第21話 渇き

そこには化け物がいた。誰もいない森の中、巨大な熊と一人の人間。この構図では熊の方が化け物に見えるだろうが今回ばかりはそうもいかなかったらしい。


「あぁ、腹が減った。」


腕からの出血により全身の皮膚は死人のように青白くなり、幼さの残る見た目も相俟って弱々しく映るのにどこか人じゃない感を醸し出し見る者を本能的に恐怖へと陥れる。


「皮の強度からしてこの状態でも食えるな。ただ、その前に。」


化け物はナイフ片手に熊の動体視力を超える速度で接近する。


「右腕。」


熊が反撃をしようと腕を上げた頃、その腕は既に斬られていた。


「俺の腕を食ったんだ。片腕で許す訳ないだろ。」


その声を熊が認識した瞬間残った左腕が斬り落とされていた。悲鳴を上げる間もなく次に認識した時には両足を斬られ、熊は今更ながら本能的に理解した。これは餌ではないということを。


「グォォー!!」


「五月蝿い。」


次の瞬間熊は首を斬り落とされ死んだ事を理解する間もなく死亡した。


「はぁ。」


ドンドンドン。

化け物はムカついているのか熊の頭を何度も何度も踏み潰しながらその死肉から血を吸い続けている。血を吸えば吸うほど化け物の顔色は徐々に生者のそれに近づいている。


「確かお前デスベアラー死を運ぶ熊って名前だっけか。人も動物も農作物も何でも食べるし見かけた動物は殺すまで永遠に追いかけてくる奴。あの壁の中で注意書き見た気がするわ。速攻殺さないと村や町規模だと一匹で滅ぼされる生きた災害だとか。」


胴体が乾ききり投げナイフを回収すると、斬り落とした両腕と両足を拾い血を啜る。その間にも熊の頭を踏み潰し続けているあたり相当腹が立っているらしい。


「獣の血は不味い。人の血が欲しい。お前が生き餌を殺してくれたおかげで殺してもいい奴集め直しじゃねぇか。」


拾った両腕両足も乾ききるとその辺に捨てる。


「んっー!!はぁー。」


腕の断面から血が更に溢れ出すと同時に腕の形に再構され表面を皮が覆った。それを確認した化け物はその再構された腕を曲げたり伸ばしたりしながらグーパーし動きを確認する。


「血が足りねぇ。血の残量的に数日を待たずして理性が吹き飛ぶな。はぁー、仕方ねぇか。その辺の獣殺して血を啜る。本当は生き血が良いがそれは人間のを楽しみにとっておこう。」


それから化け物は周囲の生き物という生き物を殺し血を啜り続けいつの間にか化け物の周囲には乾ききったモンスターや動物の遺体が量産され乾ききった遺体の山が形成されていた。それを後に発見した傭兵が周囲の国々に伝えて、それぞれの国王は自分の国にこう通達したという。


伯爵吸血鬼アールヴァンパイア以上の異常吸血系個体発生にて討伐及び捜索隊組織を速やかに編成し更なる上位個体に成る前に処分せよ”


この通達により彼はレッヒェルンマスケ笑顔の仮面の異名を持つネームドとして大衆にバレる事になるがそれはまだ先の話である。




因みに吸血鬼の階級は悪魔と同じ6つある。帝王エンペラー国王キングor女王クィーン公爵デューク侯爵マーカス伯爵アール子爵ヴァイカウント。知能の高さと犠牲者の多さから大体判定される。伯爵アール以上は安易に人を襲わないという基準もある。

この基準に満たない者も居るが知能が低く上記の者よりは比較的簡単に殺せるため脅威では無く、ただのモンスターとして普通に処理されている。ただし上記の階級ありヴァンパイアの中にはモンスターでは珍しくネームドが居る場合もある。因みに悪魔の場合知能がある者全てネームドだったりする。

※ネームドとは国が手に負えないと判断した個体で基本的に討伐が行われず国が機嫌を取って一時的に和平を結んでいる又は生息域を禁足地とし封鎖している。ネームドの中でも吸血鬼系列の奴は知能が高いため死罪人などの死んで欲しい奴を送り血を与える事で共生し普通に交流していたりする。

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