第7話 期待されてないっすわ

 今回訪問したのはドイルの街から馬車でぶっ続け一週間、三つ程離れた街のフダイトーだ。この街は冒険者が不足しているらしく、英雄という憧れを作り、街の子どもたちを取り込むor受け入れやすくする目的があるらしい。冒険者管理所って、ある種の武力を持った独立国みたいなものだからな。多少怖がられるのは当然だろうし、大人に至ってはさらに警戒しているだろうな。


 

 管理所に向かうと、早速奥に通された。

「フランチェスカご一行様。ようこそお越しくださいました。私はこの場の責任者であるポラリスと申します。」

 白髪初老の男性が丁寧に挨拶をする。

「で?何をしろって?」

 そんなものはどこ吹く風とばかりに、ソファにドカリと座ると、フランチェスカが机の上に足を置き、挑発するように尋ねる。

「今回の目的はご存知で?」

「冒険者を増やす…だろ?そりゃ構わねぇが、こんなんで増えんのか?」

「目に見えて分かる物があるかないかでは天と地程の差があります。子どもというのはそのような話が大好物ですからね。それに、それだけではないのです。」

「ほう?」

「龍種からの宣戦布告からしばらく、このフダイトーの街近辺の山岳に龍が住みついているのです。未だに牙は向けられておりませんが、万が一がありますので、調査か最悪討伐をお願いしたい。」

 あぁ…確かに、住んでる家の近くにあんなくそでかい生物いたら怖くて夜しか眠れないよなぁ。

「言っておくが、龍を討伐できるとは思わないでくれよ?」

「それはもちろん。危険を冒してほしいわけではありませんので。」

 フランチェスカは嫌そうな顔をしているが、ポラリスさんは討伐にかなり期待しているようだった。人員が少ないから、情報があっても対処が難しいんだろうな。

「まぁいい、引き受けた。」

「おぉ!では日程は……」

「おい、行くぞ。」

「「「「え?」」」」

「さっさと帰りたいだろ?」

「「「「……………………」」」」

 女王様の仰せのままに、ってか。







 というわけで、ゆったりお昼を食べていた御者さんを強引にフランチェスカが引き摺り、馬車を動かす。

 …ごめんよ、御者さん。後でなんか奢るからさ。


 馬車で数十分揺られて、ゴツゴツとした岩肌を眼前に四人で並ぶ。

「へぇ、ここがムナ山岳か。」

 地図とにらめっこしながら、プライトンが呟く。

 そういえば、なんかすごい人に稽古をつけてもらっていたらしく、効果が出たのか、前よりも立派な剣とC級のタグを見せてくれた。

「ここの………どこだ?」

 ダンズも横から地図を見るが、理解は出来てないようだ。

「上行きゃ良いだろ。」

「だな。」

「簡単だな。」

 フランチェスカの一言で、ダンズもプライトンも地図を見るのをやめ、ポッケのなかに地図をつっこんだ。

 ダンズは素でああなのだろうが、プライトンは明らかにフランチェスカのイエスマンになっている。









「お、おい!洞窟があるぞ!」

 ダンズが見つけたそれの入り口はかなり大きく、俺が前に見た龍なら充分入れる大きさだった。

「行くのか?」

「どうする?」

 フランチェスカはじっと洞窟の中を見つめた後。

「四人で行くぞ。」

「おう!」

「了解です。」

「はい。」

 実は今日初めてのセリフだ。







ーガルドランザー


 フッフー今日はキノコが採れたからキノコと香草の包み焼きかなぁ。

 今日も今日とてスローライフ。戦争というしがらみから抜け出してきた僕の日常は平穏で埋め尽くされている。……はずだった。


「うわ………」

 に、ににに人間だぁ!?

 まずいよ!しかも、武装してるし!どうしよぉ!

 僕が焦っていると、四人組の人間が話す。

「どうするフランチェスカ。殺るか?」

 ヒィ!

「…………おい、お前。話せるか?」

 へ?……そ、そうか!戦いに来たわけじゃないんだ!良かったぁ!

「ぐらぁあぁぁ!あがうぅうぅぅ。(訳:僕はガルドランザ!名前は厳ついけど気にしないでね。)」

「「「…………」」」

 え?何何?この空気!僕変なこと言ったかな?

「ぐぅあぁぁぁ(訳:どうしたんだい?)」

「チッ!しゃーねぇ殺ってやるか。」

「向こうも唸ってやる気みたいだからな。」

「俺の剣術見せてやるよ!」

 ………あれぇ?おっかしいなぁ?唸ったつもりは…あ!言語習得してなかったんだった…………

 バイバイ、僕の平穏………


「突貫!」

 赤銅色の髪の女性が槍を持って突撃してくる。

 その後ろにはバンダナを巻いた男と、剣を持った男と後ろで待機してる男。最後の一人は動かなそうだから良いや!


「ぐらあぁぁ!?(訳:いった!?)」

「よし!効いてる。ダンズ、プライトン!続け!」

「任せろ!破搥!」

「受けられるか?スケイルスラッシュ!」

「がぁらあぁぁぁあ!!(訳:負けちゃうよォォ!!)」

 その時、洞窟の天井からたくさんの影が武装集団を襲う。

 は!あれは僕がこの洞窟に来たときに、他の動物が逃げるなか、逃げずに共存してくれたコウモリたち!僕を助けてくれるのかい!?

「な!?こいつら!」

 よしよし!武装集団も困惑してる!

「気を付けろ!パラスバッドだ!大型の生物の血肉を吸い取って、衰弱したところに寄生する奴らだ!あの龍、そんな危険な奴らを支配してんのか!?」

 剣の男の衝撃的な発言に僕の頭がフリーズする。

 えぇ?じゃあ…いつも僕が起きる時に身体が痒かったのってそのせい!?ウソォ!?


「あ、俺もコウモリ対処します!」

「アズミ!お前は剣を抜かなくて良い!回復に専念だ!」

「了解です。」


 ど、どうする?今ならこっち見てないし……確かこの上は何もなかったはず!

 僕は思い切り力を入れて、翼を動かしながら天井を突き破る。


「がうぅぅ!ぎいあぁぁ!!(訳:ひえぇ!?!?いったぁーい!)」

 うぅ、次の楽園はいつ頃見つかるやら…………

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