第8話 はしゃいじゃった

「ゴッゴッ……チッ!」

 ダァァン!!!

 酒を飲んだ後に、舌打ちをしながらジョッキを机にぶっきらぼうに置く。いや、叩く。これがガラス製だったら一瞬で粉々だったろうな。なんとか木製だったお陰で、ミシリ、という嫌な音だけで済んだ。

 なぜ、我らが女王様がキレてるかというと、先刻出会った龍を逃がしてしまったからだと推測される。ポラリスさんは撃退してくれたことにかなり感謝してくれて、相当な量の報酬もゲットできた。

 酒場に入る前は、やっぱり私は…とか、こんなんじゃ…とかぼやいていて、かなり責任感の強い人なのだと、フランチェスカの株が上がったものだ。

 ……まぁ、現在の酔っ払った姿を見た今じゃ、元に戻ってしまったがな。

「フランチェスカ~、落ち着いたかぁ?」

 酔っ払いダンズがフランチェスカに絡む。

「てめぇ、殺されてぇのか?あ!?」

「怒んなって、丸く収まったんだから良いだろ?」

「………あぁ、今はな。」

「?」

「私はもっと強くなるんだ……そうすれば………」

 呟いたフランチェスカの言葉は、周りの喧騒に掻き消えて、誰の耳にも入ることはなかった。


「にしても、アズミィ~。お前の回復魔法すごかったなぁ~!パラスバットの嚙み跡が残らず消えてらぁ。これからも頼むぜ!」 

「あぁ、でもこれからは水魔法も鍛えて、後方からも攻撃支援もこなせるようになりたいんだ。」

 このままじゃ、いつかリストラされる未来しか見えんのでな。

「ハッハッハ!そうかそうか!頑張れよ!」

 ダンズの気合注入張り手で背中がじんじんする。

 ちなみに、プライトンは女王様の機嫌が悪いことを察知したのか、報酬を貰った後、

 御者さんに悪いことしたから奢ってくる!

と、言い残して走り去った。多分今頃、御者さんと一緒に愚痴でも言い合ってるのだろう。





 俺はそっと、ダンズに耳打ちをして外に出る。ドイルの街に帰るまであと二時間程。離れた地域の植生を見に行くことにした。

 だって俺いても意味ないし、フランチェスカはキレてるし、ダンズはうるさいしな。

 


 確かフダイトーは丁度雪が降るところと、降らないところの中間らしい。つまり、日本に近いということ。ならば!ブロンズドラゴンの生育地になりえるのだ!

 というわけで、レッツゴー!



「アジサイ…………」



「菊………」




 ダメだ!前世でずっと見ていたせいで、持ち帰るほどとは思えない!


「?………あれは、ダリアか!」

 それは四メートルは優に越すであろう草丈のダリアが竹林のように生えていた。

「皇帝ダリアか………欲しいけど、持って帰れんなぁ。」

 流石に四メートルの植物を馬車に入れることは出来ないし、う~ん。


「すこし申し訳ないが、一本いただくか。」

 この前買ったショートソードを使って、近くの皇帝ダリアを根元のちょい上で切り落とし、切った皇帝ダリアを等間隔で切っていく。

「確か挿し木で増やせた…はず!」

 とりあえず水魔法で乾燥させないようにする。

 ホント便利だなぁ~。





 しばらく歩くと、丘陵が見える。

「おぉ、いい感z……」

 と、思っていたら地面が湿地だったようで、足元をとられた。

「ネチョッてるぅ~よっと……っ!?」

 今一瞬チラッと見えたが、まさか!?

 俺は自分の仮説を確認するために、急いで足を引き抜き、少しダッシュして前傾姿勢になった。その瞬間、俺は湿地に顔からダイブした。


「く……いって……!……やっぱり!」

 足を滑らせて、全身に衝撃が走るが、今はそれよりも目の前に集中してよく観察する。

 俺の仮説は正しかった!

 それはシラタマホシクサと呼ばれる植物だ。花はまだ開花していないが、前世でずっと育てたかった品種の一つ。間違えるわけがない!

 俺は地面に寝転がった状態のまま、ナイフで地面をえぐり、シラタマホシクサの株を取り出す。

「ヘイ!カモン!水魔法!」

 水で覆って鞄にそっと入れる。意識を集中させれば、水魔法の水は外部へと干渉しないように設定できる。そのお陰で、なんかの革のカバンでも濡れる心配がなくて安心だ。


「さぁてさて、気を取り直して丘陵~。」

 俺が意気揚々と登っていると、数多の雑草の中に光輝く存在が………!

「ま……さか…………!」

 いや、待て!落ち着けーアズミ!ここで、冷静になるんだ。はやまるんじゃない。

 萼片は…反り上がってる!

 ………ゴクリ。自分の唾を飲む音がやけに耳に残る。

 俺はゆっくりと、雑草の下に隠れているあそこを見る。

 ロゼット…………!

「うおっしゃあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」

 見つけた!コケリンドウ!最高だ!まさかこの世界で会えるなんて!

「こんなん取るしかないっしょ!」

 俺はルンルン気分でコケリンドウを無事捕獲し、鼻歌交じりにフダイトーへと戻った。

 三種類も取れれば大満足だ。……そういや、今何時だっけ?腕時計ないから分かんねぇや。




 その後、フダイトーに戻った俺は、フダイトーの入り口で笑顔で腕を組みながら仁王立ちをしているフランチェスカを見た、その瞬間、見られてしまった。

 俺がドロドロの服を着ていてもお構いなしにボコボコにされ、正座で三時間反省を促された。

 その結果、ドイルの街への帰還は明日となった。

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