、前足を上げて見つめている。

「ゲッゲッゲッゲッ!」

 パワーディアは更に突進。

 また………

「ぐぅ!?」

 甘く見てた………通り抜ける寸前にパワーディアが頭を動かしたせいで、角が私の腹に突き刺さった。

 手で抑えてみたけど血は止まらない。

「グラウカ!リカバー!」

 ……すごい!こんなにすぐに回復するなんて。

「ありがとうございます!」

 でも、安心しちゃダメ!今度は油断しないようにしないと。


「ゲッゲッゲッゲッ……………」

 パワーディアは少しフラついている。

「効いてるみたいね。あと何回耐えれるかしら?」

「ビィャッ」

 威勢のないパワーディアの突進はさっきより速度が遅い。大分出血して弱ってるみたい。

「せい!」

 速度が遅いのもあって、パワーディアの足二つに傷をつけることが出来た。

 ……まだ来るか?自分の呼吸を整えつつ、パワーディアを観察する。お腹の辺りが大分動いていて、かなり息が上がってるように見える。


ドサッ………


「………フゥー。」

 私は一息ついて、警戒しつつパワーディアの身体に手を当てる。ちゃんと死んだみたいね。

「アズミさん!終わりました!」

「分かった、今降りるよ。」

「はい、気を付け……」

 大きな音がして、後ろを振り返ると、頭から地面に落ちてるアズミさんがいた。

「だ、大丈夫ですか!?」

 駆け寄ってアズミさんを起こす。

「ってて、ごめんね。」

「アズミさん血が!」

「ん?あぁ、リカバー。」

 気付いたアズミさんは自分の膝に手を当てて回復魔法を使用した。

「わぁ、ホントに便利ですね~。」

「それは同感だ。さ、依頼の肉と革と角を取ってしまおう。」

「ですね。」

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