第7話 山賊との戦い

「ここら辺だ。裏で糸引いてるのが狼にしろ人間にしろ他の何かにしろ隠れて遠距離から殺しに来ている所を見るに俺らと正面からやると勝機がないと言うこと。つまりはこの殺し合い、俺が不意打ちされる前に見つけて殺せるか不意打ちを成功させ俺を殺すか二つに一つ。当然有利なのはこっち。」


(おー、賊に堕ちた奴の癖に頭良いな。こいつはあの集団の頭脳って所か。かしらがカリスマと力で支配するが作戦立案及び略奪のための下準備や転売などはこいつが担当だな?)


木の上で奴の考察をしながら完璧なタイミングを待つ。山賊の頭脳担当であっても元々一般人で戦闘経験が相手の玉潰すぐらいしか無い俺とは色々格が違うだろうし有利を取らねば多分死ぬ。


「痕跡の途切れ方から見て木の上に潜んでいるか木の上を移動し、向こうの戦いに乱入する隙を窺っていると見た。ここで下手な行動をすると先に見つかって不意打ちに繋がる。かと言って手を打たないのも愚策。…リスクが多少あるが上に登って探すしかないか。」


そう言って奴は俺が居る木の幹に手をかけた。


(運が悪いのは自覚していたがこれは一周回って運が良いのでは?)


ここまで都合がいい動きをされると少し引く。俺の想定では探し回っている最中に上から落下し額に着地すると言う頭おかしい難易度の不意打ちだった筈なのに俺の下で制止している。


(行くか。)


当然こんなチャンス逃す訳がなく俺は木の上から飛び降りた。


「なっ!!?」


「お前も驚きだろうが俺も驚きだよ。この数の木々から俺の居る木を引き当てるんだからよぉ!!」


俺は狙い通り額に着地し相手を後ろに倒し後頭部を地面に叩きつけた。


「防具もないのに後頭部を地面に叩きつければどんなに頑丈な奴でも多少は怯む。しかも俺の体重付きだ。頭が潰れても不思議じゃ無い。」


グロッキーな死体となった奴から武器を奪い首を斬り落とす。


「戦意を削ぐにも怯ませるにも有効だろう。それにしても殺人に躊躇ないのは元文明人としてイカれてないか?」


転生した肉体の脳が弄られているのかもしれない。俺が躊躇ないのは相手が死なない程度の正当防衛のみだった筈なんだがな…。


「我ながら悲しくなるよ。でも、敵は殺す。殺さなきゃ生き残れない。元の世界より治安悪いんだからそうなるのは仕方ない。リスクは回避するべき。」


俺はそう自分に言い聞かせ生首を持って二人の戦場へと向かった。


ー同刻ー


おっさん二人は二匹の狼に追いかけ回されゆっくりとジリジリと追い詰められていた。


「狼の速さじゃ無い!!」


っと言いつつも頭は最後の生き残りである部下の襟を掴み引きずりながらも狼の速度よりも早く走っていた。バイク並みの速度を普通に出す狼が健脚で相手にならない程、頭の身体能力は化け物じみていた。


「ももも、もしかしてモンスターって奴じゃ…。」


「馬鹿言え!!ここは定期的にモンスターの掃討が行われている。こんな強いモンスターが超短時間で生まれる訳が無い。モンスターは基本的に長く生きてマナ魔力を沢山蓄えないと強くはなれねぇ!!マナ濃度と掃討の頻度から見ても俺が狩れない程のモンスターが生まれてくる筈がねぇんだよ!!しかも安全策として掃討が行われた直後に行動してるのにこんなのあり得ねぇ!!」


「どどど、どうしましょう!!?」


「ぶち殺すしかねぇだろ!!援護がない今しかチャンスはねぇ!!この速度だと撤退しようと背中を見せた瞬間首が食いちぎられてる!!」


っとは言え山賊の頭になる程、落魄し頭脳もよろしくない。自分の足は部下を捨てて逃げれば簡単に狼を撒く事ができる程に速いことにも気づかない。


「僕には無理ですよー!!」


「ごちゃごちゃ言ってねぇで武器を構えろ!!お前を守りながらこいつらと戦えるほど俺の実力は高くねぇ!!自分の身は自分で守りやがれ!!」


そう言って生身の人間が遠距離武器も持たずに野生動物との生死を賭けた勝負を始めてしまった。

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