第6話 疲労とストレス
「ふむ、回復魔法は充分使えるようになったな。もう来なくて良いぞ。」
「は、はひ……ありはとぉ…ごさいはぁしは………」
フラフラの足取りで借りている宿に戻る。
あれから一月、仕事をする暇もなく回復魔法を叩き込まれてしごかれて、あの時の貯金を切り崩してなんとか生きてこれた。
体力には自信があったが、ストレスで吐いたのは初めてだった。つーか、絶対あのおっさん嫌々やってたんだろうな。清々しい顔で鼻で笑いながら放り出しやがってよぉ………
まぁ、これでまた植物採取に……
「お、アズミ!…どうした?元気ないな?」
「ダ…ダンズ…回復魔法、使えるようになったぜ…」
俺がヘロヘロの腕でサムズアップをする。
「お!マジか!丁度良いな!明後日フランチェスカが帰ってくるから、早速出発するぞ!」
「はえ…………?」
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ…やばい。
「スマン、出発は了解した!」
「そうか!体調には気を付けろよぉ!」
急いでダッシュして、宿のおっさんに合図としてウィンクを送り、俺は宿のトイレで吐いた。その時、おっさんは嫌そうな顔をしながら、親指で首を切るジェスチャーをしていた。まぁ、見間違いだと思うけどね!宿屋やってんだから、そんくらいでキレんじゃねぇよ!掃除もてめぇの仕事だろうがよ!
……あ、や…………………………
「うあーすっきりー。」
やはり、俺には植物が無いとダメらしい。
ここまで、吐いた回数が二回で済んでいるのは、ズエッタさんに要望通り作って貰ったあの鉢を買い取り、早速植えたアカバセンニチコウに癒されてるからだろう。
ブロンズドラゴンちゃん程では無いにせよ、やはり植物。心が和らぐ。ここら近辺の土地はやはり異世界だけあって、肥沃な土地と砂地のような場所が何種類もあった。
あるところには一帯全域にハイデ(エリカ)が群生していて感動したものだ。あれは持って帰るのではなく、あそこに行って見るからこその価値を感じた。
桜の花見みたいなノリよ。
「……さてと。」
落ち着いたところで、一つ。水魔法についてだ。アカバセンニチコウに水魔法で生成した水を固めて底面給水モドキは出来た。でも、それだと藻が生えたり、根腐れの危険がある。
ていうか、受け皿が無いねん!全部、ひらべっっったい!あんなんじゃ、一日も持ちませんわ!
という事情により、水の固定は出来たのだが、この地域は湿潤温帯の冬に気温が5℃以下にならないバージョンらしい。つまり、日射光で水温が上がってしまうのではと。警戒しすぎだと思われるが、念には念を入れたい。そりゃ、探せばまた見つかるが、疲れた旅から久し振りに帰ってきたら、育ててた植物が枯れてましたぁ…とか萎え以外の何者でもないからな!
それに、愛着だって湧くもんさ。
「んんんん………どうす…………あ!」
試してみるか。
まず、水魔法を出します。ここで、意識を向けなくなると地面にシミを作る。
そこで、今日で免許皆伝を貰った回復魔法の応用である、魔法を行使する。
「ライフパス。」
これは指定した生物のバイタルをチェック出来て、異変が起こると俺に知らせが来るものだ。感覚的にはゲームで味方チームの体力が左上に表示されてるみたいな気分だな。
本来ならそれだけだが、魔力をさらに注ぎ込み、ライフパスを病院のチューブの管のようにする。
「ここに…アクア。…………成功!ヒャッホー!」
無事、チューブから水魔法が流れ込み、アカバセンニチコウに水を供給できた。このチューブも俺の魔力によるもののため、見えないし、誰の邪魔にもならないし、最高だな!
「ふへ、これなら鉢を増やしても良いかもな。」
早速俺は、駆け足でズエッタの働く工房に向かった。
「おし、揃ったな。行ってさっさと帰るぞ。」
フランチェスカがメンドクサソーな顔をして、馬車に乗り込む。続いてダンズ、プライトン、俺の順番で座り、場所はゆったりと発進する。
フランチェスカは睡眠。少し、目の下に隈もあったし、余程疲れているのだろう。イランイランとかベルガモット、ラベンダー、ローズマリーあたりを見つけたら贈った方が良いかな?
ダンズとプライトンはどの受付嬢が好みか討論をしている。まぁ、俺的には正直どうでもよろし。人間の女に興味は…無くはないが、モテたことがないからとっくの昔に諦めた。
さて、手持ち無沙汰になっちまったし、うちの植物達の確認でもしますか。
ちなみに、あの後三人新しい仲間が出来た。
まずはァ一人目!ハーブティーやサラダの盛り付けに使われるゥ、サルビア・ラバンドゥリフォリアちゃん!(スパニッシュセージ)
続いてェ二人目!日本でも自生しているが、少し耐寒性に弱いため、一年草として扱われるゥ!バーベナ・オフィシナリスちゃん!
そしてェ、最後三人目!実は結構珍しい!見つけた時は少し発狂した負い目があるゥ!フィカス・エラスティカ"ジン"ちゃんんんん!
以上、三名にアカバセンニチコウを合わせた四人が我が子なのです!
うん、ちょっと虚しいな……………
「着きましたよ。」
御者の一言に、馬車の中の全員がため息を吐きながら腰を叩く。
出発してから一週間。野宿すらせず、馬車に揺られながら夜を過ごした。要望したのはフランチェスカだったため、誰も言えずじまいであった。
ちなみに御者さんは三人体制で馬車は王家から貸し出されたもののため、めっちゃでかい。フランチェスカにも配慮された、かなり大きな作りになっていた。
旅の当初、今気付いたけどフランチェスカって女だったな…
と思った瞬間、フランチェスカがめっちゃ睨んできたのは良い思い出だ。
まぁ、今はそんなことよりも…………
「「「「いってぇ………」」」」
この時、初めて四人の考えがシンクロした。
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