第3話 ダンスマの死神?ダサすぎだろ【20240629改稿】
「ちょっとあなた! 起きなさい!」
「んん?」
夢の中でチヤホヤされている中、唐突に俺はたたき起こされた。
「あれ? キャバクラで新しい女の子の胸に万札入れてたんだけど、あ、新しい女の子?」
「ぶち殺すわよ?」
おや物騒、よく見れば麗しの剣姫サマが俺の身体を揺すっていた。
どうやら教習は終わったらしく、だだっ広い部屋の中には俺と柚乃しかいないようだ。
「寝てたのかぁ、ふわぁ~~」
でかい欠伸が出た、俺を見下すように立っている柚乃は額に筋を浮かべている。
「全く、あなた全然教習聞いてなかったみたいですけど大丈夫ですか? ダンジョンは配信で観るのと実際に潜るのでは全然違うんですからね!?」
「分かってるよ……」
俺だって数えきれないほどダンジョンに潜ってきたのだ、それなりに探索者として大成する自信はある、居眠りしていたのは良くないが……いや、眠るほどつまらない教習をした者の責任ではないのだろうか?
「あなた、もしダンジョンで死にそうになっても助けてあげませんよ!? 嫌なら明日の教習にも出席すること! 私が係の人に言いますから!」
「はっ、はぁ!? それは無いだろ、俺は明日初配信なんだよ!」
「知りませんよ! 私の教習受けた人の初配信が死亡配信とかマジで笑えないんで!」
「死なねーよ!」
「なんと言われようと明日の教習には……」
柚乃が人差し指を立ててそう言った瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた。
「祐樹さんまだいらっしゃいますか!?」
「染谷さん、どうしたんですかそんなに慌てて」
俺が返事をする前に柚乃が駆け込んできた染谷さんに反応した。
教習で渋谷ダンジョンがホームと言っていたし、面識があるのだろう。
「あ、柚乃ちゃん……に祐樹さん! 良かったまだいらっしゃったんですね、至急お越しください!」
「は?」
有無を言わせずといった様子の染谷さんに引っ張られて身を起こす、隣に立っていた柚乃が怪訝な表情を浮かべていた。
「あんた、何かしたの?」
「いや知らねぇよ……」
「そうだ、もし宜しければ万が一のこともありますので柚乃さんにもご同行いただけませんか!? お二人は仲が良い……んですよね?」
疑問形を付けながら染谷さんが俺たちを交互に見る、残念ながら初対面で口喧嘩する程の仲でございます。
「いや初対め……」
「ええ、いいわよ?」
「ちょ、おい!」
この女何を考えているんだ!? 突っ込みを入れる前に、俺と柚乃は染谷さんに袖を掴まれる。
「では行きましょう! 局長とお話していただきます!」
「「はぁっ!?」」
俺と柚乃の声がハモった。
連れられるまま、状況も理解できずに重厚な扉の前で俺と柚乃は待機させられている、染谷さんは今室内で局長と話をしているそうだ。
「あんた本当に何しでかしたのよ、探索者登録したその日に局長に呼び出されるとか前代未聞よ? というかそもそも私レベルの探索者でも局長と話すことなんてそうそう無いんですけど!?」
隣に立つ柚乃は怪訝そうな表情を俺に向けてくる。
ジト目だ、悔しいが可愛い。
「知らねーよ! てかなんで付いてきたんだよ!」
「そんなの面白そうだからに決まってるじゃない、私面白いと思った道を進むの。そうやって生きてたら探索者になって配信者にもなってたってワケ」
どうやら中々良い性格をしていらっしゃるようである、絶対学校とかでクラスメイトが怒られているのを嬉々として見ていたタイプに違いない。
というかいつの間にかタメ口になっているし、生意気なクソガキである。
「本当になんなんだ? 身に覚えが無さ過ぎて逆に怖いんだけど」
俺がそう呟くと、眼前の扉が開いて染谷さんが姿を見せた。
「先に祐樹さんだけご入室いただけますか?」
「え、嫌です」
「えぇっ!?」
おっと口に出ていたようだ、しかし仕方がない。だって開いた扉の先に見える局長っぽい男の人めっちゃ怖いんだもん。
なにあれ? 公務員ですよね? なんでそんな歴戦の猛者みたいな雰囲気出てるの? メリ〇リクス大佐みたいなんですけど、無理なんですけど。
「柚乃と一緒じゃないと入りません、無理です」
俺はそう言って隣の柚乃を指さした。
「なにあんた名前で呼んでるのよ、やめてくれない? 馴れ馴れしいんだけど」
