第3話 紛らわしいねん!

 とりあえず、ダンズとプライトンに指導してもらって必要なものを教えてもらえた。さらに、初心者セットだと言い張ってダンズが全て料金を負担してくれた。本当に頭が上がらない。





「おい、遅いぞ。」

「そこまで過ぎてねぇだろ。カリカリすんな!」

 ニカッと笑うダンズに対して、舌打ちをしてさっさと門から出ていくフランチェスカ。

「じゃ、行くか。」

 さっき聞いたら、ダンズとフランチェスカは冒険者としての同期らしい。フランチェスカに馴れ馴れしくしても睨まれない数少ない人だとか。

 俺的には睨まれてた気がするんだか、まぁ良いか。


「なぁ、フランチェスカ。」

「…………」

「なぁ、フランチェスカ。」

「………………………」

「なぁ、フランチェスカ。」

「あぁぁ!何だよ!」

「俺達はどこ担当なんだ?」

 えぇ……あの迫力をスルー?冒険者怖………

 いや、プライトンは顔を反らしてるし、ダンズが慣れてるだけか?

「チッ!…私達はクリューネ森林の沼地だ。曇天が龍を倒したエリアのすぐ隣だ。」

「ハハッ!流石はB級様!重要だな!」

「……お前も前は……」

 フランチェスカが何かを言おうとした時、近くで轟音が響き、鳥達が一斉に飛び立つ。

「行くか?」

 プライトンが恐る恐るフランチェスカに尋ねる。

「当たり前だ!」

 フランチェスカが走り出したのを見て、俺達三人もなるべく離れないように走る。




「っ!」

 木々に隠れるようにあちらを見つめていたフランチェスカは何かに気づいて黙っていた。

「おい!フランチェ…」

「黙れ。」

 小声ではあるが、迫力のある声に三人で静かにフランチェスカに近付いた。

「見ろ…死んだ龍の羽のところだ。」

 フランチェスカに言われ、よくよく凝視していると、人影が見えた。

 その人はブロンズヘアの男性で、どこか悲しそうに龍の死骸を見つめていた。

「おいダンズ、分かったか?」

 フランチェスカが真剣な顔でダンズに目線を送る。

「あぁ……プライトン、ちょっくら一走りして知らせてくれ。龍が出たってな。」

「やっぱりか……分かった。」

 そう言って、プライトンが走り去ってしまった。

 これは、状況的に聞いて良いのかな?

「スマン、アズミ。事情は後で良いか?」

「分かりました。」

 俺は出来る中年だ。TPOは弁えてるのさ。

 見た目は青年だがな!









ーフランチェスカー


 まだ…まだ……よし。

 そこ!

 カキィィィイン!

「へっ!」

「………」

「フッ!」

 ガッ!

「…………」

「マジかよ………」

 私が気を引いてダンズのハンマーで頭をカチ割る予定だったんだが、それすら無傷かよ……


「ダンズ!本気でやったんだろうな!」

「当たり前だ!」

 まぁ、そりゃそうだよな……

「貴様ラカ………?」

「あん?」

「貴様ラガ、我ガ妻ヲ殺シタノカ!」

「ヒュ…」

 息を飲む音が聞こえたがどちらか分からない。どうせ二人ともだと思うほど、目の前の存在は驚異と言えた。

「おい…どうする、フランチェスカ……」

「チッ!」

 曇天のアホどもが!龍種は仲間意識が強いから、死骸はどんなに急いでいても片付けろって言われてるだろうが!

「私達は…!」

「言葉ハ不要……」

 あぁ!最悪だ!さっき妻とか言ってたよな!?さらにやべぇじゃねぇか。即殺されないのが不思議なくらいだ。

「貴様ラヲ殺シテ、コノ先ノ街モ破壊シテヤロウ…我ガ妻を殺シタノダ、ソノ程度デ済ンデ嬉シカロウ?」

 目の前の人型の龍は、鋭い牙を見せながらこちらを興味無さげに見ていた。

 

「スゥー…ハァー…………ダンズ、お前は街に行け。そこで避難誘導だ。」

「はぁっ!?何言って………」

「分かってんだろ。やべーって。」

「…………」

「このままじゃ、全部終わりだって。」

「だが!」

「冒険者、それは使えない貴族のかわりに人々を守るための組織、呼ばれれば何日かけてでも人を助ける命がけの冒険をする。私達は戦うことじゃない、守るために冒険する仕事だ。目的を履き違えるな。」

