第8話 出会いと怒り 後(side フェアナンド)

俺と執事のサリと少人数の護衛はアガペーの木を目指してゆったりと散歩していた。


相変わらずこの森は変な植物が沢山あって、見ているだけで楽しい。

俺は稀に見る上機嫌でるんるんと散歩を楽しんでいる。



ずっと歩いていると、何か、人影が見えた。


何故この森に人がいる?


この森は、王族、貴族、騎士団以外の国民は夜入ることを許されてない。

もしや、盗賊・闇商人、それとも迷子か……

ここは一旦止まって、様子をみよう。

盗賊なら逮捕、迷子なら保護だ。


「一旦歩みを止めろ。森の外れ道に人がいる。様子を見る。そして声を出すな、人がいる近くの木に隠れる、静かに近づくぞ。」

「はっ。」


音を鳴らさずに近づいていく。

俺は木の後ろ隠れて、様子を見た。


俺の予想は半分当たっていた。

そこには、5人の闇商人らしき野郎と手と口を拘束され、横たわっている青年がいた。とてもじゃないが、あの拘束は逃げられない。ロープの縛り方がプロだ。


俺は静かに護衛に言った。「闇商人だ。俺が先にいく。仕留め損ねたやつを後で始末お願いする。」



助けに行こうとした、その時だった。

縛られた青年はいきなり手から火を出しロープを焼いて引き千切り、口を塞いでいたテープもすぐに引きちぎってしまった。


「なッッt―――」

「は…?」


俺と誘拐犯の1人が声をあげると同時に、

青年が誘拐犯に右足のローキックとみぞおちにパンチをお見舞いしていた。

誘拐犯はきれいに後ろに飛んでいった。

そして次に襲いかかってきた、3人も秒で倒してしまった。


「さっきまでと、状況が逆だなぁぁ?おい」

騎士団の圧にも負けない彼の声が響く。

「…ヒッッ!助けて…!」

誘拐犯の1人から情けない声が出る。


正直驚いた。さっきまで、完全に劣勢だったのに、いまや彼は、完璧に優勢な立場にいる。

彼は助ける必要はないな。彼が倒してから、保護して、討伐の報酬としてお金を渡してやろう。

驚いた、魔術も武術も備わっている。さぞ、優秀なαなんだろうな、国民からこのレベルのαが出るのは珍しいな、とか考えていたときだった。


彼の殴りかかろうと準備していた腕が急に止まり、その場にへたり込んでしまうのと同時に、Ω特有の甘い匂いがした……。


…こいつ、まさかΩなのか……!!!

まさかの事実に驚いたとともに、体全体が熱くなっていた。

今までにないくらい、

引き寄せられる匂いだった。

体中があのΩ求めている。

でも俺はΩは好きじゃない…!!

でも、ほしい!!

ああ、頭がどうにかなりそうだ。


そんな葛藤の中に聞こえた「うるせぇ…咥えろや…あぁ?」という誘拐犯の声を聞いたあと、


俺はブチギレて、無意識に誘拐犯に向かって歩いていた。

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