Ⅱ_2
ノーヴィスがエドワードの素性を知っていたのも、事情が推測できたのも、もちろんメリッサが全てを伝えていたからだ。
──なぜそんな当たり前のことさえ思い至らないのでしょうね?
そもそもエドワードを屋敷に上げてもらうためには、彼の素性とメリッサと彼がどういう関係にあったかを説明しなければ話が始まらない。
メリッサはエドワードを落とし穴から引き上げる前に簡単にエドワードのことを説明し、対処の判断をノーヴィスに
ノーヴィスがエドワードを屋敷に上げることを拒否し『そのまま転がしておいたら?』と言ってきたら従うつもりだったのだが、ノーヴィスは『ルノの知り合いならば放置するのも寝覚めが悪いね』とエドワードを落とし穴から引き上げ、この部屋のソファーに寝かせてくれた。
だからメリッサはエドワードが目覚めるまでの間に、ノーヴィスに請われるがままエドワードについて知っていることを全て話した。
それはもう、元々彼が自分の婚約者であったことから、カサブランカ家とディーデリヒ家が総ぐるみでメリッサからマリアンヌに乗り換えたことや、彼の性格や魔法学院での振る舞い、彼の部屋をカサブランカの屋敷に作るためにメリッサがここへ送り込まれた疑惑があること、よって恐らくもうエドワードはカサブランカ家の一員としてカサブランカ邸で暮らしているであろうということまで、とにかく洗いざらい。
──ノーヴィス様が珍しくグイグイ突っ込んで質問されてきたので、ついつい話し過ぎてしまった自覚はありますが。
だが今、エドワードの態度を見て、メリッサは洗いざらい話しておいて良かったと思っている。メリッサがノーヴィスにもたらした情報は、確実にノーヴィスの武器になっているようなので。
「悪いけど、お引き取り願えないかな? 金貨60枚ごときじゃ前金にもなりはしないから」
「は?」
エドワードを翻弄するだけ翻弄したノーヴィスは、さらに淡々と拒否を切り出した。
そんなノーヴィスの言葉にエドワードの顔にサッと朱が差す。
「き、貴様っ! カサブランカはメリッサの実家なんだぞっ!? だというのに……っ!」
「関係ないよ。これは『仕事』の話だ。そこに情は関係ない」
メリッサの目には最初からノーヴィスがこの依頼を受ける可能性は低いということが見えていたのに、エドワードにはその流れさえ読めていなかったらしい。さっきまであんなに
「そんな冷たいことを言うのかっ!? それに金貨60枚を『60枚ごとき』だと!?
「気に入らないなら、他を当たればいいだろう?」
だがあくまでノーヴィスはその言葉に取り合わない。今はメリッサから見えないラピスラズリの瞳がさらに温度を下げたのが空気で分かった。
「『前金で最低金貨100、依頼完遂でさらに200』。それが『僕』の相場だ」
『
これは希少な高位魔法使いが無茶を言う依頼人に
依頼する側とされる側、両方を守るために、あらかじめ国が『この
ノーヴィスが口にした『前金で100、依頼完遂で200』というのは、最高ランクであるプラチナに
とんでもない金額ではあるが、プラチナランクの
──ノーヴィス様の実力的にも妥当だとは思いますし、確かにドレスを何着か作った所で
メリッサは無表情のまま己の中で結論をまとめる。
同時に、思った。
──まぁ多分これは気に入らない依頼を叩き切るための建前で、実際の所はもっと低額で気楽な仕事も受けているとは思うのですが。
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