第20話 異変
俺は戻っている最中に異変の気がついた。
「なんか臭くね?」
なんとも言えない腐敗臭が漂っていて何か問題が起きたのは間違いないだろう。
「ぶっ殺した賊はこの子らの食糧にしたから腐るとは考えられない。…ファング、急いで。」
何か嫌な予感がする。
ー拠点にてー
家に戻って目撃した光景は地獄そのものだった。
「おいおい、あっちこっちに血と肉が転がってるんだけど。俺のいない間に何があった?」
この血肉は恐らく生き餌の物だろう。あの子がこんな汚い食べ方をするとは思えない。しかもあの子の姿もないし何かに襲撃されたの見て良いだろう。
「生き餌の護衛として残したんだけど。あの子その辺の獣よりは圧倒的に強いのに…。」
まずはあの子を探すのが先かな。
「ファング、ザンナを探せ!!」
俺はファングから降り指示を出すと痕跡を調べ始めた。ここまで血肉があっちこっちについてると少し原型が残ってる肉片から相手の素性が割れるかもしれない。
「歯形とか爪痕とか見つかれば大きさから獣かどうかぐらい判別つくんだけどなぁ。」
今の自分は人間に脅威判定されている疑惑があるためその情報だけでも欲しい。
「なんかないの?」
肉片の断面が目視で分かるだけの肉片で構わない。人と獣の区別など武器が使われたかどうかが分かれば一瞬だ。
「くそっ。食い方雑だが断面が見えるほどの肉片が無い。視力はいい方だがこの大きさの肉片から凶器の断定は無理。」
一番手っ取り早いのは目撃者であるザンナに聞く事だがそのザンナが居ないし…。
「うん?待って待って待って!!ここの血溜まりまだ温かいんだけど。」
ここの気温的に体温の方が高いため体外に出た血は温度が下がり触ってもこの生温かさは長くは持たない筈。凄く猛烈に嫌な予感がする。今は戦力である二人が不在な状況、この状態でこの惨状を起こせる人か獣に襲われればなす術がない。
「冷静に冷静に考えろ。さっき調べてた所は温かくなかったって事はそっちに居る可能性は低い。そもそもそっちに居たならファングの鼻が捉える筈。つまり、最適解は向こうに逃げること。」
俺は足音を殺しながら走ってその場から逃亡しようとしたが血溜まりに背を向けて走り出した瞬間、何かが横切り俺の左腕が吹き飛んだ。そして俺の目はこの惨状の犯人をら捉える事となる。
「熊…にしてはデカすぎだろ。」
目算だが軽く8mはありそうな巨大な熊で両腕にはべっとりと血が付いている。吹き飛んだ俺の腕が綺麗に口に吸い込まれている所が見える。
「生き返るけども死にたくはない!!」
そうは言ってもあり得ない体格差と既に片腕欠損と言う重症。狼と戦った時とは比較にならないほどの劣勢。あの時はあくまでも不意打ちや集団故の読みが当たって偶々勝てただけ。この状態で勝負になるなんて思ってもいない。
「俺の攻撃手段投石ぐらいしか残ってないのに熊の頭蓋は銃弾すら通さないと聞くし詰みじゃん。痛覚はなくとも血が流れている以上出血多量で死ぬし、あんまり時間残ってないんだけど。」
ショック死しないだけで大分血を流している。俺は何度も刺された前世の経験から出血の許容量は大体分かるが故に残り時間も分かってしまう。だから止血したいが火を起こす暇なんて無さそうだし、時間制限がキツい。動きを見た感じこの身体の全力疾走でも余裕で追いつかれるだろうしただ逃げるのは愚策、腕が無い以上策に時間を使うのも愚策。
「はぁー。どうせ死ぬし立ち向かってみるか。熊の殺し方は心臓を撃ち抜く事だって聞いたことある気がするしこのナイフで心臓狙うのが吉か。」
俺は服の下から山賊から奪った投げナイフを取り出し心臓を目掛けて投げると同時に普通のナイフを手に持つ。
ナイフは数本皮膚に刺さったが普通に動いている所を見るからに臓器には届いていないのだろう。
「認識してからだと回避が間に合わねぇ。なら、攻撃のリーチの外から攻撃するのが吉だろ。」
刺さって怒ってる熊を無視して木を駆け上がる。リーチ的に木の上には届かない。超人的なスピードがあっても上に逃げれば意味はない。
「熊は執着が凄いと聞くし追ってくるだろ。木登りも出来るのは知ってる。」
だが俺の重量よりはるかに重い熊がこの細い木々の枝をつたって追いかけようとすれば枝が折れて落ちる。
「万が一近づかれたらこれで皮は切れるだろうし最悪投げて怯ませる。これであの子らを探しながら逃げて落としてダメージを蓄積させる。」
これがザンナを潰したのなら万全の状態だとキツいだろうし、出来るだけ弱らせるのが最善。
「チッ。早い、視界が霞む。こんな早かったか?」
この身体は前世の体より小さく幼い。出血の許容量を前世の経験から割り出してたのが仇となったか。
「ここで意識飛んだら二度と戻ってこねぇ。」
ただ、俺の意思に反して身体は動かなくなっていく。熊は当然弱った獲物を見逃す筈がない。動け、動いてくれっと力を込めながら祈るがそんなんで人間が限界を越えられるわけもなく俺の意識は闇へと沈んでしまった。
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