第2話 金を求めて何歩でも

「ほぇ~……ここが街かぁ。」

 端から見たら完全なおのぼりさんだが、正直気にならない。それくらい、俺からしたら目の前の光景は壮観である。

 ちなみに、門は問題なく通れた。元のアズミくんが村の身分証と現金を持っていたお陰だ。


 とりあえず……どうしようか?ここには案内標識とかも無いだろうし、冒険者にならない以上どうやって資金調達するべきか。

 門兵さんにも聞いてみたが、伝手がないなら冒険者一択って言われてしまった。


 ………しょうがない、冒険者としてやってくか。

 さっきの門兵さんに場所は聞いていたからさっさと行っちゃおう。







 とりま、登録した。

 どうやらアズミくんは水魔法を使えるらしい。つまり俺だな。正直嬉しい。水量の調節を自分の感覚で出来るのはありがたい。

 色々言われたが、問題起こさない、犯罪しない、他の冒険者と仲良く、他の冒険者の獲物を盗らない、依頼はなるべく完遂する、何かあったら報告する、くらいかな?まぁ、倫理観をちゃんと持ってりゃ大丈夫だろ。


 初めてだし、簡単そうなのぉ……お、植物採取か。

 俺はそれを取ってまじまじと読む。

 回復薬に使う植物の採取、丁寧に絵付きでこの植物と解説されている。

 コロハクの根っことオウトウの種子。

 ……絵だけじゃ分かんねぇな。

 とりま、出るか。





 えーと、ここがコロハク?のある場所か。

 そこはかなりの年月を生きたであろう大樹の影になっている場所だった。

「お、これが…コロハクだな。」

 俺から見たらどう見てもアマドコロだが、こっちの世界の呼び方にも慣れないとな。


 それで、オウトウはもう少し先か。

 しばらく歩いていると、黄色い果実をつけた樹木が所々に乱立していた。

 ふーん、オウトウってアンズの事か。

「ここを……こう!おぉ!」

 自分の手から水魔法が飛び出し、オウトウの果実はそれで地面に落ちる。これを何度か繰り返し、ナイフで果実を切り取って種子をえぐりとる。

「………こっちのアンズ……食ってみっか!」

 俺は規定量の種子を取り出した後、指で果肉を掬って口に入れる。

「あぁむ……酸っぱ!?」

 だが!これでも親に厳しくされてきた俺のプライドが、口の中のものを吐き出すことを拒否する。

「ぐ……むぐぅ…………」

 何とか飲み込み一息ついたが、もうオウトウを食べることはないと…思いたいな。

 まぁそれはそれで、これだけなら楽なんだが、貰える金が少ないんだよなぁ。

 俺は見たくない現実に肩を落としながら、街に戻るのだった。





 依頼達成による報酬は銅貨五枚。日本円で五百円。

 ……子どものおつかいかな?

 まぁでも、戦いはしたくないし、副業探すか?

 と、言ってもなぁ…俺の得意分野なんて植物一択だし、冒険者管理所の受付の人も、植物に関する仕事はもっと大きい街とかの設備が整ってる場所ですってさ………だろうね。知ってた。

 将来の展望が絶望的なことから逃げるように、冒険者管理所のテーブルイスに腰掛けていると、受付の人や職員の人達がバタバタと慌て出した。

 それはかなり珍しいのか、周りの冒険者さん達もザワザワとしだした。


「この場にいる者だけでも聞いてくれ!ここの責任者のハタマンだ!

 突然だが、この街の近くに龍が出た!それもただの龍ではない!喋る程の知能を持った存在だ!幸い、それはここにいるA級冒険者の曇天が倒してくれた!だが、驚異が去ったとは言い難い!

 そこで、緊急依頼を発令する!内容は偵察と調査!報酬も払うが、何が起こるか分からん!それでも良いやつは受付に来い!」

 そう叫ぶと、ハタマンさんは足早にどこかへ消えていった。

 なるほどな。あの龍を解体しなかったのは、緊急事態だったからか。そりゃ、急ぐわな。


 この緊急依頼、受けようかな……偵察なら俺の鍛えられた足腰でなんとかなるだろうし、もし龍に遭遇しても逃げるか、他の冒険者の人に任せれば良いかな?

  






「アズミです、よろしくお願いします。E級です。」

「おう、E級でそんな堂々としてられるやつ初めて見たぜ、気に入った。俺はダンズ、C級だ。敬語は無しにしてやろう。」

 頭にバンダナを巻いて、ハンマーを持つ男性。

「俺はプライトン、D級だ。俺も敬語は無くていい。」

 腰まである長髪を一本に纏めた剣士。

「けッ!雑魚の面倒見かよ。」

 右目が包帯に覆われた、小柄な女性。

「そう言うな、フランチェスカ。」

「出るのは、二十分後だ。南門に来い。」

 フランチェスカと呼ばれた女性はそのまま去ってしまった。

「…えっと?」

「あぁ、彼女はフランチェスカ。B級だった。」

「だった?」

「……詳しくは知らないが、なんかしくじって罪を償えるほどの働きをするまでタダ働きだとさ。」

「辛い……」

 何か、違反したってことか?でも捕まってるとかじゃないし、そこまで悪さはしてないのかも?

「まぁ、口は悪いし態度も悪いし性格も悪いが……強いのは確かだ。」

「ダンズ、それとアズミ。早くしないと支度出来ないぞ。」

 プライトンが呆れたような声で、指摘してきた。

「おっと、だな。せっかくだし、三人で行くか!新人の登録祝いも含めてな!」

「い、良いんですか!?」

「まぁな。俺が新人の時にもそうしてくれる人がいて、助かった事実があるからな。」

 めっちゃ、エエ人や。

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