「おいおい~、俺たち仲良しだってさっき染谷さんに言ったばかりだろ~? 照れるなよ~」
俺がそう言いながら肘で突くと本気で嫌そうな表情をされた、流石に美少女にそんな表情をされると新しい扉が開いてしまいそうなので自重願いたい。
「と言われましてもですね、えーっと、祐樹さんの探索者ランクに関わる事でして、プライベートな情報も含まれますが……その、宜しいんでしょうか?」
オドオドと染谷さんが訪ねてくる、そうそう、俺は女性にこういうのを求めているのだ。決して嫌な顔で睨まれたいわけではない。
「うーんプライベートと言ってもなぁ、俺は別気にしないぞ?」
「私はあんたが気にしないなら別に良いけど? 面白そうだし」
「ならやっぱ二人で」
俺はそう言って指を二本立てる、染谷さんは諦めた表情で溜息を吐いて俺と柚乃を部屋へと案内してくれた。
「ほぅ、結局柚乃君も付いてきたのか、二人は元から親交があったのかね?」
「あー、えぇ、まぁ」
メリ〇リクス大佐のような強面の大男がワーキングデスクの上で手を組んでいた。
左の額から顎までかけて火傷後のような大きな傷跡が残っており、分厚い胸板とタイヤのような腕は只者ではない雰囲気を醸し出している。
「初めまして、阿由葉祐樹です。その、私が何かいたしましたでしょうか?」
多少カタコトな返事になってしまった感も否めないが、別にビビってない……本当にビビってない、うん。
なに、ここまで怖そうな男は初めてだが、伊達に六年間荒くれ者の多いダンジョン業界で働いてきた訳ではないのだ、慣れてしまえばなんてことはない。
「ああ、急に呼び出して申し訳ない。私は
そう言って嘉一は椅子から立ち上がり握手を求めてきたので、俺の手の数倍はデカい手と握手を交わした。
「さて、どうぞ掛けてください」
嘉一は笑みを浮かべると、ローテーブルを挟んだ高そうなソファへ案内する。
「あ、はい」
俺と柚乃は局長と向き合うようにソファに腰かける、染谷さんは局長の後ろでお茶を淹れてくれているようだ。
「さて、柚乃君がここに来てくれていることに関しては、実は我々にとっては都合が良いんだ、ありがとう。早速本題に入るが、今回来てもらった理由としてはズバリ祐樹君のダンジョンカードと探索者ランクに関してだ」
「はぁ」
「実は君の事は知っていたんだよ、ダンスマの死神。我々の業界では有名人だぞ君。まぁ祐樹君がそのダンスマの死神だと知ったのはさっきだけどね」
ダンスマの死神? なんだそのクッソダサい二つ名的なものは。
それが俺を指しているって? 鳥肌が立ってきたぞおい。
「ちょっと待って、こいつがあのダンスマの死神なの!?」
柚乃も知っているのかよ、なんか背中がゾクゾクしてくるので本当に止めていただきたい。
「なんですかそのダンスマの死神って」
「本人理解してないじゃない!」
柚乃の痛烈なツッコミが入るが、今は一々相手をしている余裕はない。
自分の知らないところで痛々しい二つ名が広がっているなど高校生の頃なら喜んでいた可能性が高いが、精神が成熟しつつある成人男性には堪えるものがある。
「ダンジョンスマイルズの死神、略してダンスマの死神と呼ばれている謎の探索者のことだよ」
「ダンスマって俺の古巣かよ!」
「古巣なの!?」
まさか古巣がダンスマなんていう略称で呼ばれているなど露程も知らなかった俺は思わず声を荒げる。
何故か隣で俺以上に絶叫している柚乃は無視だ。
「どんな深層だろうと、どんなに難しい依頼だろうと受注から半日で納品まで行う化け物じみた人物……ダンジョンスマイルズお抱えの探索者、まさか会社を辞めていたとはね。ダンジョンスマイルズもこれから苦労するな」
そう言って面白そうに笑う嘉一、しかし俺は腑に落ちない。
「ちょちょちょまてーい! 俺は確かに半日納品を心がけていたが、それは会社の方針で、俺以外もみんなそうだっただろ? それに俺は救助が主で、討伐系の依頼なんて殆ど受けたことないんだぞ? なのに死神ってなんだよ!」
「いや何言ってるんだ君、どこの世界にダンジョンの深層に潜って要救助者や遭難者を探しだして半日で戻ってくる探索者がいるんだい」
「……え?」
「それに救助依頼なんて大抵が死体になった探索者の遺体と遺品回収だ、生きてるケースなんて殆どない。全身黒スーツの男が死体担いでダンジョン内を闊歩していれば、傍から見れば死神さ」
