第11話 考えらんねぇ

「アズミさん!こちらの方も!」

「はい!」

「こっちヘルプを!」

「今行きます!」

「あと何人入りますか!?」

「頑張って詰めて三人です!」

「二人分確保お願いします!」

「はい!みなさん移動のご協力お願いします!!」

 

 いつぶりだろうか……こんなに汗だくになって大声を張り上げるなんて。医療に良識のある方々にサポートしてもらいながら指示を出すのは心苦しいが、みなさんは俺と違って真剣に取り組んでいる。だから俺が外野から指摘したり伝達しながら自慢の体力で駆け回っている状況だ。俺が真剣じゃないわけじゃないが、これに命を懸けてるって感じが俺には敵わない。






「ありがとう………痛みは落ち着いたよ…………」

 俺が回復魔法を使っていると、一人の兵士が俺の手を覆って魔法は必要ないと目で訴える。

「え?でもまだ…」

「もう十分さ………………」

「アズミさん、あっちのサポート行ってもらえますか?」

「え………?」

「お願いします。ここにはあなたしか、回復魔法は使えないのですから。」

「…………分かりました。」

 俺が立ち上がって少し歩き、ふと振り替えると、その兵士さんの顔に白い布を被せているのが見えた。この世界でも同じ意味ならそういうことだろう。


"「特に重傷者の中で、ギリギリ回復魔法で治るかもしれない人達です。アズミさん。」"


 この言葉を思いだし、彼の最期に安らぎを与えることが出来たと思っておこう。

 でなければ、俺が壊れそうだ…………










「ふぅ~~…………」

「一先ず落ち着きましたね。」

 今日一緒になった人に笑顔で話しかけられた。

「あ、お疲れ様です。」

「お疲れ様です。ゆっくり休んでください。」

「いえ、俺も見回りますよ。」

「あぁいえいえ、あなたは貴重な存在です。無理に疲れる必要はありませんので。」

「あ、はい。」

 断られてしまったか………

 眠れるわけではないが、目を瞑るぐらいでも休息は出来るかな。


 …………………………………………………………



ドゴオォォォォォォォン!!!!!!


「っ!」

 耳をつんざく大轟音と身体を大きく揺らす程の地響きが街を襲う。

「アズミさん!!」

「何の音ですか!?」

「分かりません!ですが、何かヤバイってのは分かります!」

「俺もです!!」

 

「アズミさん、大変です!今の地響きで傷が開いてしまっています!」

「な!?」

「じゃあ俺は外見てきます!」

「お願いします!」

 

 流石に魔力が残っていなかったため、ラサさんの秘蔵コレクションを一本飲み干した。





 回復魔法を使いながら駆けずり回っていると、後ろから声が聞こえた。

「みなさん、ご無事ですか!?」

 その声に振り向くと、息を切らしたリリンさんがいた。

「リリンさん!状況は!?」

「最悪です。夜襲を仕掛けてきた龍種が中央の防衛を突破し、街に流れ込んできています!」

 その言葉に、その場の誰もが固まる。

「そん………な…………」

「じゃあ、もう…………」

 皆手を止めうつむいてしまった。

パン!

 その音はリリンさんの手を叩いた音だった。そして、その一音で誰もが我に返った。

「みなさん!移動の準備をしてください!いつここが襲われるか分かりませんから!」

「でもどこに………?」

「………あるでしょう?誰よりも傲慢で、誰よりも安全な場所で高みの見物をしている存在が………!」

 リリンさんの人差し指はある一点を指していた。

 それは、この街の領主の屋敷だった。

 そして、その屋敷を見ている彼女は、今までのいつ何時も崩さなかった柔らかい顔は鳴りを潜め、とても怖い顔をしていた。






 俺達は持てる限りの物資を持ち、台車に患者を乗せて移動した。患者の大半が兵士だったせいか、この場に残って名誉の死を得ると、頑なに台車に乗ることを固辞した。

 我々は移動時間が速くなるというメリットを得ながらも、釈然としない複雑な感情で歩を進めた。



 遠くの方で人とは違う唸り声が響くのを、神経質に警戒しながら歩いて数分ほど。とても立派な屋敷が見えた。

「リリンさん。」

「なんでしょ~。」

 顔自体は穏やかに戻っているが、疲労は抜けていないようだ。

「皆貴族に対して良い感情は持ってないってことは分かるのですが、貴族は我々にどんな対応を?」

「………無視です。」

 しばらく逡巡した後、ポツリと呟いた。

「え?」

「無関心。興味がないと言った感じであると、言わせてもらいます。」

 どこか諦観した顔で、ため息を吐きながらそう答えてくれた。

「では、目の前にある屋敷は………?」

「確率はかなり低いです。ですが、今はこれしか無いのです。」

「なるほど………」

 博打ってことね………。



 屋敷の正門に着いたが、門兵がいない。こういう時ってそういう人が対応するんじゃないのか……?

 そう思っていると、リリンさんが門の右横にあるスイッチのようなものを押した。

『ザザ………用件は?』  

 すると、そのスイッチの上らへんから男の声が聞こえた。この声が領主なのかな?

 ていうか、インターホンなんだ。

「今日の龍種の襲撃は既にご存じかと思われます。それと、防壁を突破されたということも。重傷者をなるべく安全な場所にとどめておきたいのです。庭の端でも構いません、使わせていただけませんか?

 どうかお願いします。」

 見えているのか見えていないのか分からないが、リリンさんは精一杯の誠意と共に頭を下げた。

「……………」

「今この時も、命が失われています。どうか慈悲深き判断を。」

「………私にはあずかり知らぬことだな。」

 無情にも、屋敷の中からの通信はそれで切れてしまい、これ以降これといった反応は無かった。


 リリンさんや他の人達は落胆しながらも、しょうがないといった表情で、とりあえずこの場を離れることになった。

 それで良いのか?この国の貴族は………?

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