「……くっ!生きろよ!」

 ダンズの言葉に何も返さずに、龍を睨む。

 そんな確証のない約束をするほど、クズになった覚えはないからな。

「愛スル男ヘノ、死出ノ言ノ葉ハ、モウ良イノカ?」

「愛するぅ?寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよ。」

 ダンズと私がぁ?…無いな。

「知ッテルゾ。照レ隠シダロウ?我ガ妻モイツモソノヨウナ感ジデアッタガ、フイニ甘エテクルノガトテモ可愛ラシクテナ。」

「てめぇの惚気なんかどうでも良いんだよ。

 やろうぜ。私はフランチェスカだ。」

「フム………アノ男ニハ申シ訳ナイガ、死ンデモラウゾ、フランチェスカ。我ハ"ゴーラム"ナリ。」

 あぁ…一体何分耐えられるだろうか。






「チェイヤ!」

「フン!」

 私の槍による振り下ろしは片手で受け止められた。

「せい!」

「軽イナ。」

 そう言うと、ゴーラムは人差し指で私の槍を押し返してくる。

「クソがよ!」

 私の横凪払いもどこ吹く風とばかりに避けられる。

 なんとか首の付近に刃が届けば良いんだが………噂程度だが、龍種は顎と首の間が弱点らしい。

 本当ならこんな情報にすがらなければいけないなんて嫌だが、そうしないと勝てない自分が情けない……


「コレグライナライイカ?」

 私が硬直した一瞬に、ゴーラムは予備動作もなく繰り出してきた回し蹴りで、私は後ろの樹木に身体を打ちつけてしまった。

「ガハッ!?」

 背中に強烈な痛みが走り、木の破片が身体に突き刺さる。

「少シ強カッタカ。」

 私にゆっくりと近付きながら呟く。

 あぁ…頭がクラクラする……こりゃやべぇな。

「ハァ…ハァ…バケモンがよぉ………」

「人カラ見レバ、ソウデアロウナ。」

 何なんだ、この違和感は……

「お前……変わってるって言われないか?」

「ホゥ…ヨク分カッタナ。」

 だろうな。ハハッ、相手の心配をする龍なんて聞いたことがねぇ。

「モウ、良イカ?妻ヲ殺シタ罪、償ッテモラウゾ。」

 ゴーラムが手を構えたのを見て、自分の最後を悟る。


 「諦める暇があるなら、考えろ!そうすりゃ大抵な

  んとかなるぜ!」

  あの野郎、どこまで私に干渉するんだ………

  でも、ダンズ……分かったさ。感謝してやるよ。



 諦めて閉じていた目をしっかりと開いて、最後の足掻きを試みる。

「人ハ確カ………胸ダッタカ……好キデモナイ男ニ触ラレルノハ辛イダロウガ、我慢シテクレ。」

 こいつは一体何に配慮してるんだか……

 まぁ良い、ここで…槍を……!

 その時、何が起きたのか、ゴーラムが私とは逆に倒れるのが見えた。

 異変を感じ下を見ると、ゴーラムの両足首が綺麗に切れていて、それに気付いたのは私の方が少し早かった。それが、全てを変えた。

「と…どけぇ!!!」

 私はゴーラムに覆い被さるように倒れ込みながら槍を捨て、腰の高級な素材で作られた短剣を下から、龍種の弱点に目掛けて突き刺した。


ザシュ!


「ガ……見事………ナリ……………………」

「ハァー………ハァー…………勝…てた?」

 なんとか気力で立ち上がり、ナイフをしまう。

 あの足首の謎は残るけど、今は…もう………

「フランチェスカ!?大丈夫ですか!?」

 あ?あー……あの新人か……確かアズミ、だっけ?

 ダンズと一緒に逃げて、なかったのか……………

 私は疲労により、そこから意識を手放した。









ー少し戻って アズミー


 ダンズとフランチェスカの戦闘が始まった。

 これは息を飲む……む?この植物はもしや!?

 ……………………






 クッ!俺の愛しのブロンズドラゴンちゃんはどこなんだ………

 今見つけたのはアカバセンニチコウだった。

 ………これで、紛らわすしかない、か…………

「ハァー………まぁ、無いよりマシだ。」

 そこで、俺はナイフで土を抉り、根ごと株を持つ。

「ここで、水魔法!…ウッヒョー!」

 根を水で覆うことが出来た。これで一日は保ってくれるだろう。なんて便利なんだ……!

「あ、ちょっと根が長いな。」

 俺はアカバセンニチコウを地面に置き、左手で株を抑えてナイフで根を下から切る。

 その時も手が微かに光っていたが、気付くことはなかった。

「フゥー………」

 上手く切れた嬉しさで立ち上がると、フランチェスカがフラフラしているのが見えた。そして、さっきの龍らしき男が倒れているのが見えた。

 やっぱ、B級って強いんかなぁ……ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ!

「フランチェスカ!大丈夫ですか!?」

 俺は、アカバセンニチコウを水魔法で覆ってから、フランチェスカの介抱に向かった。

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