第13話 静けさと忙しさと
「ん………ぅぅ………ハッ!」
リリンさんが勢いよく起き上がる。回復魔法は問題なく効いたようだ。
「お?目が覚めましたか……良かった………」
あんな瀕死の傷、治せるか不安だったからラサさん秘蔵薬を飲んで、最大出力でやっておいたけど、正解だったかも?
「あれ?お腹………って、龍は………!」
「あ……えっと………」
やっべ…治すことに集中し過ぎて、なんも考えてなかった………
「……っ!これは龍の頭!?アズミさん!説明してください!これはどういうことですか!?一体何があったのですか!?」
「スゥー…えっとぉ……突然、見知らぬ人が現れて、たちまち龍を切り刻んだんです…よ。」
「それはどんな背格好でしたか!?」
ヒィ!怖いよぉ……
「えっと…装備は普通の軽装剣士って感じで……見た目は一般的な男性ぐらい…………?」
「顔は?」
「あ…えっと…魔法かは知りませんけど……その人の周囲には水が浮かんでいて……顔は見えませんでした………装備もその隙間から見えた程度ですし……」
頼む!騙されてくれ!
「………私の記憶にそんな方はいませんね。有志の誰か、あるいは新手と言えますね………」
「あの…リリンさん?」
「あぁ、すみません。アズミさん、逃げられた方達と合流しましょう。」
「了解です。」
フゥー…セーーフ。
少し遠くで隠れていた衛生兵の皆さんと合流して、患者さんと食べられた一人を龍の体内から取り出し、土葬することになった。
穴を戻した頃には朝日が昇っていて、龍との戦闘は終わっていた。五人で丘から街を見ると、大半の建物が崩れていた。
全員が不安を抱えながら、テントに向かった。
「やっぱりダメでしたね………」
テントが跡形もなくなっていたのを見て、リリンさんが呟く。
「…ラサさんと合流しませんか?」
衛生兵の一人がリリンさんに尋ねる。
「………そうですね。皆さん疲れてるでしょうが、行きましょう。」
全員が無言で頷く。
歩いてる途中に辺りを見回しても、瓦礫の山ばかり。初めて来た時はまだ街として機能していたが、今はそれもままならないだろう。それぐらい酷い惨状だ。
あぁ、キツ……こういう時こそフィトテラピーしてぇ。……そうだ、この近くの植生を見ることを目指して気を強く持つしかねぇな。
「ラサ!」
ラサさんを見つけて、リリンさんが呼ぶ。
「ん?おお!リリン!それにアズミくんも!」
俺達を見付けて嬉しそうに声をかけてきた。衛生兵の人達一人一人にも声をかけているのを見ていると、後ろから数人が近付いてくる足音が聞こえた。
「アズミ!」
振り返ると、プライトンが抱き付いてきた。
…まぁ、知ってたよ。この作品にヒロインはいないからな!
「プライトン、落ち着けって……」
「心配したんだぜ?俺達が街の援護に来た時にゃぁ、お前がいたテントがぶっ壊されてたからよぉ。」
ダンズが俺の頭を乱暴に撫でながら話す。
「良かったぁ……良かったよぉ………」
プライトンのキャラ崩壊がえげつないが、まぁいいや。
「リーダー、心配かけてごめんなさい。」
とりあえずフランチェスカには謝っておこう。
「ふん、これからもこき使ってやる。覚悟しておけ。」
「えぇ、体調に問題はありません。」
「ならいい。」
なんとか機嫌は悪くしないで済んだみたいだ。
「眼光、良いか?」
ラサさんが俺達に話しかけに来た。
「なんだ?」
「一先ず龍の撤退を確認した。お前達は帰って良い、と言いたい所だが………」
「構わん。少しはやってやる。」
「それは助かる。
……いや、フランチェスカには俺と来て欲しい。」
「?良いだろう。
お前ら、役に立てよ?」
「イェッサー!」
イエスマン再び………
「にしても、なんでフランチェスカは呼ばれたんだろうな?」
ダンズが大量の毛布を運びながら尋ねてきた。
現在、戦闘も終わったため、開放的に怪我人を受け入れている。もちろん重傷者はテントであるが、今のところ運ばれていないため、俺もこっちにいる。
「さぁー?これからの対応とかの話じゃないかね?」
プライトンは包帯の用意をしている。
「アズミはどう思う?」
「あ?あぁ、俺もプライトンと同じ意見だ。」
絶対あれじゃん。リリンさんがラサさんにチクったな?
「これから人種は勝てるのかねぇ………」
ダンズの呟きは朝焼けに溶けていった。
その後はダンズが亡くなった人の身体を運ぶための人員として呼び出されたりしたものの、何事もなくドイルの街に帰ることになった。
馬車の中でフランチェスカが好戦的な笑みを浮かべていたが、気のせいだろうか?
………あぁ!?結局植物見れてねぇ!
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