それは決して語られる事はなく
私は珍しく帰ってから食事の用意をした。
いつもは兄貴がご飯を炊いて、冷蔵庫の中身でなんらかを作る。
お母さんは少し前までは自分の買ってきた野菜だのなんだのを調理する事に張り切っていたが、今は言われたものを買って来て、兄貴の手伝いをするのが定例となっている。特に従うとかそうでないとかではなくて、やってくれるようになったらその分自分の時間が増えたというただそれだけなのだが。
今日は兄貴が風邪で、移ったのか母さんも少し体調が悪そうなのだ。
ちゃんと母さんに火と包丁の扱いから教わったのだ、やってやれない事はない。
とはいえかなりおっかなびっくりではあったが。…多少ミスもしたが食えない事はなかろう。
お父さんは既に風邪を引いて治っていたのでそこから移されたのは正直間違いないが、仕事で疲れているだろうからそれもまたしょうがない。むしろ療養しながら最低限テレワークをしていたのだからかなりの偉さと言える。
無理せず休めばいいのに、逆に助かったみたいな事を言っていてなんかなーと思った。自分がこんな働き者の遺伝子を受け継いでいるとはとても思えない。
…勿論血が繋がっていないとかいうそういう話では本当にないのだが(メメタァ)
例えそうだったとして、別に何が変わる事もない。私も彼等も、全く態度を変える事はなかろう。そっちの方が楽だから。それ以上に、そんな事で苦労をする意味が全くないからだ。
小さい頃、そういう悪夢を見た事がある。
ある日突然知らない人間のように扱われ、一人ぼっちにさせられて知らない家に引き取られるのだ。…いやだから伏線とかじゃないんだってば。(メッタメタァ)
ともかく。特に問題がないのだ。今日も今日とて趣味に興じるのはオタクの家系に生まれた者の当然の権利として行使させてもらう。…今日だってバイトしてるし!
うーむ、仕事のせいか倦怠感がある。
集中を欠くつもりは毛頭ないが、今日はガチのルールだと多少問題があるかもしれない。…しかしバイト(ゲーム内の方)も既に報酬は十分受け取って、これ以上やるのは修行に近い状態だ。よし縄張りを…
そこである事に気づいた。よくよく思えばいつもガチルールは二種類遊べるのだ。
そもそもガチルールはオープンとチャレンジの二つで区切りがなされており、
同じ時間帯でもそれぞれ別のルールで挑む事ができる。
そして、チャレンジは3回負けるとごっそり減っておしまいの代わりに一定数勝ち抜けると沢山のポイントを得ることができる。オープンは一回ずつポイントが変動するが、その量はごく僅かだ。…少なくとも今のランクでは。
すっかり得意となったアサ…違う、ホタテは今はやっていない。
そして何に気づいたのかと言えばしょうもない話で、
ガチエリ…ゾーンなら実質縄張りモードと変わらないのでは?という思いつきなのだった。(※そんな事はない。ただの対人ジャンキーである。)
~数分後~
「ギャーッ!」
自分でもびっくりするほど大きな声が出た。
疲れているんじゃなかったのか私は。いやそれよりも。
今の死因は…チャージャーだ!
たまには私が説明しよう。チャージャーは…射程が長いのだ!
説明終わり。
…
勿論それだけではなくて、突発的な威力でこの武器に比肩しうるのは後は近接武器とブラスター位のものだ。
なんせ当てさえすれば相手が一発で倒せてしまうのだから。
…当てさえすれば!
自分でもノリノリのスナイパー気取りで担いでみた事があったが。これがもう全くと言っていいほど当たらない。それも少し下手かなー程度では済まず、もはや全然役に立っていないと断言できるほどに当たらないのである。(そのリザルト、堂々の0キル/9デス/0ノンスペシャル!)
完膚なきまでにぼこぼこにされ、もう味方に申し訳ないというか途中から相手に無視されているような気すらした。当然カモられる相手にはカモられているのだが。
逆にワイパーやローラーを担いだ時は意外と相手に近づけるチャンスが巡ってくる。その場合の近接武器の頼もしさったらない。少し相手の弾を避けてやるだけで必ず立っているのは自分だけになるのだ。(当然のように表示されるワイプダウン)
もはや私がチャージャーを持つ事はあるまい。
返す返すも理不尽だ、何故相手のチャージャーはこんなに当たるのか!?
