第14話 血の代償

翌日になり捕まえた山賊の数を確認していた。逃げられたら探さないといけないからだ。


「む?昨日二匹食われたのは当然として一匹足らなくね?二人は何か知ってる?」


二人は首を横に振るので残りに聞くことにする。


「ねぇ、何か知ってる?」


「知らねぇよ!!」


真っ先に答えた涙目の山賊に近づき殴り倒し頭を踏みつける。


「何か知ってるな。脳味噌ぶち撒けたく無ければ今すぐ話せ。」


「化け物め!」


「あ゛?誰が化け物だって?」


胸ぐら掴んで力任せに宙に放り出すとタイミングよく拳を振り上げる。すると重力によって加速した体に振り上げた拳がぶつかり肋骨が粉砕する。粉砕した骨は臓器に突き刺さり地獄の痛みが犯罪者の体を駆け巡る。


「ガハッ。」


血を吐き白目を剥く犯罪者を叩き落とし膝にぶつける。背骨があり得ない程曲がり嫌な音が響く。


「テメェら殺人鬼以上の化け物はこの世に居ねぇんだよ。人の皮を被った怪物が俺を化け物扱いとはいい度胸だな。」


血が混ざった泡を吐いているのを無視して脛を踏み潰し粉砕する。


「テメェら如きが他人を化け物扱いする事自体烏滸がましいんだよ。俺はテメェらに逃げるチャンスも健全な死も与えているだろ。テメェらは捕えた人間に逃げるチャンスは与えたか?健全な死を迎えさせたか?自分がその標的になれば被害者面できるその神経、どこでどう育てばそんなイカれになれるんだ?」


白目は充血し美しい赤い瞳は黒く濁る。物理的に目の色を変えた彼には容赦という言葉が無かった。暴言を吐きながら人をボッコボコにする彼の姿は他の山賊を恐怖のドン底に落とすには十分だった。

因みに彼がここまで激怒する原因は過去にあり、前世で失った記憶の中にあるトラウマが無意識に一部の彼の怒りの沸点を下げているためである。


「なんか死んでるし。まさか昨日のも俺なのか?でもそしたら記憶ある筈だし…。謎だ。」



時は少し遡る。

山賊も彼も寝静まった頃、彼は無意識に動き出した。無自覚な吸血鬼の血は最適な環境へと誘われたため活性化し生き血を啜る化け物へと彼を転身させていた。彼の血は彼の先祖の行いのおかげでその辺の吸血鬼より濃く、血が足りなくなると渇望状態になり腹が膨れていても理性が吹き飛び夜な夜な本能が肉体を動かす様になる。今更だが彼が生肉を食べていても支障が無かったのは彼が吸血鬼で血や肉が媒介する病気に完全な耐性を持っていたからである。因みに前世でやった場合血が覚醒していないので死にはしないが腹を壊す。


「え?」


吸血中に運悪く目を覚ました山賊の脳にこの世の物とは思えない程の快楽が流れ込む。一瞬で抵抗する意思と思考を失い口から泡を吹きながら痙攣し、肉体がゆっくりと乾いていく。僅か数分で全身から水分という水分が抜け切ったミイラが完成した。


「ひ、ひぃ!!」


その光景を偶々目撃したのが彼を化け物呼びした山賊であった。


(息を殺せ。バレないでくださいバレないでくださいバレないでくださいバレないでください。)


目撃した山賊は距離を取り、神を信じていないのに神頼みをしながら息を殺して潜んでいた。朝まで待って朝日に焼かれるのを待とうとしたのだ。しかし、こっちの世界の吸血鬼と違い地球産の吸血鬼である彼には人の血も濃く流れているため山賊の望む事は一切起こらなかった。吸血鬼の弱点を完全に克服している異常な個体、事情をしらない山賊は思わず“化け物め!”と言ってしまったのだ。それがタチが悪い事に彼の地雷である事も知らずに…。


さて、そんな訳で時今に戻る。

あっという間に山賊を肉片に変えた彼は冷静になっていた。


「明らかに異常な力だ。この世界の人間の身体が特殊なのかと思っていたがこれを見るに俺の体自体に何かしらの細工がされている事は明らか。いくら相手が犯罪者とて殺人に一切躊躇も罪悪感も抱かない時点で脳味噌は弄られているのは確定してたが肉体そのものもか。あーあ、明らかに人間と暮らすのは向いてねぇな。まぁいいか。最低限のコミュニティで俺は俺の目的を果たすだけだ。」


取り敢えず最後の情けとして肉片は地面に埋めておく事にする。


「あー、コミュニティと言えばこの世界で名乗る名が居るな。流石に向こうでも珍名だった名をこっちで名乗れば目立ちかねない。日本というより洋風の世界だから尚更だ。本名である眠目さっかしんは日本人過ぎるし適当に名前付けるか。大きなコミュニティに参加出来ないのは確定したしそっち方面の要素も取り入れて…。グルーミィ・バヴァール陰気なお喋りとでも名乗るか。巫山戯た名だがコミュニティに参加出来なくなった俺としては皮肉が効いてて良い名だ。」


この日は適当に穴掘って肉片を集めて埋め終わった。

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