第9話 ギルド結成、漆黒旅団

「シュヴァルツ・ブリゲイド」


 俺がそう呟くと、三人の視線が集中する。


「漆黒旅団、それが俺たちのギルドの名前だ」


「厨二くさっ! しかもなんでドイツ語!?」


 一番最初に反応したのは柚乃、それに続くように正宗とドロシーが反応を示す。


「ワイら別に黒ってイメージも無いしなぁ、祐樹とドロシーさんは黒って感じするが」


「ふむ、私は気に入った」


 柚乃と正宗は微妙、ドロシーはノリノリといった感じだ。


「柚乃、お前はさっき言ったな、ドロシーはこんな新設ギルドに居ていい存在ではないと」


「え、えぇ」


「それはこの場にいる全員に当てはまることだ。柚乃を除いた俺含む三人は全員がソロで深層探索が可能な実力者だし、正宗は三条家、ドロシーはエレガンティア一族。柚乃は大人気配信者だ、全員が新設ギルドに居ていい人材じゃない」


 俺がそう告げると、全員が照れ照れと後頭部を掻く。チョロい奴らである。


「俺はこのギルドを実力も人気も最強のギルドにする、探索者集団としても配信者集団としても、他の何者も寄せ付けない、何者にも染められない漆黒になるんだ」


 その言葉に全員の表情が引き締まる。俺は拳を握りしめ、笑みを浮かべながら続けた。


「ここにいるのは変な奴ばっかりだ、面白いと思えば社会的地位を捨て去る勇気を持った女」


「な、なによ。一度きりの人生、楽しまないと損じゃない!」


 柚乃はすこし赤面してぶっきらぼうにそう告げる。


「自らを天才と称する、本当に天才な死体好きの変態女」


「変態とは心外だ、私は愛する男の死体を手に入れたいだけさ」


 ドロシーはフッと笑い、またしても俺の死体権利書をチラつかせる。


「鉄と火を愛する、熱血漢。職人気質かと思えば、その実ミーハーで誰よりも名声を欲している男」


「だ、誰がミーハーやねん! でもまぁ実際チヤホヤされるのは好きやけどな」


 正宗は顔を真っ赤にして叫ぶが、満更でもなさそうである。


「ほらな? 変な奴ばっかりだろ? そして、得難い奴らだ。俺は確信した、出来ると思ってしまったんだ、お前らとなら天辺取れるってよ」


 そう言うと、全員が笑みを浮かべながら頷いていた。


「あんたが発起人のギルドだし、別にいいわ、漆黒旅団シュヴァルツ・ブリゲイド、厨二病全開だけど悪くはないんじゃない?」


「ま、ワイらが相応の活躍をすればこの名は羨望と共に語れるっちゅうもんさ」


「私は気に入っている、良いではないか漆黒という響きが気に入った」


 想像するのは全ての探索者が平伏し、全ての配信者に羨望の眼差しを向けられる、頂きに立つそんな姿。

 酷使され続けた社畜の成り上がり物語としては、これほど浪漫に満ちている話もないだろう。


「では……ドロシー!」


 俺はドロシーを指差す、するとドロシーは笑みを浮かべながら小さな鞄の何処に入っているのか謎な量の服を取り出し始め、それを受け取った俺は全員に手渡した。


「これは?」


「漆黒旅団の制服だ、先んじてドロシーに頼んでおいた。深層でも通用する防御力を持っているぞ? 売ったら数億は下らんだろうな」


「おい! これ精霊の糸やんけ!? 数億どころじゃないで!」


「はぁっ!?」


 服を手にした瞬間絶叫した正宗と共に、柚乃も声を荒げた。

 精霊の糸、ダンジョン内に稀に住む精霊と呼ばれる存在が編み出す糸であり、毛糸の玉くらいの大きさで億は下らない。


 現在精霊が確認されているダンジョンは国内に存在しないとされており、精霊の糸はその全てを輸入に頼っている為市場に出回ることは非常に稀である。

 というのは一般的に語られる表の話だ。


「ほう、さすが三条家。瞬時に理解するか、これはアユハに素材の調達を頼んだものでな、ご明察通り精霊の糸から作ったものだ」


「にしてもこりゃ、そこら辺の精霊の糸じゃないやろ……どこでこんな高品質なモンを」


「それは企業秘密だな」


 俺はフフンと笑ってみせた。

 実はこれは数日前に千代田ダンジョンで取ってきたものである、千代田ダンジョンは一般公開されていない皇室御用達のダンジョンで、俺が知る限り精霊の存在が確認されている国内唯一のダンジョンだ。


 とある縁によって俺はそこでの探索が許されていた。

 一般公開されていない故、千代田ダンジョンはダンジョンカードがなくても探索が可能、この素材は市場に流通させないことを条件に特別に持ち帰ってきたものである。


「じゃあ全員お着換えタイムってことで!」


 俺の号令と共にそれぞれが別の部屋に入っていき、着替えを済ませた全員が円卓に再び集った。


 身に着けた全身黒の制服には所々に金糸の刺繍が入っており、軍服を連想させるデザインのフルスーツにミリタリーブーツ、まるでマントのように大きなコートを羽織ることが出来る。


 男はズボンだが、女子のものはドロシーが横が開いているサイドスリットのロングスカート、その隙間から覗く魅惑的な太ももは煽情的だ。

 柚乃はショートパンツ付きの前面が開いているスリットロングスカートであり、元気な柚乃にはぴったりの装いと言えるだろう。


「見た目もなんていうか……あんたの趣味?」


 苦笑いしながら柚乃が俺に問いかける。


「勿論だ、まぁ趣味だけじゃないけどな」


「ワイはこういうゴタゴタしたのは好かんのやが……」


「そう言うと思ってお前のだけ上はタンクトップにしてるだろ?」


 コートの端を掴みながらうへぇと笑う正宗。

 そんな正宗をよそに全員を円卓に座らせる、同じ服を来た人間が集まって円卓を囲う光景は中々どうして壮観だ。


 俺は机の上で手を組む、ドロシーは自分で作った服を見ながら「フフ、私はやはり天才」などとうわごとのように呟いているが、ガン無視で進めさせていただく。


「元々あんたのギルドカード発行の為にギルド設立したわけだけど、これからどうすんの?」


「その話を始める」


 柚乃の疑問に対する返答として、俺は全員に書類を配った。


「これは、漆黒旅団のこれからの予定だ」


 所謂、事業計画書である。

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