3話目-疑問-

「これが私と愛の出会いと愛の自死前後におこったことです」


私は全てを話し、話し終えたことを紫藤さんに伝えた。


「つらいこと思い出させてごめんねぇ」


後ろからミキさんが頭を撫でてくれた。

ヤバイ、泣きそうだ


「…まぁ確かに不可解なとこはあるな」


紫藤さんは誰にいうでもなく呟いた。


「そうですよね!親友の私に相談もなくなんておかしいですよね!」

私はまくしたてた。


「いや、そこに関してはほぼ解決済みなのよ」

紫藤さんは私に目もくれずに吐き捨てた。


「えっ、どういうことですか?早く教えてください!」

急かす私とは対照的に紫藤さんはゆっくりと落ち着いた様子で話し出した。


「あんたがその謎に執着する気持ちはよくわかるが今は解くべきじゃないと思うぜ。それに俺、探偵だし、謎を全部解いてから推理を披露したいところだね」


…よくわからない理屈だか、とにかく謎が全部解けないと答えは教えてくれないらしい


「じゃあ紫藤さんのいってる謎ってなんなんですか?私も一緒に考えるので早く解決しましょうよ」

「まぁ、焦らなくても教えたるよ。あんたの協力がいるかは別だがね」


紫藤さんはまたクツクツと笑う。

この人、絶対裏で嫌味ったらしいとか文句言われてるよ。


「動機だなんだは人によるので何ともいえんが死に場所が気になる」

「死に場所?」

「そうだ。あんたの話だとご友人は実家の玄関で亡くなってたんだろ?それがホントなら珍しいと思ってよ」

「どういうことですか?」

「本当に自殺しようって人は自分の遺体を隠そうとすることが多い。

家族に迷惑がかかるとか、死に顔を見られたくないとか理由はいろいろ考えられるが、まぁ、死人に口無し。ホントの理由はわからんがね。

ところが今回は実家の玄関。誰かが帰ってきたらすぐに遺体が見つかっちまう。

なんであんたのご友人が最期の場所に家の玄関を選んだのか。

今の話の中でここだけが引っかかるんだ」


紫藤さんは少し間を空けて続けた。


「そもそもなんであんたはご友人が玄関で首吊ったって知ってるんだ?別にあんたがご遺体を発見したわけでも、家族から直で話を聞いたわけでもないんだろ?」

「それは..その…噂でそう聞いて…」

「確証はゼロってわけか」

「…はい」


紫藤さんのいう通りだ。

私の話には人づてに聞いたものが多い。

動かない事実は私と愛が親友だったことと、愛が死んだことだけだ。


「今の話じゃここが限界かね。しょうがねぇなぁ、ちゃんと調べますか。」

「紫藤くん、調べない気だったのぉ?」

「「いや、そんなことは…」


ミキさんが紫藤さんを睨む。

紫藤さん、ミキさん相手だと弱すぎない?


「とりあえず依頼人、一つ教えて欲しいことがある」

紫藤さんは仕切り直すように私に話しかけた。


「はい、なんでしょう?」

「ご友人の実家がどこにあるか、知ってたら教えていただきたい。なぁにご家族の傷をえぐることはしないよ」


紫藤さんは終始ふざけた調子で話していたがどうやら真面目に調査してくれるらしい。でも…


「ごめんなさい。私、愛の実家の住所は知らないんです。大学のあるT県内だとは聞いてましたが…」

「県内と分かれば十分だ。1週間以内に調べて結果を報告するぜ」

「!本当ですか!?」

「あぁ、約束しよう。ミキさん、市原の奴に資料用意させといて。今回はそれだけで十分解決できるっしょ。後、仁開(にかい)の来週の予定押さえといて」

「りょ〜かい!今回は陸奥(むつ)くんに声かけなくていいのね?」

「SNSアカウント調べてもらってもいいがあんまプラスにならんと思うから今回はいいや」

「わかった、やっとくね〜」


そういうとミキさんは電話を手に部屋を出ていった。


「あのぉ、知らない名前がいっぱい出てきたんですが、紫藤さん自身は調査されないんですか?」


私は疑問に思ったことを率直に聞いた。


「ああ、ホントウに優秀な探偵ってのは一歩も外に出ないで部下に任せるもんだ。事務所持ってて自分で調査する探偵なんて少年サンデーにしかいないってもんよ」


カッカッカッ、と高らかに笑う紫藤さんを見て私はこの人、本当に優秀なのだろうか?

と思った。

「あのぉ、できれば私も調査に同行させてほしいんですけど...」


私はおずおずと紫藤さんに尋ねる。

「えっなに!?あんた調査好きなタイプの人?!」

「いや...別にそういうわけじゃ... ただ私も愛のこと知りたいですし...」

「...あぁそういう。わかった、じゃあミキさんと一緒に市原から資料もらってきてくれ。」

「市原さんって私にここを紹介してくれた警察の方ですよね?」

「そうだよ、俺を使役する鬼刑事。

まぁ、あいつがいなけりゃうちの事務所の調査ほぼできないから無下にはできねぇけどな」

「そうなんですか...」


警察から資料もらえるなんて紫藤さんはどういう立場の人なんだろう?


「紫藤く〜ん、仁開さん、来週ずっとあけといてくれるってぇ」


ミキさんが仁開さんという人への連絡がおわったことを紫藤さんに告げる。


「ミキさん! ちょうどよかった。市原のところへはこいつと一緒にいってくれぃ

お友だちのことが知りたいんだとよ」

「七瀬さん連れてくのね?わかった〜、早速だけど七瀬さん、今から時間大丈夫~?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあ私の車で一緒にいこっか。帰りも送ってあげるよ〜」

「本当ですか!ありがとうございます !!」

「お二人共!せいぜい仲良く俺のために調査したまえ!!俺は帰る!

おい、後藤帰るぞ。」

「承知しました。」


そういって紫藤さんは後藤さんと一緒に部屋を出て行ってしまった。

えっ? あの二人、一緒に住んでるの!?


「あ〜、先に帰られちゃったぁ、戸締まりしないとぉ....」


ミキさんはちょっと面倒そうに事務所の戸締まりをした後で、私を車に乗せてくれた。

そして私たちは市原さんがいるT県警察署へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

事件未満探偵-紫藤探偵事務所へようこそ- @nanakyu79

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る