第4話 二人の下僕
渇きを満たし終えた俺は打製石器で飲み干した狼から皮を剥いでいた。服には到底なり得ないが夜の寒さがどの程度か分からない以上一応やっておいた方がいいと思ったからだ。
「切れ込みが入ったら指で剥がした方が早いな。綺麗には剥げないが寒さを守る肉が多めに着いているのはいい事だ。湿度から見て湿地帯で夜もあまり冷えないとは思うが世界が違うのに前世の感覚のままだと危ない。」
下処理した狼の様に綺麗に処理する必要は無いので雑に皮を剥がし、くるっと纏う。その上から処理した狼を担ぎ移動を開始した。
「取り敢えず年輪の方向から同じ方角には進んでいるが運よく水辺に着くか?」
時間的にはそろそろ夜行性の動物が動き出す頃、そろそろ避難しないと多勢に無勢で瞬殺される。武器を持たぬ人間なんて無力なただの肉、野生動物が見逃す訳がない。
「夜は獰猛な動物が多いって聞くし木の上にでも避難するか。知らない森で装備も無しにソロキャンプなんてしたらおやつになっちゃう。」
俺は狼の死体を担ぎながら木の上に登り葉っぱで狼と俺の姿が見えなくなる様にすると狼を下ろし、そのまま睡眠に入った。
一応今できる最大限の野生動物避けとして、狼の匂いを放ち更には木の上と言う条件をつけた。流石に常温保存でも一夜程度は腐敗臭より狼自身の匂いの方が強い事を祈り寝た。最悪死んでも俺はリスポーン出来るから死んでも問題ないが出来る限り死にたくないので対策はした。
ー翌日ー
「ふぁー。生き残ってるな。…腐敗の速度が想像以上に遅い。常温でもあと数日は持つな。意外とこの世界って便利?」
そんな事を思いながら下を見ると二匹の狼が上を睨みつけている所が見えた。
「あ、あぁーー!!!そうだ。上位捕食者ならナワバリがある筈。想定し忘れた!!やばい!!」
完全に忘れてた…。犬ですらナワバリ争いをしてるのに、なんでこんな大事な事忘れてたんだよぉ!!
「死ぬの覚悟で降りるしかないよな。上見られてる時点で肉を落として不意打ちで潰すなんて出来ないし…。」
俺は死を覚悟しながら肉を担ぎながら木の下に降りる。あの感じは絶対諦めてくれないから上で籠城して大型な鳥などに襲われる可能性などを加味すると降りて逃げるが最適解の筈。落ちても怪我しない高さぐらいから幹を蹴って跳んで逃げる。うん、それで行こう。
「逃げるんだよー!!」
人間如きが狼の脚力に勝てる訳が無いのにこの時の俺は動揺し過ぎて判断を誤った。
「足速っ!!ナワバリに侵入した奴だと思われてブチ切れられてる!!ヤバい!!死んじゃう!!昨日の狼とは迫力が違う!!もはや画風が違う様にも見える。怖っ!!」
必死に逃げるがどんどん距離が縮まっていく。
「どうしよー!!どーしよー!!えーと、あーと、うーんと、方向転換して肉投げて足をやるしかない!!追いつかれたら死ぬけど何もしなきゃ追いつかれるもの!!」
俺は方向転換するとギリギリまで引きつけ担いでいた肉を投げ飛ばす。
「嘘ぉん。初見で避けるのぉ!!?マジい!!?」
残念ながら石を拾う暇はない。つまり抵抗は出来ず食いちぎられる。死を覚悟したが何故か死ぬ事はなかった。
「…へ?何で殺さないんだ?誇り高き狼だろ。侵入者絶殺マンじゃ無いの?」
それどころか伏せて俺に降参の意を示している。
「考えられる可能性としては俺が背負っている狼か纏ってる皮の狼がこの辺のリーダーだった可能性。だからその強者を殺した俺に服従の意を示した?」
都合よく解釈するとそうなるが普通そうなるか?いや、一応あの狼らの行動が不審な点はあった。半数以下になっても遠吠えで他の狼に知らせなかった所とかがそうだ。普通の野生動物なら部隊が全滅する危機に瀕した場合他の部隊にも情報を共有できる様に何かしらのアクションを起こすのが自然だ。
「何はともあれこいつらが服従すると言うなら使わない手は無い。今日からお前達は俺の部下だ。」
狼は非常に賢い。俺の言葉が分からずとも意味は察する。
「呼び名がないと不便だし今日からお前達は、ファングとザンナだ。」
俺は目に傷がある方をファングと名付け、無い方をザンナと名付けた。どっちも牙と言う意味の言葉で我ながら非常に安直だと思う。だって牙すっごいんだもん。サーベルタイガーかな?って思うぐらいには凄い立派な牙が生えてるんだもん。
「取り敢えずファングはこっち持って、ザンナは俺を乗せて水辺まで案内して欲しい。」
俺はファングに肉を蔓で結び、ザンナの上に跨り移動を開始した。
「ふぉー!!原始人もこんな事したのかなー!!めっちゃ快適。普通にバイクよ。しかも自動操縦!!」
俺はそのまま森の中を暫く爆走し続けた。
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