ちょっと待て、俺以外のやつらは半日で戻ってこない? じゃあ俺がずっとやってきたことって一体……だってあれは会社の方針で、即日納品が会社の強みだからって言われ続けてて……
俺は茫然自失になりそうな精神をぐっと堪え、嘉一に向き直る。
「一旦理解した、いやしては無いけど今のところは理解したことにしておこう、それで本題は?」
最早敬語を使うのも忘れてしまっていたことに今更気付いたが、別に怒られそうな雰囲気でもないので忘れることにする。
「あー、実はだね……ダンジョンカードは業務用から個人用、もしくは個人用から業務用に変えるときに以前のカードの情報を引き継ぐことが出来るんだ。しかし……なんというか恥ずかしい話なんだが、この国のダンジョン周りのプログラムは少々遅れていてね。業務用のカードは個人用と違い、通常カードに記載されるデータが所属している法人内のデータベースでしか見れないという欠点がある。無論我々でも見ることは出来るんだが、それは見ようとしたときのみだ」
「つまり?」
「そこの染谷君含め、我々は君がこれまで何をしていたのか、それを正確に把握していなかったということさ。今回君がダンジョンスマイルズを退職して、個人用のカードを作ろうとしたことで初めて我々は君の業務用カードの情報を閲覧した、信じられなかったよ」
「どういうこと?」
柚乃が横から口を挟む、嘉一が視線で俺に「いいのか?」と問いかけてきたので俺は頷いた。ここまで来てしまえば今更である。
「これを見たまえ」
そう言って嘉一がローテーブルの上に出した書類には、俺のダンジョンカードに刻まれていたであろう情報が記されていた。
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名前:阿由葉祐樹〈あゆは ゆうき〉
年齢:24
所属ギルド:無し
所属パーティー:無し
登録武具:鋼線【無銘】
階層主討伐数:2011体
ダンジョン探索総数:3084回
国内等級:特等
国際ランク:S+(海外ダンジョン未探索の為)
【ダンジョン探索記録】
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【東京】渋谷ダンジョン:984回
最高到達階層:96層
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【東京】新宿ダンジョン:652回
最高到達階層:87層
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【千葉】習志野ダンジョン:542回
最高到達階層:100層
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【東京】千代田ダンジョン:232回
最高到達階層:■■■層
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【東京】原宿ダンジョン:195回
最高到達階層:89層
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【大阪】天王寺ダンジョン:154回
最高到達階層:98層
――――――――――――――――――――
【北海道】札幌ダンジョン:102回
最高到達階層:95層
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【宮崎】宮崎ダンジョン:67回
最高到達階層:99層
――――――――――――――――――――
【北海道】網走ダンジョン:37回
最高到達階層:92層
――――――――――――――――――――
未登録ダンジョン:119回
最高到達階層:124層
ダンジョン庁による認可が必要
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「化け物ね」「化け物だ」
一緒になって紙を覗き込んでいた柚乃と嘉一が同時にそう呟き、染谷さんは遠くを見つめたままぷるぷると震えていた。
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