第12話 気付き
「こ、これからどこに行きましょう………?」
衛生兵の一人がポツリと呟いた。
「リリンさん、どうしますか?」
伝播した不安を拭えないか、リリンさんに尋ねる。
「……あの、丘に行きましょう。ここよりは安全なはずです。」
黙々と歩く。無駄な体力は極力使わないように、台車を五人がかりで押していく。俺も無心で押し続ける。じゃないと頭の中がネガティブに覆いつくされるからな。
リリンさんともう一人には警戒を引き続きしてもらっている。
「すまねぇ、俺達がこんなせいで………」
台車に乗る一人が俯きがちに呟いた。
「気にすんな!」
「そうだよ、治ったらなんか奢ってくれや。俺達命の恩人なんだからさ。」
「…おう。」
軽口によって場の空気が和む。俺には真似できないや。
「着いた………」
一人が汗だくのまま、荒い息でその場に仰向けに倒れた。
「……みんな、一先ずは安全よ。休みましょ。」
リリンさんの言葉に全員がその場に座り込む。患者さん達もホッとしたように胸を撫で下ろす。
俺も足を休めていると、リリンさんが立っているのが見えて、隣に向かった。
「リリンさん、休まないんですか?」
「……あそこ、見て。」
リリンさんの指先につられて見てみると、龍による街の破壊が見れた。
「酷いですね……」
「……あそこには、まだ仲間がいるはずよね………」
リリンさんは暗い顔で拳を握りしめていた。
街の外ではあるが、龍が一匹また一匹と、倒れているのが見える。それにその流れはどんどん街に近付いているようだ。
「リリンさん、外の人達が街の援護に来てるっぽいですよ。あれなら……」
「いいえ、間に合いません。人が亡くなっているのは変わりませんし、あの龍はナイトドラゴンと言って、執拗に人種を付け狙い、首になってでも人種を食らうと言われています。…あいつらは、仲間が死のうが、自分が死のうが、人を食らうのが優先なんです。
想定した中でも最悪に近いです。」
リリンさんは歯ぎしりをしながら戦場を睨んでいた。
「いっそここから爆弾でも………」
「そ、それはやめましょ?」
「…冗談です。」
雰囲気的に冗談に聞こえないんだよなぁ。
「……冒険者や兵士に押されて、龍がこちらに近付いてきてますね。」
「えぇ、気づかれない内に奥へ……っ!
みなさん!森の中へ!龍が…来ます!」
リリンさんが振り返って叫んだ時には、背後の上空に龍が見えた。満月に浮かぶ龍の姿を美しいと感じたのは俺が異世界から来たせいだろう。
「「「っ!!!」」」
「ヒィー、フゥー、ミィー、ヨォー…………
ククク、健康ナ人種ガ七体モ……!ウマソウダノォ?
ダガ……オ前ラハイラナイナ。」
その言葉と共に発せられた攻撃により、台車ごと患者の人達が黒い炎に燃やされる。
「……貴ッ様ァ!」
リリンさんは怒号と共に先ほど持っていた爆弾を投げつける。
ボンッ!
「ゴホゴホ!」
やけに煙が多いな……
「フゥー痒イ痒イ。不味イ肉ヲ処分スル事ノ何ガ悪イトイウノダ。」
き、効いてない………
……あれ?リリンさんは……
「ム?アノ小娘ハドコヘ……」
「死ね。」
ザシュッ!
と、いう音が龍の首もとから聞こえた。
「グオ!?」
龍が暴れた後、華麗に地面に着地するリリンさん。
「浅かったか……」
リリンさんはかなり真剣モードなようだ。
確かに目の前であんなことされたら腸煮えくり返るのも分かる。だからこそ、俺は冷静に動こう。
「戦闘経験者は前へ!その他の方は森に避難を!」
俺の言葉に一人が近付いてきた。まぁ、いないよりマシだ!
「キャスケードインパクト!」
俺は水魔法で龍に対して上から水流をぶつける。
「フン!コノ程度!」
「今だ!」
「ロックガン!」
衛生兵の岩を飛ばす魔法が龍の腹に当たる。
「舞太刀・旋風!」
かっこよ………
「グググ…オノレ………」
「フハハハ!ボロボロデハナイカ!」
「コレガ我ノ同種トハ情ケナイ。」
っ!二体も増えやがった!
「ホウ!丁度数ガピッタリデハナイカ!」
「ウマソウダナ。」
「…………フゥーイタシカタアルマイ。」
あれー?これって追い詰めない方が良かった?
「っ!逃げるわ……」
「オオット!逃ガサンヨ!」
龍の爪が深々とリリンさんの腹に突き刺さる。
「ガフ……」
「あ……」
「ウマソウ!」
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!」
立候補してくれた衛生兵は無傷のまま咀嚼されている。嫌な音で俺を心の底から恐怖を感じる。
「サッキハヨクモヤッテクレタナ?」
次は俺か………
震える手で、剣を抜く。
せめて一太刀!
「ソンナ腰デ我ハ倒セン……ゾ?」
俺の振った剣は、龍の飛行により空振りとなった。それなのに、その龍の首が空から落ちてきた。続いて身体も。
「え?」
異変に気付いた龍二体がこちらに向かってくる。
ど、どどどういうこと!?
俺の剣は空振ったはず!
「ナンダ、コイツ死ンダノカ。」
「ドウデモイイ、ソレヨリモ…分カッテルヨナ?」
「アァ、チャント半分二スルサ。」
マジで意味分からん!どういうこっちゃ!
あぁー!死の危険が迫ってるってのに!
………えぇい!ままよ!
俺はやぶれかぶれに剣を振り回した。
そして、チラリと目を開く。
「………え?」
そこにはさっきまで俺を脅していた二体の龍がバラバラになっていた。
「…………えい。」
俺は軽く剣を振る。
すると、突然手が光り、振った剣に沿った軌道で龍の身体が切れた。
「……………マジ?」
これなに?アズミくんの元々……いやそんなわけないか。じゃあ…………俺?
「あ!リリンさん!」
考えるのは後だ!俺は俺のやるべき事をやんねぇと!
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