第2話 二度目の死と捕食者

「あー、死んだわこれ。終わったー。」


非情ひじょうな現実と言う名の覚めない夢を見ながら、自身の肉が溶け骨が露出し臓物ぞうもつまでも綺麗に消えていく光景から目を逸らす。何故か痛みは無いが光景はただのグロ画像なので大人しく絶命するのを待つ。


「まぁ、異世界転生なんてこんなものよな。チートだスゲーが出来るのは若くて選ばれた者だけ。凡人が飛ばされたとて、こうなるのは必然。2度目の人生終わったー。」


地球では三十を迎える事無く死に、異世界では生後数秒で死亡。いやー、運の下振れって怖っ。…あれ?何で死なないんだ。溶かされていくペースを見た感じもう塵も残っていない筈なんだが?

俺は恐る恐る目を開けて自分の身体を見ると素っ裸で最初に居た地点で寝そべっていた。


死に戻りループ系か?」


辺りを見渡すと草木が溶けた後と動物が半身になった遺体があったのでスライムが通り抜けたのは確かなようだ。


「戻っては無いが不死なのか?所謂アンデット死ねない身体系?」


いや、確かに地球で死んだがあんなのが生息している時点でここは地球でないのは確実だがアンデットになる意味が分からない。地球では死んでてもこの世界では死んで無いし…。

仮にさっきの死亡でアンデット化したとしたら運の下振れ所じゃない。骨すら残らず全身消化されたのにアンデット化しているのなら誰かの強い意思すら感じる。だがそんなことできる訳ないのでただ運が悪いだけだろう。


「死後は皆異世界でアンデットになるのが決まりなのか?」


いくら考えても現状を理解出来ないが相変わらずの空腹で死にそうなのでそっちを満たす事を優先する。幸いにも近くには動物の遺体らしき物もあるし腹を満たしてから深く考えることにする。

俺は這いながら動物の死体に近づくと危なそうな内臓や内臓周辺の肉は避けて生のまま齧り付く。火を通したほうがいいのは確実であるが火を起こす技術なんて持ってない。文明の力が無いと人間はこんなにも弱いのかっと思いながらクソ不味い肉を飲み下す。


「滅茶苦茶吐きそう…。」


数時間かけて不味い肉を食い尽くすと俺は水辺を探しに移動を始めた。水分不足は三日で死ぬってどっかのTV番組で見た気がしたので、動ける内に動いて水辺の近くを拠点に…っと行動した方がいい気がする。幸いにも釣りは俺の得意分野だし水辺を見つけられれば食糧にも水にも困らなくなるだろう。


「それにしても身体が重い…。この身体運動不足すぎないか?」


前世の俺は三十手前と言うこともあり、健康のため毎朝ランニングをしていたからここまで鈍ってはいなかった。


「はぁー、これが夢じゃ無いとすると先が思いやられるわ。先ずは生活拠点を確保したら運動だな。」


ー数刻後ー


全身バッキバキになった頃俺は敵と遭遇していた。


「はい、3度目の死確定演出です。飢えた狼なんて素っ裸で疲労困憊の人間が勝てる訳ないじゃん。オワター。」


そう言いながらも俺は手頃な石を拾い投擲を開始した。こんなの気休めにすらならないがさっきのスライムと違い空腹で動けない訳では無いので全力で抵抗をする。


「犬っころが人間様を舐めるなよ!!」


虚勢を張りながら数m先に居る正面の狼目掛けてひたすら投げる。向こうが慎重に襲おうとしているのを良いことにひたすら投げる。この距離で複数投げて一つも当たらない程球の精度は死んで無い。


「ヨシっ。ナイスヒット!!」


一つが命中し脳震盪を起こしたのか一匹が倒れると、それを確認した他の仲間は一斉に襲いかかってくる。


「おい、犬っころ。さっきの冷静さはどうした!!?」


的確に首や太腿などの人間の弱点を狙って来るので腕を噛ませ、振り払い逃げる。当然追いかけて来るのでバッキバキの身体で走りながらどうするべきか思考を巡らせる。片腕は既に使えなくなっているので片腕は捨てられる。さっきの例を見る限り俺は死んでも少し後に最初の地点にリスポーンするみたいだし最悪死に逃げも選択肢に入って来る。


「捨て身でやれって?その為の痛覚無し?神がいるなら巫山戯てるのか?」


人の人生使ってこんな悪趣味なRPGゲームをするなんて頭おかしいだろ。


「決めた。こんな事起こした元凶見つけて何度か殺してやろう。実際俺は一回は死んだんだし元凶も一回さ死ぬべき。…まずは狼退治が先決か。」


俺が急に足を止めたのを見て一匹は飛び掛かり、もう三匹は引き続き猛進、飛びかかって来た奴は使えない腕で受け止めると同時に下から肋の隙間を縫う様に腹に蹴りを入れて臓器を潰す。怯んだ隙に残りが追撃して来る前に念入りに潰す。


「残り三匹!!」


取り敢えず三匹に同時攻撃的されると死ぬので、内臓を念入りに潰して殺した犬っころを爆走している中心の奴に向かって投げる。当然犬っころは避けるのでギリギリまで引きつけて投げて、飛び上がらずおえない状況を作り出す。


「ここっ!!」


飛び上がる動作に移行する前に助走をつけ犬っころが飛び上がる直前に俺も飛び、犬っころが着地した瞬間頭に着地し体重で頭蓋を潰す。眼球が弾け飛び血が混ざった変な液体が頭部から溢れ出る。


「グロっ…。」


当然二匹に挟まれる形になるが二体一になる方がまだマシだったし判断は間違えていない。ただ、体勢が悪い。頭蓋の上に立っている状態だから当たり前だが…。


「うん!首だよね!!人間なんて弱小種族は首やられると死ぬもんね!!」


当然一匹は使えない腕で防ぐ。


「でも、学習しようぜ?仲間がそれやって死んだんだぞ。」


もう一匹は確実に狙える内臓目掛けて飛んでくるか足を潰すかの2択だったので腹の方に賭けて犬っころがいる方向のガードを固める。


「死ね!!」


腕噛ませた犬っころは一旦膝を入れて顎を外し投げて距離を取り、腹を固めて手を噛ませた犬っころはそのまま口に手を入れ無理矢理開き顎を外す。当然投げ飛ばした方はこっちに向かって来るため顎を外した方を投げ捨てる。


「両手あんまり使えなくなったじゃねぇか!!だが、残り二匹!!」


片方は顎が外れて脚力しか残っていないため実質一匹。ただの人間が狼と一対一なんて正気の沙汰では無いがここまで来たら最後までやるしかない。狼は群れるから他の群に連絡でもされたら目も当てられない。


「殺す!!」


俺は顎が外れていない狼の方を向き走り出す。


「基本防戦かカウンターしかして無かったから驚いた?お前を潰せば後は食糧として使える。大人しく死ね!!」


狼の睾丸を蹴り潰し首の肉を噛みちぎる。肩を噛まれたがどうにか絶命させる事に成功した。残りは顎が外れて戦力外となり今震えている犬っころだけだ。


「逃す訳ないだろ。」


俺は怯えすぎて逃げることができず尻餅をついた犬っころの首の肉を食いちぎり文字通り狼の部隊を一人で殲滅させた。

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