第15話 ハプニング

 今日も宿で植物達を眺める。

「あへ。」

 本来ならそろそろお呼びだしが来ると思ったのだが、正体不明の剣士(俺)が現れたせいで管理所やB以上の冒険者が忙しなく動いている。

 前回の防衛戦で、実力が認められたプライトンは飛び級でBランクになった。

 ちなみに俺も回復魔法と水魔法のお陰で飛び級Cランクだぜ。水魔法に関しては、植物の世話をしていたら上手くなっちゃっただけから、前回の戦いでキャスケードインパクトの威力には内心ビックリした。


「いやぁ、ゆったり出来るの最高~。」

 この、本来あった仕事がなくなるのが一番最高だと思うわ。

 俺はフィトテラピーを堪能したあと、植物達のチェックに入る。


「……やっぱ少しはダメか。」

 前に持ってきた皇帝ダリアのさし芽。体感1/3は枯れてしまった。まあ生き残ってくれただけ御の字だ。

「根は……あ、以外と出てるな。」

 それじゃあ各自ポットに……………………………

 あ、ポットねぇじゃん。

 うーわ、どうしよう。ズエッタさんに頼むにしてもオーダーメイドだから高いもんなぁ。


「そうだ、水魔法!」

 ポット……五号ぐらいだな。

 指先に水を貯めて、空に描くように形を作る。

「んむむ……真っ直ぐにするのがムズいな………」

 とりあえず完成!

「……新進気鋭の陶芸家の作品かな?」

 やり直しっと。

 バチャ!

 魔法の制御を解除して、新しいポットの製作にとりかかる。

「ここを……こう!」

 ………なんか枡みたいになっちまったな。

 バチャ!

 次!

「これで、どうだ!

 ……丁寧にやったら小さくなっちまったな。」

 お猪口かなってくらい小さい………

 バチャ!

「なんかコツとかあるんかな~。」

 俺が床で寝そべって考えていると、下から大きな音が聞こえた。


ダダァン!ドンドンドンドン!


 ん?何か近づいてる?足音か?


ダンダンダンダン!


「何してんだアズミィ!!!」

「うおぉぉぉ!?」

 宿屋主人のミネネさんが怒鳴り声で入ってきた。

「てめぇ!」

「ぐお!?痛い痛い痛い!」

 ミネネさんに胸ぐらを掴まれて持ち上げられる。

 力強ぉ!

「何してたんだ、あん?」

「ちょ!落ち着いてください!」

「フゥー……フゥー………もう一度聞く、何してた?」

「えっと────




             ───て、感じです。」


 とりあえず俺の今日の行動を伝えた。


「長々長々なげえんだよ!」

「ご、ごめんなさい。」

 朝起きて顔洗ったとこから話したのがまずかったか。

「ま、分かった。」

 大きい溜め息を吐きながら頭をかく。

「ていうかミネネさん。どうしてそんなに怒ってたんですか?」

「そりゃおめぇ、ここ見ろよ。」

 俺が水ポットを作っていた所ら辺を指でトン、と指した。

「あ、隙間が……」

「さっきずっと、こっからポタポタポタポタ水が落ちてんだよ。何回服が濡れたか……」

「……それは、スミマセン。」

 ここは素直に謝るべきだな。

「うんうん、そう思うよなぁ?」

「え?」

「そ・う・じ。やれ。」

「………はい。」





 雑巾で机を拭き、モップを持って床を綺麗にする。まぁ、俺のせいじゃないところも掃除はしている。一応迷惑をかけてた負い目はあるからな。

「今は何してるんですか?」

「あ?晩飯の準備だよ。」

「もうそんな時間ですか?」

 まだ十六時くらいじゃないか?

「俺はいつもこんくらいだ。一般的にも少しは速いかもしれんが、大体これぐらいの時間帯じゃねぇか?」

「そうなんすねー。」

 そっか、前の生活が恵まれてるもんなぁ。即席ラーメンと冷凍うどんには世話になったぜ。

「おいおい、料理できねぇとモテねーぞ?」

「いえ、俺は植物にモテればそれで。」

「……枯れてんなぁ。」

「いえ、正常ですよ。相手がいないから使ってないだけです。ミネネさんは?」

「……お前もう喋んなくていいぞー。」

「うっす。」

 これはお互いのためだ。そうだろう。

 そういやこの世界にはグリセリンはあるのかな?プリザーブドフラワー用に欲しいけど、医薬品とか化粧品を扱ってる所に行けば材料をくれるかな?

 最悪、獣油や大豆油を使って自分で作れるか試すのもありか?……まぁ、また今度だな。




「フゥー、いい汗かいたな。」

「お、終わったか。」

「はい、どっすか。」

「おぉ、なかなか上手いじゃねぇか。」

「アザッス。」

 ふふふ、掃除には一家言あるんでね。

「お前、もう食うか?出来立てだぞ。」

「む、もうそんな時間ですか?」

「宿は色んな人が泊まるからな。手際よく作っとかないとまた来た時に泊まってくれなくなるからな。」

「なるほど、いつもより大分早いですけど、腹減ったんでもらいます。」

「おう、いつもよりサービスしてやるよ。」

「アザッス。じゃあちょっと身体綺麗にしてきます。」

「ん?……あぁ、そういやお前は水魔法使えんのか。」

「はい、身体と服を濡らして汚れを落としたら、身体と服の水分を魔法で抜き取る簡単な作業です。」

「へぇ、うちの洗濯………」

「おっと、外出ますねぇ。」

 メンドイこと頼まれる前に逃げの一択だ。

 


 さっ、と綺麗にして一階の食堂に戻る。

 ミネネさんは厳つくて態度もそこそこ悪いが、飯はうまい。現代日本で生きた俺が言うんだから間違いない。

 ………まぁ、俺はその中でもかなりの貧乏舌らしいが。

「今日は旬の野菜スープと鹿肉のロースト、あとはリエットだ。」

 この宿はスープとパンは確定。それ以外はミネネさんの気分と食材によって大分変わる。例えば俺が回復魔法を習得して吐いた日は、機嫌が相当悪かったのか、スープとパンとまるごと一個のリンゴが出てきた。ちなみに言っておくが、俺だけでなく俺以外の宿泊客にもそれだったらしい。


「いただきます。………うま。」

「だろ?」

「リエットって初めて食べましたよ。」

 つーか見たこともねぇ。前の世界の何料理だ?

「あぁ、そうだろうな。西の方の料理だったぞ。」

「へぇー。」

 西かー機会があれば行ってみたいな。


タッタッタッタッ


 おや、誰か降りてきたな。多分俺と同じ宿泊客だろうが、俺は面識がない。ていうか、この宿の宿泊客と会ったことがほとんどない。夜はいつも最後にミネネさんと晩酌しながら食ってるからね。

 ……ん?晩酌とは言ってるが酒は飲んでないぞ?ちょっとシュワシュワする何かだよ。


「ミネネさん!美味しそうな匂いだね!」

 階段を降りてきた人が嬉しそうに話す。

 じょ、女子だとぉ!?

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