野良で出合った人たちも平気で私と並ぶか自分が倒されたくらいはちゃんと相手を倒している。こうなると私が苦手なのは間違いないだろう。
よーし復活した。(長い)今度こそ相手のチャージャーを見つけてぶっ倒してやる!
「イヤーッ!イヤーッ!グワーッ!」
裂ぱくの気合を込めて射線の見える方へ突進し、華麗に弾を避けて接敵したはずがどうやら相手は崖の後ろに隠れてしまったらしい。これでは攻撃が届かない…!そう思った瞬間に脇から撃たれてやられた。うーむ、ここ以外あいつを直接狙える場所はほとんどない。マップやガチゾーン(!?)を回り込んでいけば狙えなくもないだろうが、それこそ良い的だ。相手の集団を突っ切る事になるし、この高台は…強すぎる。
元々どんな武器も高台から撃つと相手との射程差が大きくなって強く扱えるのだが、チャージャーは特別だ。”当たりさえ”するのなら本当に無敵に等しい防御力がある。多少届かない場所はあるが、それがゾーンとその横をカバーできない事はほとんどない。下手するとこちらの高台まで届く勢いなのだ。
うーむ、しょうがない。あっちの方向を見ながら!
チャージャーはタメが必要なだけでなく、自分の射線が常に見えているという欠点が用意されている。それくらい避け切って他の相手をする事など私に掛かれば朝飯前だ。
射線が”来そうになる”たびに少し横にズレる。例え一撃で倒れる弾だってこうすれば殆ど当たる事はない。…物凄いニアピンを掠めて行った気はするが。避けようと思えば意外なほど当たらなくなった。後は何時も通りだ。牽制としてボムを相手の高台に投げ、他を一人ずつ切り崩す…っ!
「オラァ!二度と私に逆らうなよ!!!!!」
後には破壊されつくしたインク髪のチャージャーとかだけが残った。あああとリザルトは普通に13/3/5になった。相手を二人倒す頃には大抵スペシャルが溜まっているのだ。残り二人に撃たない理由などない。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
当然リスポーン前まで〆ようと突っ込んだらまた突然爆発してしまった。相手のチャージャーからすれば最後の最後で一矢報いてやったという所だろう。
試合は勝ってもあまりの理不尽にトドメの絶叫は留まる事を知らない。
…とはいえ勝ちは勝ちだ!心の底からガッツポーズを決めていると、ご飯の入ったお腹がぐるぐる言い出した。しまった、どうやら集中しすぎたらしい。まだ痛くなるほどではないが、なんらかのストレスが一定以上かかると私のお腹はいつもこうだ。
そしてはたと気づいた。この部屋にはもう一人体調の悪い人が居たような気がする。そしてそこでめっちゃ大声で叫んだような気がするぞ???おかしいな???
「ゲッホ」
これまで黙っていた兄が唐突に咳き込みだした。これは同居人がうるさすぎる時の、半分意図的に咳払いをしたやつだ間違いない。(※違う)
「あっごめん!」
「…い”いよ”」
「ッスゥーごめん」
明らかに辛そうなのに返事という無理までさせてしまっては流石に申し訳ない。
追加でもう一回謝っとこう。
「良”い”っつって”ん”だろ”!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「!?!?!?!?!?!?」
爆音だった。兄貴がここまで声を荒げる事はほとんどない。
昔父さんに折檻を喰らってブチ切れた時だってここまでの声ではなかった。
どうしよう、私何か気に障る事を…
「ああ…悪い…ごめん。…嫌な…夢”を見たんだ…」
…ああ、そうか。
私の顔を見て、すぐに言い訳を述べる兄。全く情けない兄貴だ。
それなら私のすべきことは決まっている。
「…うん。大丈夫だよ。」
誰だって、私だって寂しい事ぐらいある。
余裕が無くなって怒るのだって、ただ方向性が違うだけだ。
それは”不幸”によるもので、誰が悪いという訳でもない。
「ごべん”」
だから、風邪っぴきの見た夢など受けとめて、無かった事にしてあげよう。
…謝ってる事だし。
「大丈夫」
きっと、それが一番いい。
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