第5話 真面目そうなお話

「お、来たか。」

「はい?来ましたがぁ……何おぉ??」

 次の日、俺が冒険者管理所のドアを開けるとダンズが笑いながら俺を受付の方に引っ張る。冒険者だけあって力も相当だ。



「これで、全員だ。」

 受付の奥の部屋に連れていかれ、ソファに座らされると、奥からフランチェスカ、プライトン、ダンズ。目の前にハタマンさんと知らないおじさんがいた。

「集まってくれてありがとう。今日は三人に提案があってね。」

 提案?見た感じ、フランチェスカ以外かな。

「さっさと本題入ってくれ。」

 フランチェスカはいつも通り臆してないが、ダンズとプライトンは目の前、特におじさんをチラチラ見ながらびくついている。

 ……絶対偉い人だ……!

「あぁ、フランチェスカは今や上位龍を屠った英雄だ。そこで、フランチェスカには各地を巡ってもらい、その勇姿をこの国の人々に見て貰いたいんだ。そこで、選りすぐりの戦士達と組んで貰いたかったんだが、フランチェスカが拒否してね。困っていたら君たち三人なら構わないと言ってくれたんだ。

 …どうだい?もし組んでくれれば、それだけで報酬を払うし、巡ると言っても一地域毎にこの街に戻ってこれるが?」

 ……知ってる、これ断れないやつだ。

 俺がそう思っているとダンズが俺とプライトンの耳元で囁く。

「これはこの国の王様直々らしい。この意味が分かるな?それと、アズミは分かってないかもしれんが、隣の方はこの地の領主様だ。」

 どうやらマジなやつみたいだ。

「おい、ハタマン。妥協案出してやった上に、ほとんど強制してんだ。三人になんかあるんだろうな?」

 フランチェスカが机に穴を空けながら尋ねる。

 うーん、ナチュラルデストロイヤー。

「もちろんだ。まずアズミくん。」

「あ、はい。」

 まさか一人目か。まぁ一番雑魚だし。

「君は水魔法の才能があっただろう?そこで、回復魔法を無償で教えるというのはどうかね?我々も回復魔法を使える者が側にいてくれれば安心だ。」

 ここで、またダンズが耳元で囁く。

「回復魔法は限られたやつにしか教えて貰えない貴重な魔法だ。回復魔法は前提として水魔法の才能が無いと門前払いされるらしいぜ。それに、もし金を使うとしたら…金貨千枚は下らないだろうな。」

 ひえぇ…そんな大金がかかることをポンと提示するとは、相当この案件にかけてるってことかな?

 まぁつまり…………はいかイエスだね、了解。

「俺は構いません。ただし、一地域毎に必ずこの街に戻る。それが守られるならです。」

「もちろんだとも。英雄とはいえ人だ。休息も考えているさ。」

 ならば、良い。ズエッタさんとこに後で話に行かないと。後は水魔法を上達させて、長い間水を保てるように出来れば完璧だな!じゃなきゃ植物達が枯れてしまう。


「次に、プライトンくん。」

「は、はひ!」

 緊張してるなぁ。

「君には、剣術の師匠を見繕うというのは如何かな?」

「は、えっと…お聞きしますが、どのような?」

 そこで、ハタマンさんが、領主様に目配せで確認を取り、領主様は頷く。

「第二騎士団騎士団長のドレン…」

「え!?あのドレン様ですか!?」

 うわ、うるさ……

 ハタマンさんも領主様も驚いちゃってるよ。

「そ、それで、良いかい?」

「はい!あ!どれくらいの期間でしょうか!?」

「フム、フランチェスカの諸々が終わるまでだし、一月はあるだろうな。」

「っしゃ!………すみません、ありがとうございます!!!」

「そうか、喜んでくれて何よりだ。」

 若干引き気味に、笑うハタマンさん。


「最後に…ダンズ。」

「おう!俺には何があるんだ?」

 嬉しそうに尋ねるダンズ。

「お前は、今回の件でB級に再度昇格だ。」

「お、やっと俺も返り咲けるってわけ……」

「ふざけんな!!!」

 呑気なダンズとは裏腹に、完全にキレた口振りで腕を振るい、さっき穴を空けた机は、今度は右側の両足がベシャリと潰れ、机の上にあったティーカップが宙を舞う。

 当のフランチェスカは、わなわなと身を震わせている。

「何が不満なんだ?」

 ハタマンさんがこれまでとは打って変わって、フランチェスカを睨み付ける。

「ダンズがC級に降格したのは、あのグズ貴族のせいだろ!そんなのが報酬になるわけない!」

 そう叫びながら、ソファの横の棚に置かれていた高そうな壺を粉々に破壊する。

 それを見て、ハタマンさんの眉がピクリと動いたが、まだ冷静なようだ。

 ちなみに俺ならぶちギレてフランチェスカに半殺しにされるだろうな………

「ハァー…それは違う。あれはお前に求婚した貴族が、お前に振られたメンツを取り返すために、ダンズに八百長で勝つという提案をして、ダンズがそれを了承した。そして、それの条件にランクの下降があっただけだ。命を取られないだけマシだと思うが?

 しかも、それで言ったらフランチェスカ。全部その状況を作った、お前のせいだろ?」

「ぐうぅぅ………!言わせておけばぁ!!!」

「止めろ、フランチェスカ。」

「……チッ!」

 ダンズが手で制すように言い、フランチェスカは不満そうに引き下がる。

「ありがとう、怒ってくれるのは嬉しいが、決めたのは俺だ。それに、ハタマンも言ってるだろ?命があるだけ良かったよ。」

 ダンズは胸を二回程叩きながら、フランチェスカに優しく微笑む。

「じゃあ、ダンズ、それで良いか?」

 ハタマンさんが確認するようにダンズを見つめる。

「もちろん、俺に異論はないぜ。な?」

「ハァ…好きにしろ。」

 フランチェスカがふっきらぼうに呟く。

「よし、じゃあフランチェスカ以外の三人はもう帰って良いぞ。」

 こうして、俺は緊張感の走る部屋からの脱出に成功した。


「とりあえず、今日も採取に出掛けるか!まだ見ぬ植物とマイスイートハニーを求めて!」

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