第28話 漆黒旅団の実力
『お?』
『ゲリラじゃん』
『ゲリラ配信だ!』
『どこここ』
『個人チャンネルの配信をゲリラでするなよ』
『全員いんじゃん!』
『おい漆黒旅団全員配信付いてんじゃんw』
『草』
『なにごと』
配信ボタンを付ければ、いつものように怒涛の勢いでコメントが流れ始めた。
因みに今回は公式チャンネルでの配信ではなく、各個人のチャンネルで配信を行っている。
俺含め全員が告知をしてない為ゲリラ配信だ、正直プロモーションとしては落第点だが、今回は実験も兼ねているので問題ない。
ゲリラで配信したら何人集まるか、四人同時で配信した際に誰が一番同接を獲得するか、そういったことを確認する為の実験だ。
ふと周りを見れば他の三人もそれぞれドローンカメラに向けて挨拶をしていた。
そんな様子を確認して俺は、元気で笑顔にカメラに向かってピースサインを突き出す。
「やっほ~、今日は漆黒旅団全員でここ、岐阜の下呂ダンジョン六十四層から今日中に完全踏破しようと思いま~す!」
『は?』
『まーた伝説作るんか』
『伝説製造機で草』
『岐阜唯一のダンジョン潰すのか……』
『うーわ』
『頑張れ!』
『漆黒旅団なら余裕だろ』
『渋谷ダンジョン一人で踏破したアユハと三人だろ?』
『普通にやってること迷惑系で草』
『南無下呂ダンジョン』
『下呂ダンジョンがホームのワイ、咽び泣く』
コメント欄には予想していた通りの言葉も混ざっていた、特に探索者の証拠である強調表示のコメントを中心として否定的な意見も上がっている。
岐阜に存在するのは下呂ダンジョンのみ、つまりここを拠点にしている探索者からしたら俺たちは"自分たちの稼ぎ場を荒しにきた異分子"ということになる。
俺たちが異分子なのは重々承知だが、情報を精査した結果関東圏から一番近いダンジョンで階層主が湧いていないのはここだけだったのだ。
皆々様には大変申し訳ないが、災害に当たったとでも思って諦めてもらおう。
「ゲリラでごめんな~、今日は全員の視点が観れる良い機会だと思ってくれ、今後あるかどうかも分からないしな」
俺は特に批判コメントには触れずに淡々とそう告げる。
下手に藪蛇を突く趣味は無い、柚乃は配信慣れしているから大丈夫だろが、不安が残るドロシーと正宗には配信を始める前に下手に触れるなと釘を刺しておいたし、問題ないだろう。
『おう!』
『複窓するかぁ』
『ドロシー姉さんの視点行ってくるわ』
『正宗の鉱石解説あるんかな?』
『それぞれのポジションは?』
『今七時か……果たして何時間で攻略するのやら』
「ポジションに関してだが、柚乃と正宗が前衛、俺とドロシーが後衛だ」
ポジションはダンジョン探索におけるチームメンバーの配置だ、前衛、後衛、後方支援の三つに分かれるが、俺たちの人数では前衛と後衛それぞれ二人づつに分けるのが理想的な配置と言える。
そう説明して、コメント欄に付随している同接数を確認する、その数は現在八万人を示していた。
俺の登録者数がじわじわと伸びて、現在六八五万人。
同接は母数に対して少ないかもしれないが、ゲリラ配信という事もあるし、まぁこんなもんだろうと納得する。
「さて、そんじゃ行くぞ!」
「おう!」
「おっけー!」
「よし」
正宗、柚乃、ドロシーがそれぞれ気合の入った声を出した。
正直俺たちの実力であれば苦戦することはないだろうが、それでもここは亜種ダンジョンかつ人類未踏の領域だ。
油断しても大丈夫、ということはないだろう。
俺は全員が真剣な表情になったことを確認して、六十五階層へと続く階段を下った。
「こいつは……」
続く言葉を探すが、それはついぞ見つかることは無い。
俺たちは今切り立つ高い崖の上から、眼下に広がる広大な空間と、その中央に立つ巨大という表現ではあまりにも不釣り合いな切り株を見下ろしている。
その切り株の周辺には新緑の葉を備えた樹々が所狭しと生い茂り、地面の様子を確認できる場所はごく一部だった。
「はー、たっかいのぅ!」
正宗が額に手で傘を作りながら声を上げる。
ドロシーと柚乃も驚いているようで感想を口々にカメラに向けて喋っていた。
「……俺もここまで広い空間はみたことないな」
見上げれば、ここは地下にも関わらず青々とした空に真っ白な雲、果ては太陽までその顔を覗かせている。
「グアァ! グアァ!」
空中には大きな翼をもったコンドルのような怪鳥が、奇妙な鳴き声を上げて飛び回っていた。
『うおおおおお! なんだここ!』
『すげえ、六十四層以降で随分と様変わりするんだな』
『でっけー鳥』
『焼き鳥にしようぜ』
『確かにいいなそれw』
因みに階層主は倒してしまえば魔石に代わってしまうが、そこら辺の雑魚モンスターは違う。
普通に死体が残るのだ、故に一般家庭にもダンジョン産の食材が流通している、配信者の中にはダンジョングルメ系なるジャンルもあり、一定の人気を得ているらしい。
仮にモンスターの死体を放置したとしても、一日も経てばダンジョンが吸収し分解してしまうので、ダンジョン内が死体で溢れかえるという事態にはならない。
確かに焼き鳥はアリかもしれない……
「にしてもこれ、どうやって降りるつもり?」
そんなことを考えていれば、後ろから柚乃の声がする。
「うーん、流石にこれは予想外……とりあえず俺の鋼糸をロープ代わりにして一人ずつ降りるか」
そう言っておれは右手から
これは基本的に設置して足場として利用するもので、強い力をかけてもしなり、切れにくいという特徴を持っている。
とはいえ……
「普通に設置しただけだと不安だな……俺だけで支えるってのも危ないし、適当な岩にでも巻き付けられたらいいんだけど」
そう言って周囲を見回すが、手ごろな岩は無さそうだ。
俺が諦めて自分で踏ん張るか! と意を決した瞬間ドロシーがパチンと指を鳴らした。
「私の
そう言うドロシーの背後には、八体の細長い体躯をした人型のモンスターである
『あれなんぞ』
『初めて見た』
『きっしょ』
『不気味やなぁ……』
「助かるよ」
俺は鋼糸を千切り、ドロシーに手渡す。
因みに俺だけは自由に鋼糸を切ることができる、現実世界における数少ない希少素材を使っているからだ、俺の人生の一つの成果でもある。
ドロシーは俺から受け取った鋼糸をオートマタの一体に渡し、全八体のオートマタはその鋼糸をしっかり握った。
「じゃ、命綱無しの
俺の掛け声と共に、約四十メートルに及ぶ降下が始まった。
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