第5話 午後三時同盟?ダッサ(笑)

「午後三時同盟て、これが日本の大手ギルド? はは、日本の未来は明るいな」


 あえて隠さず馬鹿にしたように言うと、案の定柚乃は顔を真っ赤にして叫ぶ。


「し、仕方ないじゃない! ギルマスたちは元々しがない四人パーティーで、ノリで決めたギルド名のまま大きくなっちゃったのよ! 確かにダサいけど……ダサいけど!!」


 おい自分のギルドだろ二回も言ってやるなよ、ギルマスさん泣くぞ。

 元々柚乃のギルドに入る予定は無かったが、新しく入らない理由が出来て有難い限りである、ないわ~。


 午後三時同盟のファンの方には申し訳ないが、名刺にそんな名前書いてあったら吹き出す自信しかない。


「ギルドはね、大きければ大きいほど入った時の恩恵も凄いのよ!」


「ほう?」


 何故お前がそんなにドヤ顔できるんだとツッコミたくなるほどの清々しいドヤ顔を柚乃が披露している。


「まず後ろ盾としての効果ね、大きいギルドに入っているだけで探索者にとってのステータスになるの! 変な揉め事にも巻き込まれないし、何なら羨望の眼差しで見られるわ! あとはギルドメンバーだけが使える施設とか、一般に出回らない情報を先に入手できたりとか、税金関連お任せしたりとか!」


「はーん」


「他にもギルドには我々ダンジョン庁やダンジョン業界企業と共に、新規の武具開発やダンジョンにまつわる研究などに協力してもらったりもしているんだ」


 つまりこれはあれだ、芸能事務所のていを成した企業体だ。

 ネームバリューと福利厚生でダンジョン探索者というタレントをプロデュースし、マネジメントする、配信やダンジョン探索で得た収益から利益を得ているのだろう。


「ま、勉強になったよ」


「もちろんウチに入るわよね? あんた位ならきっと直ぐに役職持ちになれるわ! 午後三時同盟の役職付きなんて、全ての探索者の憧れよ!? そしてあんたを連れてきた功績で私も役職持ちになるの!」


「いや入らないけど」


「え」


「ん?」


 何故か嘉一まで疑問の表情を浮かべている。アレ? おかしいなぁ? じゃないのよ、顔が物語ってるのよ、口には出してなくても伝わってくるのよ。

 てか柚乃に関しては俺をダシに出世する気満々じゃねーか!


「午後三時同盟には入らないよ、まぁ他のギルドも調べてみるけど……」


「けどなによ!」


 頬をぷくっと膨らませて、腕を組んだ柚乃が不機嫌そうに言い放つ。


「自分で作ろうかなって」


「ギルドをかい?」


 嘉一が身を乗り出してきた。おいやめろ、おっさんに近づかれても嬉しくない。

 てか怖い。


「あ、ああ。ずっと社畜だったからな、自由を求めて探索者になったんだ。もう誰の下にも付きたくない。勿論嘉一さんが言ってた何処かのギルドに入って欲しいっていうのがこういう意味じゃないことは分かってる、それでも俺はこれを曲げるつもりはないよ」


「そう、か。まぁ本来探索者とは自由なものだ、どこかのギルドに入ってもらうことは諦めよう」


 おや? 意外とすんなり引いてくれるんだな。


「ではギルドの設立条件だが、まず設立申請金が百万円必要になってくる。それと祐樹君含めた最低四人の初期メンバーが必要だ、この条件を満たしてギルド設立が成されたら君の探索者カードを発行しよう」


「ん?」


「ん?」


「え、いやいや。ギルド成立が成されたら? あんたさっき"本来探索者とは自由なものだ"ってカッコつけて言ってたよな? え? 自由のじの字も無いんですけど!? 俺明日初配信って言っちゃってるんだって!」


「え、じゃあどこかのギルドに入ってくれる?」


「いやです」


 無論即答だ。

 とはいえ不味いことになった、これは言外にここが落としどころだと伝えてきているのだろう、設立金の百万円という部分は貯金があるので問題ない。


 しかしやはり問題なのはメンバーだ。話を聞いている感じ思った以上に探索者界隈は物騒らしい、俺目当てでギルドメンバーが襲われましたなど洒落にならない。

 つまり自衛が出来るか、もしくは襲われても心が痛まないメンバーを集める必要がある。

 うん、後者だな、適当に集めよう。


「私、入ってあげようか?」


「ふぇ?」


 変な声が出てしまった。


「私言ったわよね? 私は面白いと思った道を進むの、今入っている午後三時同盟に不義理だとは思うけど、私はギルドの中で役職ももってないヒラ。脱退して他の大手ギルドに所属しちゃったらちょっと問題かもだけど、新設ギルドの立ち上げメンバーならよそからは独立として映るし、大丈夫だと思うわ!」


 そう言って俺にビシッと指を指す柚乃はふふん、と得意げな表情を浮かべている。


「ちょ、ちょっと待ちたまえ柚乃君、午後三時同盟から脱退する? きみ、午後三時同盟に入るのがどれだけ難しいと思っているんだ、新規加入の倍率は五千倍を超える超大手ギルドだぞ? その肩書を捨てるのかね、人生の分水嶺だぞこれは!」


「別に私は配信で生きていけるし、それなら直感で面白いと思った道を進むのみよ!」


 嘉一が慌てながらそう口にする、おろおろと両手を震わせていた。

 本当に言うとおりだ、この天然美少女は何を言っているのだろう? 先ほどまで所属ギルドの自慢話をドヤ顔しながら説明していたのに、急に抜ける?

 絶対情緒不安定か多重人格かのどちらかに違いない。


「ふむ」


 俺は少し考えながら顎を擦る、目の前では嘉一と柚乃がわーきゃーと騒いでいるが最早その喧騒は耳に届かない。

 実に面白い流れだ、正直俺はダンジョン配信者として好きな事して生きていければそれ以上は望んでいなかった。


 しかし……


「面白い」


 どうやら俺はダンジョン探索者の中でも実力は高い方らしい、他と比べる機会が殆ど無かったので自覚は無かったが、散々説明して貰ったお陰で理解はした。


 そんな俺と、登録者三十万人を超える大人気配信者の柚乃、そしてぼんやりと脳裏に浮かぶ二人の姿を思い浮かべる。

 図らずも口角が上がった。


「よし、一緒にやろうぜ柚乃」


「え? いいの!?」


「祐樹君!?」


 思い描くは最強へと至った姿。

 元社畜が、個人として、組織として最強へ至ったその光景は非常に俺の琴線を刺激する。


 男の子だもん、やっぱり浪漫を求めないと損だよね!

 配信者になるという目的は通過点と化し、進むべき道の輪郭を捉えた。


「柚乃、最強になろう」


 ニヤリと笑ってそう言えば、柚乃も満面の笑みでサムズアップを返してくる。


「はあ、まぁ私に止める権限はない、好きにしたまえ」


 嘉一は半ば諦めた表情で手をヒラヒラと振っていた。


「じゃあ私はギルドに報告してくるわ!」


 その日は柚乃のその一言でお開きとなる、俺は去り際に見た死んだ魚のような目をした染谷さんを忘れることはないだろう。

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