第5話 8年前の夏に戻る
「ドサっ」と僕と葉山は地面に落ちた。
「いたっ。」
「葉山、大丈夫か?」
「あー、大丈夫だ。それよりここは?」
葉山が辺りを見回して
「なーんだ。裏山か。」
僕も回りを見渡す。見覚えのある景色だ。
僕は尻もちをついた。土のついたズボンをパンパンとはらった。
カブトムシめ、『時空を戻す』とか言いながら
これじゃ、単なる空間移動じゃないか!
やっぱり口だけか。
「葉山、悪い。しゃべるカブトムシに、なんか騙されたよな。教室から裏山に移動しただけだよな。
良くテレビの特番とかで、睡眠?眠らされている間に
“はい。瞬間移動しました。“的な。
単なるトリックだろう。
もしかしたら、その辺からテレビのカメラクルーが”ドッキリでしたあー!“とか出てくるんじゃないか?」
「そうか、シュン。それはそれで楽しいぞ。」
「葉山は、前向きだな。僕はカブトムシを捕まえてオオクワガタとバトルでもさせたいよ。」
「なんだよそれ。小学生が思いつく罰ゲームだな。」
「そうか?しかし、あのカブトムシに仕返しをしたいが、どうせ機械で作られたニセものさ。
そうだ。カブトムシをつくった奴に仕返しをしようぜ、葉山。」
「そうだ。そうだ。」
僕らが息巻いているとあの、まるまるしたカブトムシが僕らの目の前に来た。
「僕はニセものじゃないよ。」
羽根をブーンと鳴らして飛んでいる。
態度が大きい。
「僕は機械でも3Dのカブトムシでない。
本物さ。」
生意気なカブトムシだ。
「カブトムシ、時空を戻すって言ってたけど戻っないぞ。いつもの裏山だぞ。」
「シュン、君にはがっかりだよ。本物とニセものの区別もつかないなんてさ。
それによく見てみな、ここは裏山。そこまでは当たりだ。じゃあ、電波塔はどこだ?」
えっ?ない。電波塔がない。山の景観が悪くなるって町の大人たちが選挙してたっけ。ない。確か、昨年やっと許可がおりて、できたばかりの赤い電波塔がない。
「なあ、葉山、気づいたか?」
「あー、ないな。シュン。電波塔がない。」
「ここは裏山だ。間違いない。しかし、電波塔もない。それにあの駅、今は高架になってるぞ。あれは昔の駅だ。」
葉山が僕に飛びついた。
「僕らほんとに8年前の時間に時空移動したようだ。」
えっへんと言わんばかりのカブトムシが僕の目の前をゆっくり飛ぶ。
「悔しいが。カブトムシ。お前の勝ちだ。お前の力を信じるよ。それで僕の記憶を見せてくれるんだろう。」
「そうだ。あそこだ。」
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